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異世界冒犬譚  作者: さくら
もう一つの未来
80/126

10話

よろしくお願いします

 その日、その瞬間、アクアホルンに住む全ての生命が同時に空を見上げた。圧倒的な魔力を感じ空から異変を感じたのだ


一筋の光が大地に降り注ぐ



いなくなったカールを探していたシャール達は、いち早くその異変に気付くと馬車へと避難し、結界で身を守っていた


「今のは?」


「カール?」


シャールとエルロッテは互いの顔を見つめ合い、その覚えのある力からすぐにカールの仕業だと察した


「一体なにが……」


「早くカールを見つけましょう」


なぜカールが力を使ったのか。身の危険があったのではないか——ならば一刻も早く見つけ出しその身を守らねばならない


実際問題、もはやカールに勝てる存在などいないという考えはあるのだが、むしろ逆だ。カールをこれ以上怒らせてはいけないのだ。その為にもカールに迫る悪意は自分達が排除すべきなのだ


「ですが、カール様がどこにおられるのか……」


エルロッテは顔を青褪めさせながらつぶやいた


「星が落ちた近くだとは思うのだけれど……」


シャールはそう言い顔を曇らせる。なにが起きているかがわからないのだ。カールが仮に力を使っていた場合、安全とは言い切れない


「あっ」


全員が声をあげたミルファを見る


「こっち……来いって」


おどおどした様子でミルファが森を指差す


「え?」


「妖精さんが……」


「っ!? ユグラシル様の事?」


『ミルファ、早く早く』


「あ、うん。でも……」


「あなた、ユグラシル様が見えているの?」


シャールの疑問にミルファが無言で頷く——シャール達は驚愕しつつもミルファの案内に言われるがままについていった




 『もうちょいもうちょい』


(もうちょいってなにがだ。ってか、こっちに本当にシャール達がいるのか?)


『うん、さっき僕らが呼びにいったから大丈夫』


先ほどから少年の姿をしたユグラシルしかおらず、少女の姿をしたユグラシルはいつの間にかいなくなっていた


(あ、そうなのね)


しばらく進むと前方から人影が近づいてきた


「「カール!!」」

「カール様!!」


シャール達が走り寄ってくると俺を抱きかかえる


「なにがあったの!?」


(えーっと、カイラが)


「っ!?」


カイラと勇者を名乗る一行が戦っていたという事実を告げる


「勇者?」


「そういえば、以前、皇都でも話題になっておりました。ノルベリン大陸のファーロス王国が勇者召喚をしたと」


カイラ襲撃、勇者召喚。思いもよらぬ出来事にシャール達は思考が追いつかない


「ひ、ひとまず、遠征は中止して屋敷に戻りましょう」


俺はミルファに抱かれ馬車へと戻った。この後、めっちゃ怒られた







 現実とは懸け離れた、まるでアニメや漫画のような世界に召喚され、人知を超えた能力を手に入れてもどこか他人事だった


ご都合主義的な力が働き、さしたる努力もせずにヒーローになれる。そう思っていた。事実、先ほどまでは自分達の前に敵はいなかったはずだった



現実はそんなに甘くはなかった



正義達を遥かに上回る力を持った存在が、なんの前触れもなく現れたのだ


姿こそ見れば、なんの変哲もない犬だが、その力は先ほどの現実が物語っている


これから起こりうる現実に正義は必死に足の震えを抑えようとしていた


「正義。一人じゃないわ」


「ああ、三人で力を合わせて乗り越えてやろうぜ」


見かねたジェニファーとアンドレが正義の肩に手を載せる


「ああ、破壊神を俺達で倒さないと……その為に呼ばれたんだしな」


自分に言い聞かせるように。奮い立たせるように力強く頷く


「その意気よ」


三人は目を合わせ頷く。死の覚悟などできるわけがないのだ


こちらの都合などお構いなしで迫り来る一方的な死に対し、無様に抗うだけだ


死にたくない、死なせたくない——その為に戦う


隔てた土壁の向こうには圧倒的な力を持つ破壊神が今かと待ち構えている。三人は意を決して飛び出す。世界の命運をかけた戦いが今ここに始まるのだ——


三人の視界が一気に広がる




——そこには誰もいない荒野が広がっていた




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