55 強者イリーナ
柔らかなソファーの上に押し倒されたまま上を向くと、ミルクティーブロンドがサラリと自分の顔に掛かってくる。
美しい女性と見ようによっては見えなくもない、ジュリアンの整った顔は少しだけ紅潮していて、イリーナを見つめる瞳は何かを堪えるように潤んでいる。
「ジュリアン?」
「ごめん、俺イリーナよりもずっと年上でさ、仕事も暗部だろ?」
「ええ」
「だからさ、君には言えないような事も沢山してきたし、軽蔑されても仕方ないような仕事をきっとこれからもやらなきゃいけない」
彼の美しい森を思い出させるような瞳に涙が滲んでいるのにイリーナは気がついた。
「ジュリアン、私はそれでも・・・」
イリーナの唇をそっと人差し指で押さえて首を横に振るジュリアン。
「ホントは分かってるんだ。俺は君には相応しくない」
「!?」
自分に伸し掛かり口を指で塞ぐジュリアンに抗おうとしてイリーナが動こうとした時、
「でも、俺、イリーナだけなんだ。欲しいって本当に思ったのは」
「・・・」
ピタリと動きを止めるイリーナ。
「君を手に入れたら離れられない。絶対に、だよ。それでもいいか? って君に聞くことさえ出来ないけど。イヤだって言われたら死ねる自信あるからさ」
「・・・」
――死なないで下さい!
と言いたげな顔で睨むイリーナ。
「ごめんね。こんな男でさ。俺の婚約者になってくれてありがとうな」
ゆっくりと彼女の唇を自由にするために指を離そうとしたジュリアンの指先に痛みが走る――
「いてえっ!!」
なんとイリーナが彼の指先にその小さな口で噛み付いていたのだ。
「イリーナッ!? 一体何を・・・」
「んもも~!!」
「へ?」
イリーナは、キッとジュリアンの顔を睨みつけると
「私だって!! 平凡顔だし、チビで発育不全だしッ!」
「いや、イリーナは十分発育してるって!」
思わず彼女のドレスの胸元から覗く2つの白い乳房の上部に視線を落とし『ゴクリ』と生唾を飲み込むジュリアン・・・
――正直者である。
「気も短くて突然キレるし!」
「あ、うん。それは君の正義感の強さの現れだから・・・」
――実際今もキレている・・・
ハッと気が付き視線を胸元から彼女の顔に戻したジュリアンは彼女が半泣きになっているのに気が付き慌ててしまう。
「イ、イリーナ? 痛かった?! ごめんッ 俺が君を押し倒しちゃったから・・・」
「違いますッ! 私だってジュリアンじゃないと嫌なんですッ! お義母様でも、近衛でも、騎士でも、暗部の統括でも。なんだっていいんですッ!」
「イリーナ・・・」
「目の前にいるあなたが愛しい人なんです・・・愛してますジュリアン。婚約だけじゃ駄目ですッ! 結婚して下さいっ! 絶対ですよっ!!」
彼女の勢いに押されてコクコクと首を縦に振り続けるジュリアン。
「逃げたら今度は私が貴方を手に入れるために追いかけますよっ!!」
緑の瞳から、ポロポロと涙の粒が溢れてパタパタと彼女の顔に落ちる。
「ご、ゴメン、俺、カッコ悪くって・・・」
「私のモノです」
そう言って。
彼女は彼の首に自分から手を回してグイッと引き寄せると、自分から強引なキスをした。




