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異世界冒犬譚  作者: さくら
面影に君を想う
92/126

11話

宜しくお願いします

 奴が来る


口から甘い臭いを吐き散らし、無骨な腕の感触を思い出すだけで身の毛もよだつ


迫り来る恐怖に俺は一心不乱に逃げ惑っていた


咄嗟に小部屋に入り、しまったと後悔する。自ら袋の鼠となる場所へ入り込んでしまったのだ。小部屋に入れば襲われる方向は一つしかなくなるので、心理的には気が楽なのだが、襲われる方向=退路なのだ。つまり襲われると同時に退路を塞がれるという事になる


奴が来る前にここから出なければ——


——ッガタ


物音に驚き、逃げ場を探す。どこか、どこかに隠れる場所はないか


部屋の奥に犬一匹通れそうな穴を見つけた俺は一目散にそこへ潜り込む。頭は抜けたがお尻が抜けない。頭隠して尻隠さずとはこのことか


必死に後ろ足で地面を蹴り上げながら、尻を振る


(くそ! くそ! おらぁ!!!)


スポンと音が聞こえてきそうなほどに勢いよく穴を飛び出すと、そこは薄暗い一室だった


(ここまでくれば追って来られないだろ! くそが! ざまーみろ!)


「だれ……?」


まさかの背後からの声に身の毛がよだつ。なんてことだ背後に回られていたとは……


恐る恐る振り返る俺の目に入って来たのは、この場に似つかわしくない一人の少女だった






 体の痛みに気がつくと、土を掘り返したような一室だった。硬い木のベッドに寝かされていたせいもあり、痛みで目が覚めた


アイリスは身を起こすと周りを眺め、自分に起きたことを思い出す


想いが成就する儀式を行っている最中、突如背後から少女に襲われたのだ


想いが成就する。それを聞いてアイリスはセレナを連れてここまで来た。だが、想いが成就するどころかセレナを危険な目に合わせてしまったのだ


セレナの為にと思い、取った行動はセレナの為にはならなかった。それどころかセレナがかつて経験した恐ろしい体験を再び体験させてしまうという結果になってしまった


「セレナ……」


せめてセレナは無事でいて欲しかった。硬い木のベッドに腰掛けアイリスは一人涙を流す


それからどれだけの時間が経ったのだろうか、出ることのできない一室の中でアイリスは不安に押しつぶされそうになっていた


部屋の中は薄暗く、木のベッドと椅子と机しかない殺風景な部屋だった。扉があり外に続いているようだったが、押せども引けどもビクともしなかった。よく見るとそれは魔法でできた扉だった。恐らくは破壊して開けられないようにと魔法で閉じ込めたのだろう


物質を具現化する魔法は本で読んだ事がある程度だったが、見るのは初めてだった。これほどまでに高位の魔法を扱う存在は聞いた事がない


ここはどこで、自分はどうなるのかを考えると不安でたまらない


「セレナ……無事でいて……」


物音一つ聞こえない空間に耐え切れずに思わず口にする。


物語では囚われた姫は王子の手により救われる。だが、現実はそう甘くない。そもそも自分が囚われている事に誰も気づいていないのだ


セレナが助けを呼んでくれているかもしれない。だが、あの状況でセレナが逃げだせた可能性は低い。きっと今頃セレナは……


薄暗い部屋がアイリスの不安を加速させ、不吉な未来を思い起こさせる


(違う……そんな事ない)


アイリスは首を振り、不吉な未来を否定した


——ッガサ


物音一つしない空間で突如聞こえる物音にアイリスは身を縮め固まる


——ザッ! ザッ!・・ズポッ


地面を蹴るような音と同時に何か(・・)がこの部屋に入ってきたと瞬時に理解する


見えない何かが逃げ場のないこの空間にいる——


それを想像するだけでアイリスの体は自然と震え、目からは大粒の涙が溢れた


「だれ……?」


辛うじて出た言葉に見えない何かが答える様子はなかった


——ッツン


アイリスの足に冷たい何かが触れる。突然の出来事にアイリスは思わず叫び、足を振り払った


「キャイン!」


振り払った足に残る柔らかい感触と聞き覚えのある鳴き声にアイリスは目を見開く


「え? 犬?」


「くぅーん……」


目を凝らし、(うごめ)くその物体を眺める。恐る恐る手を伸ばしそれに触れると手のひらに温かいぬくもりと感触が伝わった






 薄暗い部屋で出会った一人の少女。俺はその少女に抱き抱えられていた


こんなところで何をしてるんだと思い近づいたら思いっきり蹴飛ばされてしまった。よく考えたら、結構薄暗いし、そんな中で冷たい鼻先を押し付けたのだからそれも当たり前かと反省した


「あなたはどうしてこんな所にきたの?」


頭上から不安げな声が聞こえて来る。むしろ俺が聞きたいぐらいだ。なんでこんな所に美少女がいるのだろうか


というか、そんな事より、マニーズの所に帰りたい。ミルファも心配してるはずだ。というか、前回もこんなパターンじゃなかったっけ?


「誰か助けにきてくれるかしら……」


はい?


意味不明な言葉に俺は首を傾げる。助けとはどういう事だろうか? この子は攫われてきた子なのか? わからんが、それならそれでさっさと出ればいいのだ


目の前には(あつら)え向きに通路まである。そこから逃げればいいのだ


と、思いつつもふと考えを改める。この洞窟の中には先ほどの気持ち悪い男みたいな連中がうろついているのだ。もしそんな奴らに途中で出会ってしまったら、か弱い少女は抵抗虚しく襲われてしまうだろう


それで隠れるように少女はここで身を潜めているのだ


なるほど。で、あれば俺が兵士達を誘導してあげればいいんじゃないだろうか?


最悪見つかってしまっても、俺であれば逃げ出せる。ここもいつまでも安全ではないのだ。そうと決まれば——


俺は身をよじると少女の膝から降りる


(おっと、待っててくれよ。すぐに人を呼んでくるから!)

「ワン!」


振り返り少女を安心させるように一吠えすると、俺は通路を駆け出した




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