45 帰って来ない人
あの一般開放の日以来、お義母様がタウンハウスに帰ってこなくなった――
お義母様がトーマス様の自慢話を聞くフリをしてお付き合いしている女性を特定し、暗部の皆さんが不貞行為の調査をして証拠を集めてくれていたらしい。
私以外の屋敷の者は全員がお義母様の事を知らされていたらしく、皆がコレでやっと私があの令息から開放されると喜んでくれた。
十分証拠は集まったらしく、お義母様はお役御免となり王国騎士の独身寮に戻ったのだとお父様に説明された。
「元々、不貞の証拠を掴むために我家に来て貰っていたんだ」
年齢も5歳違いと聞いていたが実際は私より8歳年上らしい。
「トーマスと年齢が近いほうが彼に接近し易いと思ったんだよ」
お父様は困り顔で私にそう説明してくれた。
陛下が私とトーマス子息の婚約を白紙に戻すという、正式な書類を今準備しているので今月末には完全に縁が切れるのだというのだけれど・・・
「浮かない顔ね?」
思わず溜息をついた時、エリザベス先生が不意に私の顔を覗き込んだ。
このエリザベス・マーシャル先生こそ実は王族付き女性近衛隊の隊長なのだという。
女性らしい柔らかな声色と、キビキビとしているが優雅さも持ち合わせている洗練された動き。
そして綺麗なプラチナブロンドにサラサラの髪の毛とペリドットのような優しげなグリーンの透き通る瞳は、全てジュリーお義母様の色目をもっと薄くしたような色彩だ。
彼女を目にする度にお義母様を思い出し、私の胸がチクリと痛くなる。
「はい。もうお義母様に会えないのかと思うと、それだけで何だか胸が痛いのです・・・」
「そう・・・。ねえ、イリーナ嬢」
「? はい?」
「ステューシーは、れっきとした男性よ? もう解ってるわよね?」
先生が手に持っていた教本を膝の上に置いた。
「はい。陛下とお父様両方の直属ということは、暗部の方ですね」
「イリーナ嬢はそれでも彼に会いたいの? 私は貴女が男性に興味を持てないと彼から聞いてるのだけれど?」
「はい。お義母様、いえ、ジュリー様は性別など関係なく私にとっては特別な方なのです」
エリザベス様が何故かニンマリ笑った気がした――




