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異世界冒犬譚  作者: さくら
もう一つの未来
75/126

5話

よろしくお願いします

 正義は朝食をとりながら、うんざりと言った表情で周りを睨みつける。すると先ほどからこちらを横目で見ていた人間がすっと目を逸らした


理由はわかりきっていた。先日の騒動の件が噂になって広まったのだろう。少なくない野次馬の前で子供を泣かせたのだ。こうなっても不思議ではない


それでも誰も言ってこないのは、この場にいる全員が正義の実力を知っているからだった。ここ数日でこの町に出されている高難易度の依頼を次々にこなしているからだ


まるで腫れ物を触るかのような視線に内心うんざりしていた正義は、残っていた食事を掻き込むと、すぐに席を立ち酒場を後にした


居心地の悪いこんな町はさっさと出て行こうと考えていた


だが、それと同時に勇者の自分がなんでこんなコソコソしなきゃならないんだという気持ちもあった。文句があるなら力の差を見せつけても良かったのだ


だが、そこは正義の気弱でもあり、悪になりきれない感情が制止する。結果としてさっさと出て行くという選択をしたのだ


(あの子にはちょっと悪いことしちまったかな)


良かれと思って取った行動は結果として、いじめを加速させてしまったのだ


とはいえ、後の祭りでもある。探して一言かけたい気持ちもあったが、これ以上居心地の悪い場所に居たくなかった正義は足早に町を後にする


——正義はそれを見つめる視線に気づくことはなかった








 資金不足


旧バルミルス邸に集まるメンバーは頭を抱えていた。決してお金がないわけではない。このまま、みんなでのんびり暮らしていくには十分すぎるほどのお金はあった


本来の目的であるカイラ捜索、それをするためには多くの人達から話を聞かねばならない。その為の手段は二つある。各地に情報を集めに行くか、情報をここに集めるかだ


何れにしても、廃墟だらけの町では人が集まらない。集まったところでどうしようもないのだ


町の復興。その為には今のままでは圧倒的に資金が足りないのだ。だが、いきなり何かいいアイデアが思い浮かぶわけもなく、結局、依頼を受ける量を増やすということで結論に至った


その為に、今回から出稼ぎに行くチームを二つにしたのだ


皇都での依頼を受けるのは、タウレ、レイヴァン、シグル、オミロ


その他の地域に出向き依頼を受けるのが、シャール、エルロッテ、リプシー、ミルファ、そして俺というチームわけになった


レオンは町での作業がある。その為、シュナイダーも屋敷に残るのだ


皇都へと向かうタウレ達と別れ、俺たちはグリューンオスト地方のパントアという町へと向かっていた


「ミルファ、大丈夫?」


馬車の荷台でリプシーがミルファの体を気遣う。出稼ぎ組にミルファが同行するのは初めての事なのだ


「うん、ガタガタがすごいね」


「これの上に座るといいよ」


「これは?」


ミルファはリプシーから渡されたずた袋を興味深々に眺める


「中にわらが詰めてあるから、お尻が痛くならないよ」


一応、舗装されている大通りを通っているのだが、アスファルトで整備されているわけではない。道の至る所が窪んでいるのだ


それに車のようにサスペンションが付いているわけではないので、振動がモロに伝わって来る


ミルファとリプシーのやりとりを見ていた俺は、早々にミルファの膝の上に避難した


暫くすると周りを木々が覆い尽くし始めてきた。すると馬車が動きを止めた


「リプシー。準備をしておいて」


御者台にいるエルロッテが後ろを振り返りながら言うと、リプシーは無言で頷き、立てかけてあった剣を自分の胸元へと引き寄せた


(なんかあったのかな?)


『この臭いはゴブリンじゃろ』


『臭いー』

『臭い臭い!』


俺の疑問にセイファルとユグラシルが答える


「ゴブリンの気配がしているのよ」


シャールまで答えてくれた。俺の声は三人に聞こえているが、セイファルとユグラシルの声は俺にしか届いていないので、こういう事がよくある


(なるほど)


いちいち説明するのが面倒なので全員に聞こえるように言う


エルロッテとリプシーが馬車を降りる。どうやら近くにいるようだった


「やぁっ!」


——ッザシュ!


「ギィィイィ!!」


中からは見えないがどうやら戦闘が始まったらしい。まあ、ゴブリン程度であれば二人に任せておけば問題はないだろう


そんなやりとりが数分続くが、終わる気配がない。それどころか、手綱を握っていたシャールも参戦しているようだった


数が多いのだろうか? 気になった俺は荷台の後ろへと向かい顔を外に出す


目の前には手に石を握りしめたゴブリンがいた


(!?)


「ギッギィィッ!」


ゴブリンは振りかぶると、馬車に向けてその石を投げつける。綺麗な弧を描きながら石は荷台へと飛び込み、誰もいない場所に落ちた


石は反動で跳ね返ると、ミルファの肩に当たった


「きゃっ!?」


致命傷でも大怪我でもなんでもないのだ


だが、石に驚き倒れこむミルファを見た俺はゴブリンに敵意を向ける


(このやろう……)


俺は馬車を飛び出すとゴブリンを目掛けて襲いかかる。俺の反応に怖気付いたゴブリンは叫び声をあげながら森へと逃げだした


(待てや! このクソゴブリン!)


「ギィ!!! ギャァァァ!」


一心不乱に道無き道を逃げ惑うゴブリンだが、逃すつもりはない。所詮はゴブリンだ。一方こちらは知性豊かな大人。逃げ惑うゴブリンの行く先を想定し周りこむ


(とったぁぁ!!!!)


突如、横から飛びつかれたゴブリンは驚きのあまりその場に転がり込む


(くそが! とれてねぇぇぇ!!)


ゴブリンの上を飛び越える形になった俺は慌てて振り返る


「ギィィィ!!」


振り返った時には、ゴブリンの背中は茂みに埋もれて見えなくなってしまった


(……あれぇ?)


取り逃がすというまさかの事態に困惑する。とはいえ、逃してしまったのは仕方がない。馬車に戻ろうと振り返る


(……どっちから来たんだっけ?)


——迷った






 死者の女王カイラは薄暗い洞窟の中で一人思案していた


大陸を支配するためには皇都を落とさなければならない。だが、それをするにはまず憂いでもあるユグラシル、正確にはユグラシルが力を貸すカールを排除せねばならない


だが、カールというのが誰なのか、どこにいるのかがわからない


恐らく、あの時、部屋にいた誰かなのだろうが……


「考えていても始まらないわね」


カイラは立ち上がるとおもむろに外へと足を向ける。あれからそれなりの日々が経ち、全盛期とまではいかないが力も戻って来た


ならば、皇都を落とすついでにカールとやらも殺せばいいのだ


所詮、皇都などすぐ落とせる






 皇都へと一直線に飛ぶカイラはその大きな魔力に気付き、動きを止めた。今までに感じたことのない魔力。いったい誰が? とその方向を見る


既に自分が再び力を取り戻したことに気づいた皇都が仕向けた誰かだろうか?


カイラは自身が与える影響力を理解していた。自分ほどの者が復活したのだ、それを世界が放っておくわけがない


こちらに向かってくるわけでもないその不明な魔力を無視ししてもよかったのだが、気になったカイラはその魔力の元へと進路を変えた




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