54 愛を囁く男
自室のソファーにドカッと音をさせて座ったジュリアンがイリーナを『おいで』と手招きした。
それに気が付き、イリーナがちょこちょこと近寄って行くと、あっという間に彼女は膝の上に乗せられる。
『チュッ』とリップ音をさせてイリーナの唇にキスをするジュリアン。
当然イリーナの顔はリンゴのように赤くなる。
「コレでお役御免ってどういう事?」
「婚約の白紙撤回の件さ。後は女装した俺にストーカー並みの執念で付き纏ってたトーマスの見張り。そっちは部下の担当だけどね。アイツ人を雇ってまで女装した俺が登下城するのを見張って報告させてたんだ。あとカルザス邸の見張りもな。本人は女の所で忙しそうだったんで、上手く見張りは買収出来たけどね」
『チュッ、チュッ』と説明の間もキスをしてくる彼の口元に指を当てると、真っ赤なままで首を傾げるイリーナ。
「あと、陛下に報告って、さっきのアレ?」
「ああ。それが陛下と伯爵の密約だ。仮にも妃殿下の仲介ありきの婚約だ。其れを蔑ろにするなんて貴族として失格だろう? 伯爵からの書簡にマトモに目を通さず、大衆紙の情報を鵜呑みにして情報確認も取らずに暴挙に出た。貴族の跡継ぎとしての資質は皆無だ」
「そうね」
「陛下はそれを伯爵夫妻と彼等の周りの貴族にしっかり認知させる事にしたんだよ。まあ、陛下らしいお仕置きの一環だな」
フフンといった感じでイリーナの髪の毛の中に指を差し込み彼女の優しげな茶色を愉しむジュリアン。
「将軍の娘を嫁に貰うと伯爵夫妻が言い触らした貴族家は全てあの場に集めてあった。暗部が全て調べ上げたから抜かりはないよ。白紙撤回でも有責はトーマス本人だと印象付け、アレだけ馬鹿なら親も大変だっただろうという周りの同情がセイブル家に集まるだろ? 決して陛下は貴族家を減したい訳じゃないからね」
目の覚めるような華やかな笑顔がイリーナの眼の前に広がる。
「密約って喋っちゃっていいのかしら?」
困った顔で、眉を下げるイリーナ。
「イリーナは当事者だから、望めば知る権利があると陛下からのお許しが出てる。あ~、やっと名実ともに俺のモンだ・・・」
膝の上に乗るイリーナを両手で囲うようにギュッと抱きしめ彼女に深い口付けをしながらソファーにそのままなだれ込むように押し倒し、彼女に贈った深いグリーンのドレスの胸元を緩めて首筋から敏感になった胸元までキスを落としていくジュリアン。
「愛してるよイリーナ」
恥ずかしさでボーっとしてちゃんと聞き取れなかったが、ジュリアンが凄く喜んでいるということだけはよく分かった。




