25 いざ、仮面舞踏会へ
道中、何度か野盗や魔物に遭遇したものの、シロの『絶対隠蔽結界』と私の【待機】スキルによる究極のエコ戦法のおかげで、私たちは予定通り、無傷かつ低コストでアルヴェリア王国の王都に到着した。
「素晴らしい! 君のおかげで過去最高の利益率を叩き出せそうだ! さて、私はこれから貴族の夜会に潜入し、最高級シルクの売り込みをしてくるよ!」
「頑張ってくださいね、ジュリアンさん。私はお城に行く方法を探しますので」
私が手を振ろうとすると、ジュリアンさんは美しい顔でニヤリと笑った。
「おや、君も来るんだよ? もちろん、護衛兼パートナーとしてね。夜会に一人で参加するのは不格好だし、何より現地で同伴者を雇う経費が削減できるからね」
さすが銭ゲバ商人、一切の無駄がない。
私は魔女のココちゃんが餞別にくれた、暗器やアイテム用隠しポケット多数の『フリル増し増しドレスローブ』を身に纏い、ジュリアンさんと共に夜会の会場である貴族の館へと向かった。
★
本日の夜会は、顔を隠して参加する『仮面舞踏会』だった。
会場に到着するなり、ジュリアンさんは「では、新規顧客を開拓してくる!」とシルクのサンプルを抱えて嵐のように去っていく。
ポツンと残された私は、とりあえず会場の隅にあるビュッフェコーナーへと陣取った。
(タダで美味しいものが食べ放題……! これなら明日の朝食代も浮くわね!)
レオンさんが以前私を雇ってくれたおかげで、そんなにケチらなくても、普通に生活する事はできるけれど、この世界で女一人で独立して生きていくことを考えると、やっぱり節約しておかないといけない。
この先どうなるか、わからないし。
私は目立たないように仮面の位置を直しつつも、ここぞとばかりローストビーフをお皿に盛って、無心で頬張っていた。
すると、ふわりと隣に気配がした。
「美味しそうに食べるね」
「へ?」
声をかけてきたのは、狼を模した銀色の仮面をつけた長身の青年だった。
ジュリアンさんのようなキラキラした美男子でも、レオンさんのような冷酷な死神オーラでもない。
どこかレオンさんに雰囲気が似ている気もするが、もっと穏やかで、親戚の優しいお兄ちゃんといった朴訥とした空気を纏っている。
「ごめんね、驚かせて。僕も、こういう華やかな場は少し苦手でさ。つい壁際に逃げてきてしまったんだ」
青年はそう言って、優しく微笑んだ。
仮面でもちろん顔は見えないけれど、雰囲気的にたぶんイケメンなのに全然気取っていなくて、なんだかとても話しやすい。
「あ、私本当はゲストじゃないんです。主が、離席しておりまして。一応、護衛なんですけれど、ルールで仮面被らなくちゃいけないみたいで」
「護衛のお仕事かい? 君みたいな可愛らしいお嬢さんが一人でいるなんて、随分と放任主義な雇い主だね」
「あはは、経費削減がモットーの方なので。でも、私も『会いたい人』がいたので、丁度良かったんです。自由に動けますし」
「へえ、会いたい人。……それは、この夜会に参加しているの?」
親身になって聞いてくれる青年に、私は曖昧に頷いた。
「この夜会に参加しているかはわかりません……でも、こういった場所にはお仕事で?顔を出したりするかもしれないので……」
「とすると、王都の貴族なのかな」
「えっとー」
(アルヴェリアの第二王子様です)
……とは、さすがに言えなかった。
一介の護衛が、「王子様に会いに来ました!」なんて言ったら、頭がおかしい不審者だと思われてしまう。
「その、えっと……王……、お城で働いている人、です!」
慌てて言い直すと、青年は「なるほど、お城の勤め人か」と納得したように頷いた。
「でも、お城は警備が厳しいから、関係者じゃないと中には入れないよ。何かツテはあるの?」
「それが、全然なくて。どうやってお城に忍び込もうか……じゃなくて、面会をお願いしようか悩んでいたんです」
私が正直に打ち明けると、青年は少し考える素振りを見せた後、ポンッと手を打った。
「それなら、僕が『紹介状』を書いてあげようか?」
「えっ?」
「君みたいに素直な子なら、歓迎されると思うよ。実は僕、お城に少し顔が利くんだ。お城の『女官』としてなら、すぐに潜り込める……いや、働き始められるはずだよ。仕事の合間に、その会いたい人を探してみるといい」
な、なんていい人なんだ!!
見ず知らずの私に、まさかのお城への裏口就職を斡旋してくれるなんて!
「ありがとうございます! すっごく助かります!」
「いいんだよ。僕も、君のその『会いたい人』への想いを応援したくなったからね」
青年は近くにあった紙とペンでサラサラと紹介状を書き、私に手渡してくれた。
「明日、お城の北通用門でこれを渡すといい。……君の探し人が、早く見つかるといいね」
「はいっ!」
青年は優しく微笑むと、夜会の喧騒の中へと消えていった。
私は手渡された紹介状をしっかりと胸に抱きしめた。
これでやっと、レオンさんのいるお城に入れる!
――しかし。
私はこの時、全く気づいていなかった。
私に紹介状を書いてくれたこの心優しい朴訥な青年こそが、レオンさんと王位を巡って血みどろの争いをしている最大の政敵――『第一王子』その人であることに。
そして。
私が王宮の臨時女官としてルンルン気分で働き始める頃、肝心のレオンさんは未だに「ユフィが見つからない!」と国境付近の森で吹雪を巻き起こしているという、最悪のすれ違いが発生していることにも。




