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異世界冒犬譚  作者: さくら
面影に君を想う
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5話

宜しくお願いします

 柔らかい日差しが水面を照らし、まるで輝く宝石のように光り輝いていた。セレナとアイリスは雄大な滝と眼前に広がる滝壺に感嘆のため息を漏らす


「この辺りは涼しいのね……」


滝壺から霧散する水が肌に心地良い。アイリスは宙を手で掴むような仕草を見せる


「心が洗われるようです」


セレナが同意する


「この滝裏にはフレアヴォイド様の祭壇がございます」


少女が説明しながら横に立った。屋敷の使用人を引き連れてここまできたのだが、道中でこの少女と出会ったのだ。道の端で座り込んでいるところをアイリスが心配し声をかけたのだ。色々と話し込む内に目的地が一緒という事もありこうして同伴することになった


「滝裏にあるなんて珍しいですね」


「普段はもっと水量が少ないのですが、最近は水かさが増しているようです」


アイリスは二人が話し合う光景をにこやかに眺める


「そういえば……」


そんな二人の側に近寄ると、わざとらしく声を潜めた

「恋が成就する儀式というのはご存知?」


「「え?」」


セレナと少女は同時に聞き返した


「ここでそういった儀式があると聞いたのだけれど」


まさかガセなのかもしれない。そもそも事実であるかどうかすらもわからないのだ


「もしかして、あの事でしょうか?」


少女の言葉にアイリスは目を輝かせながら続きを待つ


「この近くにあるフレア草の葉で滝壺の水を汲むのです。それを持って祭壇へと向かい、願い事を唱えながら祭壇を水で清めると願い事が叶うらしいです」


フレア草はこの辺りに咲く人の身の丈ほどある花で、その葉は顔が隠れてしまうほど大きい


「きっと……それ」


そう言いながらアイリスは辺りを見回す。だが、この辺りにはフレア草は見当たらない


「それでしたら、この先に咲いております。よろしければ持ってきましょうか?」


「お願い、できる?」


「はい! 少しお待ちくださいね」


そう言い残し少女は足早で去っていった


「あのアイリス様?」


「ノクト様と出会えるように、お願い」


アイリスはそのために来たのだ。セレナはその意図を汲み取りにっこりと微笑み返した



 滝裏と言っても、具体的には滝の裏ではなく、脇から入る洞窟だった。そのおかげで服が濡れずに済んだとほっとしながらセレナは洞窟の中へと進んだ


少女が持ち帰った葉は想像以上に大きかったが、水を掬うのは中々難しかった。少量の水を葉の上に載せ、こぼれないように慎重に進む


なんでも願い事は人に聞かれると叶わないという事だったので、使用人達は外で待ってもらうことにした


「あそこにあるのが祭壇です」


洞窟と言うには申し訳ない程度の深さなので、入るとすぐに祭壇が目に入る


「セレナ、お願い」


アイリスに促されセレナは祭壇の前へと進む。祭壇の上には小さな女神像が配置されていた


ノクトと別れて数ヶ月。長いようで短いその日々の中でセレナは一時たりともノクトを忘れた時はなかった。今も目を閉じれば鮮明にノクトの顔が思い浮かぶ


あどけない顔と可愛らしいお尻、そして柔らかい抱き心地はまるで昨日の出来事のように感触が腕に残っている


(ノクト……どこにいるの? 会いたいよ……)


そう願いながら、女神像にノクトの面影を重ね、ゆっくりと水を注いだ


——ッパシャ!


自分ではない誰かが水を落とす音にセレナは驚き振り返る


「……え?」


少女が背後からアイリスの口元を布で押さえていた。アイリスはまるで気を失ったかのように、体から力が抜けていた


「なにをっ!?」


その場に倒れこんだアイリスを呆然と見つめる事しか出来なかった


「ごめんなさい」


少女はそう言うとセレナに襲いかかろうとする


「っ!?」


伸ばされた手をかい潜り体が入れ替わる。アイリスをそのままにはしておけないが自分では少女をどうにかする事ができない


外にいる使用人達を呼びに行けば・・


そう思いセレナは洞窟から飛び出す。眩しい日差しが一気に降り注ぎ一瞬目の前が真っ白になる。次の瞬間、見えてきたのは倒れこむ使用人と——見た事のない男達だった


「ちっ! 失敗しやがったか?」


セレナは後ずさりしながらふと背後に気配を感じ振り返る。そこには少女が立っていた


「おい! さっさと眠らせちまえ!」


男が声を荒げて言うと、少女は悲しそうな目をしながらセレナへとにじり寄る


前には男達、後ろは行き止まりで逃げ場がない。どうすればと思い脇を見る。人の肩ほどある崖の上に行ければ逃げられる——


セレナはスカートをたくし上げると人目もはばからずに崖の中間にある枯れ木に手を伸ばす


「おい! 逃がすな!」


岩のくぼみに足をかけ、枯れ木を持った手にぐっと力をいれ体を持ち上げる


——大丈夫・・登れる!


そう思った瞬間、左足に寒気がよぎる感触が伝わる


「引き摺り下ろせ!」


「離して!!」


無我夢中に右足を振り上げ蹴り上げるように踏み抜く


——ッドス!


「ぐあっ!」


鈍い音と共に男が手を離した。その隙に一気に登り上がると数人の男がこちらを睨んでいた


「逃がすな! 追え!」


その言葉と同時に男とセレナは走り出す


——怖い怖い怖い! ノクト!


背後から執拗に追ってくる恐怖を振り切るようにセレナは走り続けた




この章は少しペースを上げていこうと思います

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