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20 重すぎる置き土産

(ど、どうしよう。私、とんでもないことに気づいてしまったのでは……?)


 バリオスの陰謀を打ち砕き、無事に辺境のギルドへと帰還した翌朝。

 私は自室のベッドで頭を抱え、一人で悶絶していた。


 これまでの数々の過保護すぎる待遇。

 甘い言葉。

 そして、昨日の遺跡での切実な抱擁。

 どう好意的に解釈しても、「優秀な支援職への待遇」の枠を完全に超えている。

 レオンさんは、私のことを一人の女性として、本気で……。


(いやいやいや! 相手は他国の第二王子様よ!? 私なんて、実家を追放されたしがないギルドの受付嬢なのに!)


 ぐるぐると混乱する頭を抱えながらギルドの酒場へ降りていくと、そこには既に旅支度を整えたシオンさんたちアルヴェリア騎士団の姿があった。

 後ろには、魔力を封じられて簀巻きにされたバリオスが転がっている。


「ユフィ殿、おはようございます。色々とご迷惑をおかけしましたが、我々はこれより本国へ帰還いたします」


「シオンさん、もう出発なんですか?」


「はい。バリオスの件で、第一王子派と第二王妃派の対立がいよいよ泥沼化していることが明白になりましたからな」


 シオンさんは深くため息をついた。

 そして、隣で彫像のように黙り込んでいるレオンさんへ向き直る。


「殿下。改めて申し上げますが、貴方には王宮へ戻っていただきます」


「……断る、と言いたいところだが」


「ええ。殿下がこのまま辺境に居座り続ければ、いずれ王位継承を巡る暗殺者の刃は、殿下の『唯一の弱点』であるユフィ殿へ向かうことになります。ユフィ殿の絶対的な安全を確保するためには、殿下ご自身の手で煩わしい派閥を完全に解体していただくしかありません」


『ユフィの安全』。


 その言葉を出された瞬間、レオンさんの纏う空気が、凄まじい絶対零度の覇気へと変わった。


「……わかっている。俺の至宝を脅かす害虫どもは、王宮の根城ごと俺がこの手で一人残らず駆逐する」


 それはもう、王位継承争いというより、ただの『害虫駆除』を宣言する恐ろしい覇王の顔だった。

 やがて、レオンさんは覇気をスッと収めると、私の方へ歩み寄ってきた。

 そして、私の両手を彼の手で包み込み、酷く甘く、切なげな翡翠色の瞳で見つめてくる。


「ユフィ」


「は、はい……っ」


 彼の好意を自覚してしまった今、至近距離で見つめられると心臓が破裂しそうになる。

 レオンさんは私の指先にそっと口づけを落とし、誓うように囁いた。


「必ず戻ってくる。……だから、俺がいない間、他の男を視界に入れないでくれ。君の瞳に映るのは、俺だけでいい」


「っ……!?」


「すぐに終わらせる。君を迎えに来るから、待っていてほしい」


 顔から火が出そうなくらいの、限界突破の激重な愛の言葉。

 私はコクコクと無言で頷くことしかできなかった。

 胸元では、シロが「きゅるん、主の顔が赤いぞ?」と首を傾げている。


 そして、レオンさんは名残惜しそうに何度も私を振り返りながら、シオンさんたちと共に王族専用の馬車へ乗り込み、王都へと出立していった。


「ふう……行っちまったか。嵐みたいな王子様だったな」


 ギルドマスターのガルドさんが、腕を組んで馬車を見送る。

 私も、寂しさと、少しの安堵を感じながら、大きく息を吐いた。


「さて、今日からまたギルドの受付嬢として――」


 私が言いかけた、その時だった。


「よォ、ユフィちゃん! 今日も可愛いねえ! 後で俺とデート――ヒィッ!?」


 私に声をかけようと近づいてきた若い男性冒険者が、突如として悲鳴を上げた。

 見れば、彼の足元から凄まじい冷気が噴き出し、鋭い『氷の槍』が彼の股間の数ミリ手前でピタリと止まっているではないか。


「な、なんだこれぇぇ!?」


「おいおい、他の冒険者にも氷が向いてるぞ!?」


 ギルド中が騒然となる。

 どうやら、ギルドの周囲一帯に、とんでもない術式が展開されているらしい。


「こ、これは……自動迎撃型の『絶対零度結界』だ! ユフィに近づく一定レベル以上の好意や下心を持った不審者を自動で感知して、氷の刃で威圧する設定になってやがる……!」


 魔法に詳しい冒険者が、顔を青くして解説した。


「あの王子……どんだけ執着してんだよ! 物理的に男を近づけない置き土産とか、やりすぎだろうが!」


 ガルドさんが呆れ果てたように叫ぶ。


(レ、レオンさぁぁん!!)


 私は真っ赤になって顔を覆った。

 彼からの重すぎる愛は、国へ旅立った後も、物理的かつ絶大なスケールで私を包み込んでいるのだった。

 


これ以降、ちょっとの間ユフィとレオンが離れますが、ヒーローはレオンなので!

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