12話
宜しくお願いします
「お嬢様! お下がりください!」
エイムは迫り来る無数の男達を斬り伏せながら叫んだ
フレアヴォイドの言葉通りに進むと広場に出たのだが、そこではすでにエイム達を待ち構える数人の男達がいた
三人の男達であれば押し切れると考え、戦ったのだが入り口から敵の増援が来てしまい退路を断たれてしまったのだ
「どこから入り込んだんだかしらねぇが、大人しくしな」
「大人しくすりゃ、悪いようにはしねぇよ……ひひひ」
下品な笑いと辛味つくような視線に不快感を覚えたエイムはそれを否定するように身構える
「大人しくしてりゃあ良いものを……おい! やっちまえ!」
「女は殺すなよ! ガキは殺せ!」
数人の男が剣を振り上げ襲い掛かってくる
「ガキだからって甘くみんな!!」
「オミロ!」
「うん!」
二人の男がシグルに襲いかかる。シグルは一方の剣を躱すと、もう一方の男の腹を蹴り飛ばす
「ぐぇっ!」
「おりゃ!」
蹴りを入れた流れで踏み込み、剣を振り上げる
——ッザン!
振り上げた剣は男の腋下から肩へと抜ける。柔らかく、暖かい感触が剣の柄からシグルの手へと伝わる
「ぎゃああああ! いでぇえええ!!」
腕を落とされた男はその場にのたうち回る
「炎の玉!」
オミロの放った火の玉はシグルに蹴り飛ばされた男の腹へと命中する
「ぎゃっ!!」
男の腹の部分が黒く焼け焦げた
「いでぇぇ……痛ぇよ……」
二人に負けじとエイムとリプシーも男達を斬り伏せる。だが、まるで湧き出る水のように集まってくる男達にエイムは顔を曇らせる
どこにこれだけの人間がいたのだろうかと思うほど、次から次へと男達が部屋へと押し寄せる。中には女の姿もあった
「奥へと下がりましょう!」
背後にある扉を見たエイムが告げると、リプシーはうなづき、扉をゆっくりと開けた。この先に敵や罠が待ち構えている可能性もある
扉を開けた先は長細い通路となっていた
「大丈夫! シグル! オミロ!」
リプシーの言葉にシグルとオミロが奥へと逃げ込むと、リプシーが続く
「エイムさん! セレナさん!」
「お嬢様!」
エイムが迫り来る男を斬り伏せ、扉へと目を向けた
——ッガシャン!
「うそ!? なんで!?」
突如、勝手に閉まった扉にリプシーが慌てて飛びつく
「エイムさん! セレナさん!」
だが、扉が再び開くことはなかった
「ようこそ、私の聖域へ」
部屋の奥から聞こえる声に三人は振り向き身構える
細く伸びた部屋の奥に一人の男と聖杯が佇んでいた
「おや? これはいかんなぁ。子供がこのようなところに来ては」
子供達はその異様な存在に身構える
「君たちはここがどういった場所だが分かっているのかね?」
「汚い大人が汚い行為をしてるんでしょ!」
リプシーが吐き捨てるように怒鳴る
「はっはっはっ! それは誤解だ」
「どこがよ!」
「ここは愛と美の女神であるフレアヴォイド様を祀っているのだ。ここで行われている事はとても神聖で美しい事なのだよ」
男は手を大きく広げながら前に出る
「そもそも愛とはなんだい? 人と人が愛し合う事だ。その結果はなんだと思う?」
男はまるで教師のように優しく話し始める
「君たちだよ。君たちのような未来ある若者が愛の結果なのだ。それを行う行為が汚いわけがない。では美しさとは? 着飾った人が綺麗でそうでないものは醜いとでも? そんなわけがない! 人の美しさは身につけた物の価値なんかではない! そう・・人は生まれながらにその美しい肉体を持っているのだ。恥ずかしがる必要なんてない! 愛と美の前には人は皆平等なのだ!」
「だからって無理やり人を攫っていいわけないでしょ!」
「答えが明確なのに、意固地になっている愚かな迷い子を正しき道に導こうとしているだけの事だろう?」
何を馬鹿な事を言っているんだとでも言いたげな表情で男は言う
「ここに来れば誰しもが神の雫で人本来の美しさと愛に目覚めるのだ」
「何を……」
「君も将来有望そうな少女じゃないか。さあ、こちらへ来なさい。神の雫を君にも授けよう」
「誰がっ!!」
「なあ」
ふとシグルが声を上げた
「なんで愛の結果が子供なの? 子供じゃなくても良くない? あと着飾った人は普通に綺麗だよな? な? オミロ?」
「え? う、うん。そうだね」
「ふん。お前のようなクソガキにはわかるまい。どうやらお前はここにはふさわしくないようだ」
「え!? なんかさっき平等だって言ってたじゃん!」
「黙れ!」
「なんだよ。結局おっさんの好き嫌いなだけじゃんか……」
「小僧。少々おしゃべりが過ぎるな」
空気が一変する
男は手をかざし魔力を高めた
「排除してやろう」
「やだよ!」
男の体を無数の光る玉が覆う
「死ねぃ!」
その言葉と同時に複数の光の玉が子供達を目掛けて飛来する
「風の壁!!」
オミロの魔法により、風の壁が光の玉の行く手を阻む。だが、光の玉は勢いを緩める事はなかった
「うおっ!?」
「雷鎖!!」
リプシーの魔法が迸り、光の玉がはじけて消える
「ほう。中々有望な少女だな。殺すには惜しい」
「そうやって余裕ぶってるのも今のうちだからね! シグル! オミロ! あの後ろの聖杯! あれ壊すよ!」
「おう!」
「うん」
「炎の玉!!」
シグルが何度も叫び炎の弾幕が男へと迫ると、シグルが男に向かって部屋の隅を駆け抜ける
「おりゃ!」
シグルの魔法に対応している間にシグルが聖杯を壊す——はずだった
——ッドン!
「うわっ!?」
突如、飛来した光の玉を剣の腹で受けたシグルは後方へと吹き飛ばされた
「くくく。無駄な事を……そっちのお嬢さんもね」
——ッドン!
「きゃっ!?」
シグルを陽動に使いリプシーが反対から聖杯に斬りかかるが、それすらも見透かされていた
「子供が大人に勝てるとでも?」
「思ってるけど?」
リプシーはにやりと笑う。その意味に気づいた男は振り返る。そこには先ほどまで後方から魔法を放っていたオミロがいた
「やあっ!!」
大きく振りかぶった杖が聖杯に当たる
——ッバリ!!
「うわぁぁぁっ!!!」
聖杯を捉えたはずの杖は見えない壁に阻まれオミロは吹き飛ばされた
「くくく。貴様ら如きが触れていいものではないのだよ」
「くっ。そんな……」
「この聖杯があれば私は無敵だ。そしてこの聖杯を壊せるものなど存在しないのだ」
男はそう言うと先ほど以上の光の玉を身にまとった
エイムは迫り来る無数の男達を斬り伏せる。その鬼気迫る形相に男達はたじろぐが、すぐに口元が緩んだ
エイムと男達では実力が違う。幼い頃から学んだ暗殺の術と冒険者の知識はさすがというべきだろう。だが、数の暴力の前ではそれすらも霞んでしまうのだ
多くの敵を打ち倒してきたエイムが肩で息をし始めるのを見て、男達は勝利を確信していた




