15話
宜しくお願いします
「そんな馬鹿な話があるかぁ!」
男は目の前に座る犬を再び殺そうと再び魔力を高める
「そうはさせない!」
リプシーは叫びながら男に斬りかかる。これ以上、カールに負担をかけるわけにはいかない。そもそもなぜここにカールが居るのだろうかと言う疑問もあった。だが、カールはいつも私達を助けてくれた。今度は私達がカールを護るのだ。その決意がリプシーの体を突き動かす
「舐めるなよ! クソガキどもが!!」
先ほどまで項垂れていた子供達が奮起する様を苦々しく思いながら男は身構える
先ほどまで優位に立てていたはずだった。だが、カールの登場でその流れが一気に変わる。男はそれを認めたくなかった
「こっちも忘れんなよ!」
挟み込むようにシグルが男に襲いかかる。男は同時に飛びかかる子供達を前に光の玉を纏い防ごうとした
——ッザシュ!
シグルとリプシーの剣が光の玉を切り裂き、男に降り注ぐ
「ぐぁ!!」
聖杯を壊されたことによる魔力の枯渇
もはや先ほどまでのような力を男は失っていた
光の玉がクッションになり辛うじて致命傷は避けられた程度だった
「くそっ! くそっ! 私は神だ! こんなガキ如きに!!」
「なにが神よ! 騙して奪い取った力のくせに!」
「偽物の神様如きがカールを傷つけられるわけないだろ!」
「黙れ!!」
「炎の玉!!」
—ッドン!
オミロの放った魔法が男に直撃する
「く、しぶとい!」
男はギリギリの所でそれを防いでいた。だが、それももはや限界だった。男の周りにあった光の玉は一つ、また一つとその姿を消していく
「力が……力が……」
せめてあの憎たらしい犬だけでもと思い振り返る。そこには粉々になった聖杯と黒ずんだ死体があるだけだった
「よそ見してんな!」
シグルの叫びに男は再び振り返る
——ッバン!
先ほどまで魔法の力で閉ざされていた扉が開き、セレナとエイムも飛び込んできた
「セレナ様!」
「うん!」
雪崩子もうとする男達を押しとどめるように扉を塞ぐと近くにあった板で閂をかけた
「セレナさん! エイムさん! 無事だったんですね!」
その様子を見ていたリプシーが安堵の声をあげた
「ええ、なんとか。突然扉から魔力が消えたので、もう少し遅ければ危なかったですが……」
そう言いながらエイムは子供達に近づいた
「その人は?」
「こいつが親玉だよ!」
セレナの問いにシグルが答えた
「あなたが……アイリス様はどこですか!?」
セレナは怒りに満ちた声を上げる
「……どいつもこいつも馬鹿にしやがって……なぜ私の邪魔をする!! 世界は腐りきっているんだよ! それを私が正そうとしているのに!!」
「なにを……」
突然の男の発言にセレナは困惑した声で聞き返す
「真実の愛と美しさを理解しようとしない愚か者どもが!! なぜ真実を直視しないのだ!」
神の雫があれば全てが愛と美の前で平等でいられる。男はそう信じていた
「男と女が子を成す事こそが愛だ! 生まれ育った自分だけの体こそが美しさだ! くだらない駆け引きや宝石なんかいらないんだよ! この……神の雫があれば誰しもが平等になれる!」
「だからと言ってアイリス様を無理やり攫う事が正しいとでもおっしゃるのですか!?」
「真実を知るための小事だ! 神の雫を飲めば誰しもが私の正しさを理解できる!!」
セレナは男の駄駄を唖然としながら聞いていた
「真実が見えていないのはあなたでは? 少なくとも私はスイーマに頼らなくても、本当の愛情と美しさを見てきましたが?」
エイムはそう言い、前に立つセレナの背中を見つめた
「黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ! 私を否定するモノは全部消えてなくなれ!!」
「シグル!」
リプシーが叫ぶとシグルが頷く。これ以上この狂人の話を聞く事もない。同時に仕掛けて終わりにしようと——
「待ってください」
それをエイムが止めた。なぜ? と思い二人がエイムを見ると、すでにエイムは男へと一直線に駆けていた
「うがぁぁぁ!!」
男は叫びながら手に持つ剣を振り下ろす。その様は驚くほど無様にただ振り下ろすだけの行動だった
エイムはそれを躱すと手に持った剣を男の首元に突き刺した
「がっ……はっ!! 嫌だ……死にたくない……私が……私が……」
まるで破裂した水道管のように真っ赤な血が噴き出し、男はその場に倒れこんだ
「エイム……」
その光景を見て青ざめたセレナが声をかける
「皆様がやるべき事ではございません」
エイムは剣をしまい、セレナの元へと近寄る。まるで淡々と作業をこなしただけのように冷淡に言った




