38 変装
自分の執務室に入った途端、化粧を速攻で落として赤い騎士服を脱ぎ捨てて軍属を示す黒いカラーの付いた青い騎士服にさっさと着替えるジュリアン。
「ふう~。なんの因果で・・・まあ、しゃーねーか。イリーナの為だもんな・・・」
背中まである髪の毛をポニーテールに縛り直し、薄い茶色の硝子レンズの伊達眼鏡を掛ける。
これが彼のいつもの仕事中の姿だ。
伊達眼鏡はあまりにも目立つ容姿を誤魔化す為に掛けている。
部署が部署だけに内密の仕事も多いため染め粉で髪の色も変える事もある。
「おーい、ジュリアン。いいか?」
着替えて机の上の書類を確認しようとした所に副師団長がやって来た。――例の女性近衛の制服を運んできた友人である。
「例の坊ちゃん、今日から軍にご出勤だ」
「トーマスの事か?」
「おう、それだよ。明日俺等が監督する当番だからバレんようにな」
「・・・分かった」
「ホレ、染め粉な~」
渡された紙袋の中身を確認するジュリアン。
「おお、黒か。久しぶりだ」
「印象がガラッと変わるだろ?」
「確かに。サンキュー」
そう言いながら袋の中から黒い粉の入った瓶を取り出した。
「研究チームが1日しか保たんやつを開発しただろ? あれさ」
「あー、確かに今の俺にはピッタリだな」
普通の染め粉で髪を染めると、1週間位はそのままになってしまうが、コレは最近出来上がった染め粉で時間と共に色が薄くなっていき瓶の半分で約半日過ぎた頃に勝手に元の髪色に戻る。
1日染める必要がある場合は1本を使い切るようにする。
暗部の仕事上どうしても染め粉で髪の色を変えてしまうと自宅に戻れなくなる為、妻帯者達が困ると苦情が出て開発されたのだ。
「お前は妻帯者じゃなくて旦那持ちだがな~。あ、子供もいたか?」
「・・・」
「うげっ!」
ニヤッと笑う友人の鳩尾に、いい笑顔で一発拳を入れておいたジュリアンである・・・・
翌日。
出勤後にミルクティーブロンドを見事な黒髪に染めた後、青い騎士服に着替えると副師団長と共に訓練場に足を運ぶジュリアン。
早朝から並んで教官を待つ訓練生達に混じり義務兵役の貴族子息達がゲッソリとした青い顔で並んでいる。
「おい? なんであいつ等顔が青いんだ?」
「あー、あれな。昨日訓練中によそ見をしてたやつがいて訓練メニューが倍になったらしいぞ」
報告書をパラパラ捲るとプッと吹く友人。
「どうやらお前の近衛服姿に見とれてたらしいなぁ」
「? 昨日か?」
「閣下と一緒に歩いてた姿を、見送ってたらしいぞ。例の坊っちゃんが」
「うへぇ・・・」
「えらく惚れられたなぁ?」
ジュリアンが額に青筋を立てて笑顔になったが、友人はしっかり鳩尾を両手でガードしていた――




