58 国王陛下と執事長
「陛下、今日から訓練兵として、例の子息が入団します」
執務室にやって来た特殊隊の騎士が敬礼をする。
「ああ。そうだな、よろしく頼む。いくら妃の《《遠戚だった》》者とはいえ今は《《平民》》だ。王家の威光を勝手に振りかざしたり、いらぬ諍いを起こさんように《《厳しく丁寧に》》ぐうの音も出ないくらい根性から叩き直してくれ」
「はッ! そのように伝えておきます」
青い騎士服を着た青年が退出した後、陛下は侍従に持ってこさせた王都で配られていた有名ゴシップ誌が出した号外を眺める。
「やっぱりジュリアン・ステューシーはこういう事業の方が向いてるのかも知れんな・・・」
そこに赤い見出しで大きく書かれていたのは
『英雄将軍! 奇跡の帰還! 熊に襲われ川に落ちるも自力で這い上がる快挙!?』
『将軍1年前に極秘入籍!! お相手は美人女性近衛騎士隊長!』
と、まあ。
事実も嘘も織り交ぜた情報が掲載されていた。
××××××××××
執務の時間も終わり、やっとお茶の時間である。
「上手いこと全てが鞘に収まりそうで何よりだ」
私室で陛下が悪戯っぽくニンマリ笑うのを、すぐ近くで見ていた執事長が困った顔を一瞬したがそのまカップにお茶を注いだ。
「今回の騒動は国民まで巻き込んでおりますが・・・」
「? 私は何もしてないよ。ただ、マシューが無事とは言い難かったから生存の正式発表をしなかっただけだ。この国の英雄が弱ってるなんて他国の手前もあるから言えないじゃないか」
「しかし半旗を掲げる騒ぎになっていましたが・・・」
呆れ顔の執事長。
「ん~~、どっかの新聞社が抱えるゴシップ誌の子会社が、売上を上げる為に勝手にやった事だ。あそこは元々《《嘘も真実もごちゃ混ぜの娯楽誌》》を出してる所だからね。国民も其れは知ってる筈なんだけど。フィクションていうの? アレ? 面白いよね」
クスクスと笑う国王陛下。
「王国の発表が正式なモノであって、市井の勝手な憶測や作り話は正式なものじゃない。今回の事で貴族達も多少なりとも目が覚めたんじゃないかな」
そう言いながら紅茶のカップを口元に運ぶ。
「何でも鵜呑みにしちゃ駄目なんだよ。そもそもどの貴族も私に聞きに来なかったろう? 将軍は生きてますかって? 彼らがこの国を他国から守ってくれたのにねえ」
「・・・確かにそうで御座います」
執事長は頷いた。
「彼等軍人に感謝が足りて無いからね、貴族達は。まあ、また何かあったらお仕置きはするさ」
「はい」
実に。
楽しそうな陛下であった。




