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異世界冒犬譚  作者: さくら
もう一つの未来
72/126

2話

よろしくお願いします

 ノルベリン大陸はドワーフと呼ばれる種族が統治する大陸らしい。ドワーフというからずんぐりむっくりな奴らを思い描いていたのだが、単純に背の低い人間だった


正義は案内された謁見の間に集まる人達を観察しながら想像と違うドワーフに肩を落としていた


「うそでしょ? 会社はどうなるのよ!!」


突如、甲高い声で女性が叫んだ。声の主は正義と一緒に召喚された女性だった。というか金髪美女だ。


「戻れないのか?」


男は青褪めたような顔で何度も同じ事を繰り返している。というかこちらも外人だ。いかつい……


色々とツッコミどころ満載のこの光景だが、召喚された後に自己紹介を兼ねて三人で話しをした


金髪の美女はジェニファーと名乗った。アメリカ在住の女性で二十四歳のキャリアウーマンのようだった。体にぴったりと密着したスーツを着ており、おそらく仕事中にもかかわらずこの場に呼ばれてしまったのだろう


もう一人の男性はアンドレと名乗った。二十三歳と言っていた。見た目はアジアっぽく、黒髪だが顔の彫りが深い。ブラジル出身らしく格好がお洒落でいちいちイケメンだ。正義はあまり好きではないタイプの男だった


そもそもなんで言葉が通じるのかがよくわからない。日本語がペラペラなのだろうか? そんなことはないので、なにかご都合主義的な力が働いているのかもしれない


「混乱されるのも無理はございません。どうか落ち着いてください。それと大変申し訳ないのですが、元の世界に戻る方法は我々には伺い知れないのです」


玉座に座り、俺達を召喚した張本人アリアストと名乗ったお姫様が言った。戻れないという現実を突きつけられ、更に騒がしくなる光景を正義はけだるそうに見ていた



 収集がつかないという事で一旦お開きになった後、再び正義達は謁見の間に集まっていた。時間を置き、個別に説明する事で正義以外の人もようやく落ち着きを取り戻したようだった


「それで? 私達に何をさせようっていうの?」


ジェニファーは半ば諦めたような態度で玉座に座るアリアストに聞く


「今、この国は危機に瀕しています。マンダス大陸の皇国とヨルーダの教会が破壊神であるマグナス復活を目論んでいるのです。もしそれが実現されればこの世界は再び暗黒の時代を迎える事になります。勇者様達にはそれを阻止して頂きたいのです」


正義は先ほど侍女から聞いたこの世界の地図を頭に思い浮かべながら話を聞く。話を聞くにありきたりの流れだ


「破壊神って、そんな奴ら相手に俺達でなにができるっていうんだ!」


アンドレは頭を抱えながら叫ぶ


(ばーか。こういう展開ではチート能力があるもんなんだよ)


「ご安心ください。勇者様達には人知を超越したお力を宿されているはずです」


ほらきたとばかりに正義は顔を上げる


「まずはあなた様達のお力をご自覚して頂くべきですね。近衛隊長!」


「はっ!」


「勇者様達を訓練場へご案内しなさい」


「はっ!」


近衛隊長は敬礼を解くとこちらを振り返る。「勇者様! 私について来て頂けますでしょうか?」


近衛隊長に促されるまま、正義達は謁見の間を後にした





 「うまくいきますでしょうか?」


アリアストの隣に立つ歳老いた男が小声で呟く


「いくかではないわ。うまくいかせるのよ」


アリアストは睨みつけるように男へと言う


「はっ! 申し訳ありません」


「大陸の覇権を手に入れるのはこのファーロス家。いいえ、私以外にはいないわ」






 異世界物でよくあるステータスが見えるというチートは残念ながらなかった。もしかしたら、自分以外の二人は見えているのかもしれないと疑っていたが、二人のはしゃぎようを見る限り隠しているという事はなさそうだった


