9話
よろしくお願いします
最初に動いたのはカイラだった。その圧倒的な存在感、そして先ほどたしかに殺したはずのその獣に恐怖を抱いたカイラはそれを否定するように行動する
「何度でも殺してやろう!!」
死霊術士は死者を召喚する際に対価として魔力を差し出さす。差し出す量と死者の強さは比例するのだ
人智を超えた存在でもあるカイラにとって数万という死者を召喚する事はたやすい事だった
だが、目の前の存在を消し去るにはそれでは不十分だと感じたカイラは、数十万の死者を召喚する為の魔力を一点に集める
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ……」
今まで使った事のない魔力を一点に集める。その反動でカイラの美しい顔は歪み、鼻から血が垂れる
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
一点に集めた魔力は淀んだ影となり、はじけて霧散する。その中央には人ならざる人が立っていた。——デーモンである
死霊術士は不死の世界と呼ばれる場所から一時的に力を借りる。デーモンは不死の世界の住人であり、その頂点に君臨する存在だった
「さあ、あの愚か者を殺しなさい……」
カイラの言葉を聞いたデーモンは宙に漂う獣を見つめると不敵に笑う。そして掌を獣に向けると何かを呟いた
一筋の黒い光がカールへと送られると膨大な魔力が凝縮し、そして弾ける
——ッドォォォン!!!
光の筋が消えると同時に大爆発が巻き起こった
「ふふふ……」
不死の世界において頂点に君臨するデーモンの実力にカイラは酔いしれた。その姿は先ほどまでの美しい女性の姿ではなく、醜悪な皮と骨だけの存在だった
それほどまでに魔力を要したのだ。勇者もカールも最早敵ではない。デーモンは次の標的である勇者たちに向き直ると自身の眷属でもある数百もの魔物を呼び出した
「グルルルルゥ……ウオォォン!」
だが、それを嘲笑うように無傷のカールが吠える
誇り高い悪魔は自分の力が通じていないという現実に怒りを覚える。先ほど以上の純粋な殺意という意思を持ちカールに襲いかかる
その意思は眷属に共有され、数百という殺意がカールに集中する
流れをデーモン達が支配する——はずだった
流れは一方的な意思で止められた。カールの体が淡く輝き出すと、デーモン達の意思は塗り替えられ、動きが止まる
カールから一筋の光が天へと伸びる
その場の全員が身構えるが、何かが起きるわけでもなかった
——ズズズズズ……
「な、なんの音だ?」
ごく小さな音にアンドレが辺りを見渡す。地震のような。空気、大気が震えていた。次第にその音は大きくなる
「あ、あれ……」
ジェニファーの声にアンドレがその視線の先を——空を見上げた
キラリと光る何かが見えた
「お、おい……」
——星が降ってくる
「隕石よ! 逃げて!」
デーモンに向かって、そしてその線上にいるカイラをも巻き込んで。小さかった地響きは轟音となり、まばゆい光と共に降り注いだ
まるで無音のような爆音に包まれる
アンドレは咄嗟に土の壁を作り、何重にも重ねてジェニファーと自身を守る。二人は身を屈めその爆発と爆風に耐える
——そして、全てが消え去った
感じたことのない感情にセイファルは必死に耐えていた。このまま全てを委ねたらどうなってしまうのかが怖かった
だが、意思とは裏腹に体がそれを求める。いつものように魔力を流せば、それは今までに感じたことのない爽快感、優越感、開放感、恍惚感、高揚感といったあらゆる快感が体を流れていく
「ぁ……ぁんっ」
出したことのない声がこぼれ出す。恥ずかしさのあまりに口を手で押さえる
いつもなら、なにかとからかうユグラシル達も何も言わない
なんだろうか、まるでユグラシルの感覚までもが流れてきているようだった。その恍惚感を感じ、いつしかセイファルはカールのその存在感に身を委ねていた
心地よい感覚はユグラシルの圧倒的な高揚感によって終わりを告げる。ユグラシルの感覚にセイファルは、はっと目を覚ました
ユグラシル達はその感覚に身を委ね、全てを解放したのだ
セイファルが踏み出せなかった未知の世界に——いとも容易く踏み出したのだ
ユグラシルの喜びが、幸せがセイファルにも共有され、セイファルは羨望する
だが、その現実をみたセイファルは驚愕のあまり顔が青褪めた
全てを委ねて魔力を解放すればどうなるのか—
ユグラシルは神だ。その力は尋常ならざる物だ。そしてこのカールの体は、魔力を何倍にも、何十倍にも跳ね上げる。なぜかはわからない
神の力はカールの体を通し、神の域を超えた力になって顕れる
星と自然の神 ユグラシル
その力は星となって降り注いだ——
少女を近くの村に残すと、正義は残してきた二人の元へ急いで戻る。近くと言っても、かなり離れた場所なので、被害はないだろう
こんな自分を見捨てずに探してくれた仲間の為にも一刻も早く駆けつける
そう決意し、走り始めた正義は空の異変に気づき歩みを止める
「なんだ……あれは……」
空から降り注ぐそれに驚愕し、全速力で再び走り出した
——くそっ! なんだあれは!? 間に合ってくれ!!
正義が駆けつけた時、森に覆われた樹海は荒野へと変貌していた
「うそだろ……」
必死に辺りを見回しそれを探す。——まだ謝ってもいないんだっ!
星が落ちた中心から離れた場所に見えたくぼみ。そこに家族は居た
「二人とも!!」
正義は一目散に駆け寄り声をかける
「辛うじて一枚残っただけかよ……」
アンドレはあの瞬間、魔力を注ぎ頑強な土壁を数枚重ねた。それも一枚を残し全て吹き飛ばされたのだ
「あいたたた」
ジェニファーは尻餅をつき頭を押さえている
「二人とも大丈夫!?」
「なんとか……」
アンドレは体の土を払い落としながら立ち上がると、ジェニファーに手を差し伸べる
「ありがと」
「無事でよかった……」
正義は安堵のため息を吐く
「まだ無事とは言い切れないけどね。これからが本番よ」
三人は見つめ合い頷く。破壊神との勝負が始まるのだ
開いた口が塞がらないとはこの事か
俺は変わり果てた光景を呆然と眺めていた。まるで隕石でも落ちたかのようなこの光景、いったい誰がこんな事をしたのか
カイラか? あの勇者達か? まさかユグラシル共の仕業じゃないだろうな? そうだとしたら許さない
(おい! お前ら……っぶ!)
背後にいる二人に振り向くと俺の顔にユグラシルが飛び込んできた
(お、おい! なにするんだ!?)
『えへへ! カールだーいすき!!』
『だーいすきぃ!!』
(お、おう?)
なんだ? 気持ち悪いな
(セイファル? どうなってんの? なにがあったの?)
『ふんっ! 知らない!』
セイファルはそっぽを向いてしまった。こっちはこっちで機嫌が悪そうだ。意味がわからん
(ま、まあいいや。どうしてこんなことになってんの? カイラはどうした?)
『えっとねぇ。カールに包まれてね。気持ちがほわわ〜んってなってねぇ』
『ほわわ〜んで、びびびっって感じだよねぇ』
(なるほど、わからん)
『だからねぇ。カールだーいすきぃ』
『だーいすきぃ!!』
誰か通訳してくれ




