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26 銭ゲバ商人との別れ

 お城へ向かう前に、私はジュリアンさんと一緒にアルヴェリア王国の王都の市場へ買い出しに来ていた。


「すごい……なんて綺麗な街並み……」


 私は辺りを見回しながら、思わず感嘆の声を漏らした。

 整備された石畳の広い大通り。通りに立ち並ぶ屋台からは、香辛料の効いた肉の焼ける匂いや、甘い焼き菓子の香りが漂ってくる。

 両側の建物は二階建て以上の建物も多い。

 しかも大通りに面している窓という窓には、惜しげもなく高価な透明ガラスが嵌め込まれ、夜道を照らすために、魔力灯が等間隔で設置されている。

 店先に並んでいる商品も、母国では貴族しか使わないような発火の魔石が組み込まれたコンロや、自動で温度調節をしてくれるという高級な魔法布が、ごく一般の市民向けとして売られていた。

 行き交う人々の服装も、どこか洗練されていて華やかだ。


 私の母国は、ぶっちゃけ特筆すべき産業もない小さな国。

 辺境のルシェルシェはおとぎ話みたいに可愛い街だけど、ギルド以外はほとんど木造建築物だし、王都でさえ、こんなに魔法道具マジックアイテムが普及してはいない。

 実家のある貴族街の屋敷あたりも、静かというか地味というか。


(これが、アルヴェリア王国……。レオンさんは、こんなに大きくて豊かな国の王子様なんだ)


 私がのんびりと小銭を稼いでいた間にも、彼はこの大国を背負い、最前線で命を懸けて剣を振るっていたのだ。

 圧倒的な国力の差、そして彼が生きている世界の『格差』を肌で感じて、少しだけ足がすくむ。

 こんな大国の王子様相手に、他国の、しかも実家を追い出された元令嬢が会いに行くなんて、やっぱり身の程知らずだっただろうか。


「おや、どうしたんだいユフィ君。そんなに曇った顔をして。何か買い忘れでも?」


「あ、いえ。なんでもないです。ジュリアンさんの方は、出発の準備は終わったんですか?」


 私が首を横に振ると、馬車に荷物を積み終えたジュリアンさんが、キラキラと眩しい笑顔で頷いた。


「ああ! 昨日の夜会で、この国の貴族たちから大量の受注を取り付けたからね。王都の問屋に在庫を卸したから、これで身軽になった。私はこの足で、さらに西にある宗教国家へ向かい、残りの商品を売り込んでくるつもりさ」


「ここからさらに他国へ!? フットワーク軽すぎませんか!?」


「時は金なり、商機は待ってくれないよ」


 本当に逞しい人である。

 私がお城に潜り込むため向けて、最低限の洗面用具や日用品を買い揃え終わると――ちなみに今後の生活資金を残すために限界まで値切り交渉をした結果、おまけで高級石鹸を二つも貰うことに成功した――ジュリアンさんは私の肩をポンと叩いた。


「道中は君の圧倒的な費用対効果コスパのおかげで、素晴らしい旅路だったよ。君を雇ったのは私の商人人生でもトップクラスの正解だった。そうだ、これは我が商会からの特別報酬だ。これでお城の貴族たちにガンガン宣伝してくれたまえよ!」


「それ昨日試供品っていってたやつでは……でも、ありがとうございます」


 私も、ジュリアンさんの馬車のおかげで無事に王都まで来られたのだ。


「うむ! 君はお城に働きに出るんだったね。いいかいユフィ君、王宮は特権階級の宝庫だ! 私がいずれまたこの国へ商売に来た時のために、今のうちに有力な貴族や王族との強力なコネクションを作っておいてくれたまえ!」


 爽やかなイケメンフェイスで、とんでもないミッションを丸投げしてくる。

 さすがは銭ゲバ商人、別れ際まで一切の無駄がない。


「あはは、善処します。道中、お気をつけて!」


「君もな! さらばだ、私の最高のビジネスパートナーよ!」


 ジュリアンさんは颯爽と御者台に乗り込むと、次の利益を求めて、新たな国へと馬車を走らせていった。

 あっという間に遠ざかる馬車を見送った後、私は小さく息を吐いた。


「よし。まずは、お城に潜り込まないと」


 私は懐から、昨日の夜会で親切なお兄さんから貰った紹介状を取り出した。

 圧倒的な格差も、身分の壁もあるけれど。


 それでも私は、自分の足でレオンさんに会いに行くと決めたのだ。

 ここまで来ちゃったんだから、手ぶらで帰るわけにもいかない。


 やらない後悔より、やった後悔って言うしね!


 気合を入れ直した私は、ローブのポケットを軽く叩き、アルヴェリア王宮の立派な通用門へと向かって歩き出した。

 もちろん、御守り替わりの、翡翠色のガラス玉が嵌った、ネックレスも身に付けて。

 服の下で肌に触れるその冷たいガラス玉は、あの人の真っ直ぐな瞳と同じ色をしている。

 それを服の上からギュッと握りしめると、不思議と先程までの足の震えはスッと消え去っていた。


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