表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒犬譚  作者: さくら
面影に君を想う
90/126

9話

宜しくお願いします

 むせ返るような洞窟の中を進んでいくと、道が二手に分かれていた。一方の道の先は大広間に繋がっているようで、複数の人の声が聞こえていた。わざわざ人がいるほうへ進む必要がないと判断し、もう一方の道を進むと、ちょうど、壁越しに広場が見えるところに出た


一行は姿が見えないように身をかがめて通路を進む


「あぁ……ぁ」

「はぁ……はぁ……」

「うぅ……」


喘ぐような、悶えるような声なき声が響き渡る


「なあ、なんか苦しんでる人がいるけど、助けなくていいのか?」


前を進むシグルが後ろを振り返り尋ねる


「きっと苦しんでる人が多く捕らえられてるんでしょう。できれば助けてあげたいですね」


オミロが同意した


「いいからさっさと進みなさい!」


リプシーはそんな二人の話に耳を貸すことなく、二人の背中を押した。そんなリプシーはなぜか顔が赤かった


「いてっ! 押すなよ! 顔赤いぞ? 熱でもあるんじゃないのか?」


「いいからっ! 黙って歩けっ!」


シグルとオミロは納得がいかない表情をしながらも前を向きなおしエイムの後をついていく




 道中、横道に小部屋を見つけた一行は中が安全なのを確認すると、そこで小休止をとることにした


洞窟内はスイーマの匂いで充満しており、逃げ込むようにその部屋へと入り込んだ


「体にまで染み込んじゃうよ……」


オミロはそう言いながら服に鼻を当て匂いを確かめる。それに釣られてシグルも匂いを嗅いでいた


「気分が悪くなりそうですね」


セレナもくたびれた様子で近くにあった木の箱に腰をかけた


「あまり長居はしないほうが良さそうですね。ただ、アイリス様がどこにおられるのか」


「今の所、誰にも見つかってないけど、結構な人の数がいそうだし」


エイムとリプシーは不安な顔で思案している。そんな様子を眺めながらセレナはふと耳に違和感を感じた。洞窟の奥へと来たためだろうかと、先ほどから響く耳鳴りを確かめるように耳に手を当てる


だが、次第に耳鳴りは大きくなる


——キィィィィィン


咄嗟にその音を遮ろうと耳を両手で塞ぐが、耳鳴りは止まない


「お嬢様? どうされました? うっ!」


その場にいる全員が耳を塞ぎ耳鳴りを防ごうとする仕草を見せる


「なに……これ」


苦悶の表情でリプシーは膝をついた


『……ますか?』


耳鳴りの奥で何かが語りかけるような感覚を受けた。まるで幻聴のような感覚に気を失いそうになる


「……こ……え?」


大音量で鳴り響く耳鳴りに気を失いかけたその時、まるで嘘だったかのように耳鳴りが止んだ


『私の声が聞こえていますか?』


「え……?」


その場にいる全員がなにが起きているのかがわからずに唖然とした表情をする


「だ、だれですか?」


セレナが聞き返す


『あぁ、やっと声が届いた。驚かせてしまったようですね。私はフレアヴォイド』


その言葉に全員の理解が追いつかない。声の持ち主はフレアヴォイドといったのか? 愛と美の女神の?


『そなたたちに頼みがあって声をかけたのです』


誰も言葉を発することができないでいた


『……ちょっと……聞いてる?』


「え? あ、はい!」


セレナは慌てて立ち上がり姿勢を正す


『返事ぐらいしてよー。また声が届かなくなっちゃったかと思ったじゃない』


「え? あれ? フレアヴォイド様……ですよね?」


『うん、そうだよー』


「先ほどと口調が……」


『え? あ! まあ、いっか。威厳ありげに話したかったけど、いつもの口調に戻っちゃった』


「は、はあ」


『そんなことよりさー、ちょっと聞いてよー。変な司祭とか名乗る奴がさー。アタシのこと騙して力奪っちゃったんだよー? ひどくなーい? 普通、神様騙すとかありえなくなーい?』


