6話
宜しくお願いします
どれだけ走ったのだろうか、森の中を逃げるように走りながらセレナは後ろを振り返る
「っきゃ!」
振り向いた瞬間、木の根に足を取られ転んでしまった
「痛っ……」
見ればスカートは木の枝に引っ掛けボロボロで、靴も手も泥だらけだ
「アイリス様……」
無我夢中で逃げてしまったがアイリスを残してきたままなのだ。罪悪感と自分の無力感から目の前が滲む。だが泣いている暇などない、すぐにでも屋敷へと戻りエイムに助けを求めなければならないのだ
まだ追ってきているであろう追っ手に捕まるわけにはいかないのだ。痛む足と手に力をいれセレナは立ち上がる——だが、すでにセレナは囲まれていた
「グルルルゥゥ……」
あの男達ではない——狼に周りを囲まれていたのだ
「え?」
突然の出来事にセレナは混乱する。そして悠然と現れる一匹の狼にさらに困惑した
まるでこの森の主のような巨大な狼が現れる。歯をむき出しにし、こちらを威嚇する狼にセレナは恐怖でその場に座り込んでしまった
(ノクト……エイム……助けて!)
——ッガサ
草がこすりあう音でこちらに近づいてくるのがわかる。恐怖に耐えながらもセレナの脳裏を過去の出来事が走馬灯のようによぎる
(お母様……お父様)
「いたっ!!」
突如として響く幼い少女の声にセレナと狼が一斉に顔を上げた
——ッドス!
「キャインッ!」
一本の矢が目の前の狼に突き刺さる
「やった!! シグル!」
「おう!」
「オミロ! サポート!」
「任せて!」
不意に襲われた狼達はその乱入者達に目標を切り替える
「っ!? リプシー! 女の人! 襲われてる!?」
「っ!? わかった! 援護お願い!」
座り込むセレナの前に小柄な体が飛び込んできた
「大丈夫ですか!?」
「……」
めまぐるしく変わる展開にセレナは声も出なかった
「おりゃ!」
「キャインッ!!」
その背後では少年が狼を斬り伏せる
「風の刃!!」
風の刃が周りの木々を切り取り視界が広がる。そこには見覚えのある少年達が立っていた
「あなた達は……」
「あっ! 綺麗なお姉ちゃんだ!」
小太りな少年が声を上げる。この少年は見覚えがあった。前にドナーコニスの街でぶつかりそうになった少年だった
「……そういえば!」
手を差し伸べてくれた少女もその時に出会っていた
「二人とも! 大きいのがまだいるよ!!」
その声に二人は巨大な狼へと振り返り身構える
「こいつ、前に見たやつだ」
ドナーコニスでかつてみた巨大な狼がなぜここにいるのか。三人の警戒度が一気に高まる。子供達の数倍は大きい狼がこちらを睨みつけているのだ。襲われたらひとたまりもない
だが、巨大な狼は突如、踵を返しその場を去っていった
「うわぁ。へんな汗かいたっ!」
シグルはそう言うとその場に座り込む
「あれはやばかったね」
オミロがそう言いながら二人に近づく
「そんなことよりっ!」
シグルは思い出したかのように立ち上がり、セレナの元へと近づいた
「だ、大丈夫ですかっ!? あ、あの! 僕以前にっ!」
シグルは突然緊張したような様相で目の前の美しい女性に声をかける。オミロはそれを怪訝な顔で見つめていた
「ぼ、僕の名前は! シ、シグルっていいます! えっと・・」
「ちょっと、シグル? あんたの自己紹介はどうでもいいから。大丈夫でしたか?」
呆れた顔でリプシーがシグルをどけるとセレナの前で膝をついた
「え? ええ、三人ともありがとうございます」
助かったという安堵感となぜこんなところに子供達がという疑問でセレナは混乱していた
だが、冷静になりつつある頭がある事実を思い出させた
「っ!? アイリス様が!!」
三人は何のことかと顔を見合わせ、首を傾げた
子供達に護られ、泥まみれになったセレナにエイムと屋敷の使用人達は驚愕し大騒ぎとなった。更にセレナが語った事実に屋敷の使用人達は青褪め、数人が気を失った
それもそのはずで、あろうことか第二皇女が攫われたのだ。事と次第ではこの場にいる全員の首が物理的に飛ぶ
使用人の長である執事が顔を青褪めさせながらも、すぐに皇都とシャフトカンマの詰所に手紙を書き、アイリス捜索の指示を出した
一方セレナはエイムに汚れた体を綺麗にしてもらい、身なりを整えると子供達を自室に招いていた
「三人とも本当にありがとうございます。あの場に来て頂けていなければ、今頃どうなっていた事か……」
「私からもお礼を申し上げます。私がついて行っていれば……」
セレナとエイムが頭をさげる
「い、いえ! 困っている人達を助けるのが……僕らの……正義の味方の役目ですから!」
いつもとは違い、やけに高い声を出すシグルをオミロは若干引いた目で見つめる。いつから正義の味方になったんだと言いたげな表情だった
「まあ、シグルの事は放っておいて……大変な事になってるようですね」
リプシーは神妙な面持ちで言う。皇女誘拐となれば大事件だ
「私がついていながら……アイリス様をお助けできなかった」
セレナは目に涙を浮かべていた
「お嬢様……」
それを気遣うようにエイムがセレナの肩に手を置いた。それを見ていた子供達は何も声をかけられなかった。目の前の守るべき人を守れない悔しさはこの場にいる誰よりも分かっていた。かつての自分達がそうだった様に——
「正義の味方?」
ふとつぶやく様にセレナが言うと、その顔を上げて子供達を見つめる
「もし、私がアイリス様を助けに行くと言ったら……」
「っ!? お嬢様!?」
「正義の味方は手伝ってくれますか?」




