3話
よろしくお願いします
マンダス大陸とヨルーダ大陸を隔てるようにそびえ立つガルゴン山脈。その中腹にある洞窟の中では異様な光景が繰り広げられていた
「お母様……」
「あぁ、愛しい息子よ」
無数のブロウガルが見つめる中、祭壇の上で二人の男女が縺れ合うように抱き合っていた
本来であれば今頃皇都を奪還しその玉座に座るはずだったのだが、ユグラシルの登場により身を隠したカイラは、その類い稀なる力を徐々に取り戻しつつあった
力を取り戻したカイラの姿は以前の醜悪な姿ではなく、かつて絶世の美女と呼ばれた美しさを取り戻していた
美しさを取り戻したカイラは次に最愛の息子を蘇らせる
長い時を経て再開した親子は、もはや親と子の関係を飛び越える。無数の配下であるブロウガルに見守られながら二人は情熱的に互いの体を求めあった
「お母様、今こそお母様が大陸の支配者として名乗りを挙げるべきでは?」
最愛の息子は恍惚な表情で隣に横たわるカイラに告げる
「焦ってはダメよ。妾達が再びこの世界を掌握するのはもはや運命といっても過言ではないわ。だからこそ、そのような運命を狂わそうとする要素はたとえどんな小さな事でも摘むべきよ」
「そんなものがあるのですか?」
その言葉にカイラはあの時の出来事を思い出す
『僕らはカールと一緒だよ?』
『カールが行くところに私達はいるよ?』
苦汁をなめたあの忌まわしい経験を思い出したカイラは顔を歪める
「カール……」
「え?」
「カールという者をまずは殺しましょう」
「おう! 坊主! ナメた真似すんじゃねぇ!」
負け犬の遠吠えにしか聞こえない男達の啖呵に正義はあからさまなため息を漏らす
「そういうのいいからさ。さっさとかかってこいよ」
とある町へとたどり着いた正義は酒場で複数の男達に囲まれていた。この状況のそもそもの発端は正義だった。依頼を見ていた冒険者達の間をわざとぶつかるように入り込んだのである
この世界の冒険者達は仲間意識が強い。新人狩りや冒険者間のトラブルはあるにはあるが、どちらかというと珍しい部類なのだ。酒場で酔った勢いで喧嘩は日常茶飯事だが、翌日にもなると喧嘩をしてた両者が肩を並べて酒を飲んでいるという光景もよくあることだった
酒場でその光景を見ていた冒険者達は一斉に正義を睨むように見つめる
既にこの状況からトラブルを起こしたのが他所から来たあの若い冒険者である事は理解できているのだ
というのも、この世界の依頼は早い者勝ちというルールがある。自分が受けた依頼が他の冒険者と被っていた場合、どちらかが無駄骨を折ることになるのだ。また自分の実力以上の依頼を受ければそれが命取りになる。ランク分けなどされておらず、どんな依頼を受けようが誰かが忠告してくれるわけでもないのだ
それだけに依頼を見る・確認するという事はとても重要な行為なのだ。自分にあった依頼を見分ける為、他人が受けているであろう依頼を避ける為に冒険者達の間では暗黙的なルールが幾つかある。その内の一つとして、掲示板の前では全員が平等に依頼を見れる権利を持ち、その行為を邪魔してはならないのだ。例えそれが新人であろうが、熟練の冒険者であろうが同じだ
正義はそのルールを破ったのだ。もちろん知らなかったというのもあるが、それ以上にわざとやった事の方が強い
掲示板前で依頼を見ていたのは大柄な男三人だった。決して大きくはない掲示板ではあるが、見えないほどではない。それに大柄で強面の冒険者ではあるが、他に依頼を見ようとする者がいれば、当然、横に避ける気であったのだ。それが冒険者としてのルールだった
「お前、ふざけんなよ……」
「はぁ……どうせお前ら程度じゃ受けられる依頼なんてたかが知れてるだろ」
「なんだと!?」
「面倒くせぇな。邪魔だ」
正義はパチリと指を鳴らす。突風が巻き起こり大柄な男達はいともたやすく壁に打ち付けられた
「今度からは相手をよく見てから喧嘩を売るんだな」
正義は倒れこむ男達に吐き捨てるように言葉を投げると、依頼を一瞥し酒場を後にする
(俺に敵う訳がないだろうが、身の程を知れよ)
正義はその力を奮い、行く先々でこう言ったトラブルを起こしていた。例えトラブルを起こしてもそれを退ける力を持っているのだ
夜の帳が落ちる頃、酒場は一番の活気を見せ始める。冒険者は元より、その町にすむ住民達の大半が押し寄せるのだ。娯楽が少ないこの世界では酒場に集まる事が楽しみの一つでもある
そんな喧騒に包まれながら、ジェニファーとアンドレは向かい合うように座っていた
「噂は聞いた?」
ジェニファーは肘をつき、顎に手を当てながらもう一方のてでグラスをあおる。「相変わらずまずいわね。この酒は……」
「正義の事か? あの若い冒険者ってのは正義の事だろう?」
「恐らくね」
「だいぶ無茶をやってるみたいだな」
「なんとかして早く見つけないと大変なことになるわよ」
「もう放っておいた方がいいんじゃないか?」
「なんでよ! 訳も分からずにこんな世界に呼ばれて……私達まで彼を見捨てたら、本当に彼は独りなのよ!?」
バンッとテーブルを叩きつけながらジェニファーは大声で抗議する。突然の音に何事かと周りの視線が二人に注がれた
「落ち着けって……」
周りに笑顔を見せ、なんでもないとアピールをしながらアンドレはジェニファーを宥める
「家族と離れ離れになった悲しみはみんな同じでしょ?」
ジェニファーはうっすらと目に涙を溜める
「ジェニー……」
「これ以上の悲しみを私達は受けるべきではないわ」
「そうだな。悪かったよジェニー。俺が間違っていた。正義を探そう。俺達は家族だ」
「もちろんよ!」