神の声を聞くという事は神託を授かるという事である。長い歴史を持つアクアホルンでその事象を確認できた事は数える程だ


それほどまでに恐れ多い事実なのだが、全員がなにかこれは違うと自身に起きている現実の安っぽさに呆れ返っていた


『だいたいさー。私の事、尊敬してるとか言ってたくせになんで力奪うかなー?』


「えっと、あの一体何があったのでしょうか?」


事態を理解できないセレナは恐る恐る聞き返す。本当の神であれば、怒りを買うような言動は控えるべきなだ。だが、神らしからぬ声にどう対応していいのかがわからない


『え? だからさー、司祭とかいう奴が私を騙したんだってば! ひどくない?』


神なのに騙されるなどありえるのだろうか?


「ど、どのようにしてフレアヴォイド様を騙されたのですか?」


『なんかねー。困ってるって言ってた』


「はい?」


『なんか、有名なお酒で世界の人々を幸せにしたいんだって言ってたのね? でも、それを邪魔する人たちがいて困ってるって私の祭壇に向かって泣いてたの。偉くない? 中々人の為に泣ける人っていないよね』


「それはスイーマの事では……」


『なにそれ? それが有名なお酒なの? わかんないけど、それでかわいそうだからちょっと加護を与えたんだけどね? そしたら、私を傷つける人がいるかもしれないから、護らせて欲しいって言うんだよ? すっごい優しいよね?』


「は、はあ」


『で、私はおとなしく聖杯にその身を移したんだけどさ。あの司祭とか言う人が私がいるのを忘れて結界張ってでられなくなっちゃったの。ドジだよねー』


「え? でも、先ほど騙されたって……」


『違うよ! 騙されたわけじゃないじゃん! 私、神だよ?』


焦るように言うフレアヴォイドの言葉に全員が若干引き気味だった


「なあ、これ本当に神様か?」


シグルが隣に立つオミロにぼそりと呟く。誰しもが思っていたが、誰も口にしなかった事実だった


「っし!」


オミロは慌ててシグルを黙らせる


『え? なんか言った?』


「い、いえ! なにも!」


慌ててリプシーが否定する


『ふーん。まぁ、そんな事より、さすがに窮屈だから、外に出して欲しいんだよね』


「フレアヴォイド様のお力があれば容易い事なのではないのですか?」


いくら結界といえど、神の力を持ってすれば容易なのではないか。そう思いセレナは聞き返す


『それがさー。自分の力を授けて、自分の力で結界張られちゃったから私じゃ無理なんだよねー』


自分で鍵を閉めて閉じ込められたようなものである


「それでは我々でも無理なのでは……」


と、エイムが言う


『……そこはほら、なんか上手い事やってみてよ。協力してくれるならあなたたちが探してる娘の場所教えてあげるよ?』


「っ!? アイリス様をご存知なのですか!?」


『アイリスっていうの? 知らないけど、やけに可愛い娘が昨日連れてこられてたけど・・その娘の事探してるんじゃないの?』


「どこにおられるのですか!?」


『まあまあ、落ち着きなよ。教えてあげるからさ。その代わり、手伝ってくれるよね?』


全員が顔を見つめ合い頷く


「我々でご協力できる事なら……」


『やった! じゃあ、契約成立ね。その娘はこの先の広間を抜けた通路の途中の部屋に入れられてるよ』


「ありがとうございます! みなさん、行きましょう!」


その言葉を聞き、セレナは急いで部屋を出ようとする


『ちょっ! 待ってよ! 私の事は!?』


「あ、申し訳ありません。私達はなにをすればいいのでしょうか?」


『えっとね。その聖杯を壊して欲しいの』


神自身ですらどうする事も出来なかった事が自分達にできるわけがない。そう思いつつ顔を見合わせる


「最大限、努力致します……」


そう返す以外なかった




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