訓練場にきた正義達は自分達の能力を知るために兵士達と模擬戦を行った


最初に能力を発現したのはアンドレだった。彼の能力は土を操る能力だった。地面から土を隆起させ、防御も攻撃も行うのだ


ジェニファーは火を操っていた。少し以外だったが、戦闘時の気性の荒さを見たら妙に納得してしまった


そして俺の力だが、なんと複数の力が使えたのだ。火、風、土、水の全ての力を持っていたのだ


「さすがは勇者殿。正義の名前に恥じないお力ですな」


近衛隊長が近づきながら手を叩く


「へい! お前、すげーな」

「いくつも使えるなんてずるいわね!」


アンドレとジェニファーが馴れ馴れしく話しかけてくるのがうっとおしかった。お前らと一緒にするなと言いたかったがそこは堪える


更には身体能力も凄まじかった。かつてはニートだった事もあり、すぐに息切れを起こしていたのだが、嘘のように体が軽いのだ


「素晴らしいお力ですね」


声が聞こえて振り返ると、アリアストが満足そうにこちらを見ていた


「はっ! さすがは勇者というべきです。そのお力は我々では到底太刀打ちできませぬ!」


近衛隊長が敬礼を取り賞賛する


「まずはそのお力に慣れて頂きましょう。部屋をご用意させますので、今日はゆっくりと休んでください」


「まじで俺達、勇者なんじゃね? 映画見たいだよな!」


「救世主ね! 悪くないわね」


二人の会話を正義は一人離れた場所から聞いていた






 この世界に召喚され数日が経った。文明的な部分でだいぶ不慣れな所もあるが、要は慣れだ。他の二人も不満を言いながらもだいぶ慣れてきているようだった


今日は実践形式の訓練ということで、城から離れた森へと来ていた。ここを住処にしているグリフォンを討伐するのだ


「はは! 逃がさないぜ!」


アンドレの言葉と同時に地面が隆起する。空を飛ぶグリフォンの翼に命中すると、グリフォンは地面に叩き落された


「ナイス! アンディ! 次は私ね!」


タイミングを合わせたかのようにジェニファーが高く舞い上がる。落下しながら右手に炎を宿し、グリフォンに襲い掛かった


ドォンと響き渡る音と共に体ごとグリフォンに突き刺さると、炎が巻き上がる


「イエス!」


炎をまといながらもグリフォンは辛うじてといった様子で這い上がる


(面倒くせぇな)


正義は気怠そうに指をパチンと鳴らした


それを合図に風がグリフォンを囲むように巻き上がる


「ギィェェェェ!!!」


断末魔とともにグリフォンは崩れ落ちた


「凄まじいですな」


近衛隊長と兵士たちが近づいてくる


「グリフォンを倒すには軍総出でも苦労するのですが。勇者様達にかかれば赤子を捻るようなものですな! はっはっは!」


「私達なら余裕よ! ね? アンディと正義もそう思うでしょ?」


「そうだな! 破壊神でもなんでも連れてこいって感じさ!」


その様子を見た正義は一人帰路へと着く。馴れ合いなどやってられなかった。そもそも俺一人で十分なのだ


「ふぅー、正義は私達に心を開いてくれていないようね」


「なぁに、ホームシックにでもかかってるのさ。気持ちはわかるぜ?俺も初日は泣いちゃったしな。すぐに慣れるさ。俺たちは家族みたいなもんだしな!」


「そうね」


背中越しに二人の会話を聞きながら、正義は何が家族だと心で呟いた







 「一人で行くって……一緒に行かないの!?」


ジェニファーは正義の突然の発言に驚きを隠せないでいた


「どうしたんだ、正義? 俺たち家族だろ? 助け合って旅をしようじゃないか」


「悪いけど、俺一人で十分だから」


この世界に召喚されてから数週間が経ち、正義達は破壊神復活を目論むマンダス大陸、ヨルーダ大陸へと出発する予定だった。城門ではアリアストを筆頭に多くの見送りの人間が来ていた。ジェニファーとアンドレは出発後も見送りの人達が見えなくなるまで手を振っていた


城から離れた所で正義が突如一人で行くと言いだしたのだ


「何があったの? 思い悩んでいることがあったら私達に話してちょうだい?」


「そうだぜ。一人で悩んでいないで打ち明けてくれよ」


「うるさい! そもそも俺一人で十分なんだよ!」


引き留めようとする二人の言葉に次第に苛立ちを覚える正義は声を荒げる


「馴れ合いがやりたきゃ勝手にやってろよ。俺は一人で行く」


返事を待たずに足早に去る正義。ジェニファーとアンドレは顔を見合わせ肩を竦めた



 わざわざ旅立ちの日を待たずに最初からこうすれば良かったのだ。当初はいくらチートとはいえ危険も有り得ると考え様子を見ていたのだが、それも無駄だった


出てくるモンスターは雑魚ばかり、ドワーフに至っては相手をする気にもならないぐらい弱かった。エルフも居て魔法が使えるとのことだが、この様子では大したことはないだろう。唯一、勝負になるとすれば一緒に召喚されたジェニファーとアンドレぐらいだ


だが、それも俺の前では敵ではないだろう。アンドレは土、ジェニファーは火だけしか操れないが俺は違う。火、風、土、水の全属性が使えるのだ


最早、無敵と証明されたに等しい正義は自由気ままな旅を思い描きながら歩を進めた




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