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41 光る剣閃

 貴族の子息は幼い頃から男子の嗜みとして、家庭教師や家族の成人男性から剣術を習う。


 それはこの国だけではなく、どこの国でも同じ習わしである。



 なので、この剣の模擬試合自体は貴族子息なら大抵が慣れているため休憩がてらのモノになりがちであった。


 平民で剣の心得の無い者はこれに参加せず、見学をしてその後別の日に実習に入るのだ。



「お兄様、頑張って~」



 何組目かが終わった後、友人が小さな声で声援を送るのを微笑ましく思いながら、目の前で始まった模擬試合に再び注意を向けたイリーナ。


 金属が擦れる音がした後、青年達が鍔迫り合いを始める途中で一瞬だけおかしな金属音が聞えた気がした。



『? 気の所為だったかしら?』



 首を捻りながら目の前の試合にもう一度目をやる。


 青年たちは互いに拮抗するのに焦れて両者が思い切りお互いを押しやる形で互いの剣を軸にして後ろに飛び退くと、もう一度手にした剣を振り被った。



 その時



「危ない!」



 誰かが叫んだ――


 その声と同時に振り被った剣の先端から光る物が一直線に観客席にいた自分に向けて飛んできたのが目に映った。


 そしてその僅かな一瞬の間に眼の前にあった柵から急に誰かが飛び込んできて、イリーナの真ん前に立つとその光る何かを己の腰に吊るしていたソードベルトから素早く剣を引き抜きソレを弾き飛ばしたのだ。


 瞬きを1回する位の短い間に起こった出来事を彼女は理解できないまま、呆然と立ち尽くした。


 イリーナの眼の前で鮮やかな剣閃を披露した黒髪の騎士が大声で怒鳴る。



 「バカヤロウ! ヒヨッコ共がッ!! 剣の異変に音で気付け! 観客席に破片が飛んだだろうがッ!」



 眼の前に垂れ下がった黒髪がイリーナの顔にさらりと触れて彼が振り返る。



「大丈夫か?! イリーナ?」



 そう言って呆けるイリーナの顔を覗き込む薄茶色の眼鏡を掛けた男性は何故か自分の名前を躊躇する事無く口にした。



「え? 誰?」


「あ。やべぇ・・・。だ、大丈夫だよなイリーナ嬢? 怪我は無いよな?」



 コクコクと頷くイリーナを確認すると、その背の高い青年は急に顔を離して踵を返してまるで逃げるように柵を飛び降りてしまった。


 そのまま彼は、呆けている貴族の子息達の剣を指差してテキパキと周りの騎士達に指示をしながら走り去っていく。


 救護班の衛生兵達がイリーナに駆け寄り



「御令嬢、大丈夫ですか? 剣の破片は師団長が払い落としたのでお怪我は無いと思いますが?」



 と彼女の手を丁寧に引きながら練習場から連れ出して行く。


 友人たちが慌てて付いて来て、彼女の横から



「イリーナ様、大丈夫ですか?」


「恐ろしい目に会いましたわね」


「あの方が助けてくれて良かったですわね」



 といつものように声をかけて貰ってやっと正気に戻ったイリーナ。



「え、ええ。驚きました・・・」



 剣の破片が飛んできた事も、自分の身が危なかった事も。



 何もかも驚いたが、何よりも驚いたのは



「お義母様の香りが・・・」



 先程の青年から義母と同じネロリの香水の匂いがしたことであった。




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