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異世界冒犬譚  作者: さくら
君を照らす闇
66/126

6話

宜しくお願いします

 突如として現れた白い髪の美しい少女は、倒れ込んでいる犬を愛おしそうに撫でていた。マスタは声も出せずにその様子を見守る


『人間風情が、図に乗るなよ』

その言葉に腹の奥がヒヤリと冷える


「なんだこのガキは!?」

仲間が剣を抜き、身構えようとして——剣を落とした。「ぐあっ!?」


悶えるように首に纏わりつく何かを剥がそうとする


影だ。自分の影が首に纏わりつき、絞め殺そうとしているのだ


「カハッ! ……ガッ!!」

だらりと腕が落ち絶命する


熟練の暗殺者が何もできずに殺された


次は自分がああなるのだと理解させられる


『いた!』


幼い少年の声にマスタは飛び上がりそうになった


『セイファル! 逃げるな!』


幼い少女の声が聞こえる。セイファル?目の前の少女があのセイファル様なのか!?そんな馬鹿なと思いつつも目の前で起きた事実と圧倒的な存在感に納得もしていた


『……なんでカールが倒れてるの?』

『セイファル。お前がやったの?』


目の前には羽の生えた少年と少女が飛び回っていた。突如として場の空気が先ほど以上に張り詰める。マスタは生きた心地がしない


『ど阿呆! 妾がそんなことするわけないであろう!』


セイファルと呼ばれた白髪の少女が怒鳴る


『ならお前がやったのか?』

『お前か?』


目の前の小さな妖精がこちらを振り返る。マスタは経験した事のない殺意に腰が抜けそうになり、言葉も出ない


一つだけわかっている事実がある。目の前の存在に自分は殺されるのだ


『そいつでもない。やったのは外の黒装束の仲間達じゃ。もう妾が制裁したわ』


思わぬ助け舟にマスタはホッとするが、妖精達からのプレッシャーは消えない


『ふーん』

『じゃあ、そいつら全員殺そう』


妖精達が放つ圧力にマスタは意識が飛ばされそうになりながらも、この屋敷についた時の出来事を思い出す。シャールという美しいエルフの少女が言っていた言葉。カール、この犬は聖獣だと言っていたのだ。あの時は鼻で笑って気にもしないでいた。だが、目の前に現れたセイファル、そしてセイファルと同等に話すこの妖精は恐らく…… いやまぎれもなくユグラシルなのだと。シャールの言っていた事は事実だったのだ


『馬鹿者! この辺り一帯吹き飛ばす気か!! そんな事をしたらカールが悲しむじゃろうが!』


セイファルの言葉に妖精がピクリと動きを止める


『じゃあ、どうするのさ』


苛立つユグラシルがセイファルに言い寄る。一触即発といった状態だった


『ひとまず、カールの手当てをせんとな』


セイファルが手をかざすと淡い光がカールを包み込む。いくら力が衰えているとはいえ神の魔法であればこのような傷など一瞬で回復してしまう。——カール以外ならの話だが


『む?』


一向に回復しないカールにセイファルは眉間に(しわ)を寄せた


『無駄だよ』

『カールに魔法は意味ないよ』


得意げに言うユグラシル


『なんじゃと?』


魔法が効かないとはどういうことか。そんなことはあり得ない


『カールは魔素がないんだ』

『ないのー』


ユグラシルの言葉にセイファルは何を馬鹿なと言いかける。有るものが無いとはなぞなぞか何かか。だが、膝に頭を乗せたカールをじっと見つめ、それが事実だと理解する


『馬鹿な。本当に魔素がないのか?』


道草の雑草でさえ魔素はある。あって然るべきなのだが——それがない


『むぅ。困ったのぅ』

魔素がなければ回復魔法すら意味がなくなるのだ。それでも一応は掛け続けてはいる


『僕らも手伝おう』

『私もやるー』


ユグラシルがカールの傍に近づき魔法を重ねる


『あっ!? 馬鹿!!』


辺りがまばゆい光に包み込まれる


「———ッ!?」


目も眩むような光にマスタは顔を手で覆う。光が収まり、再び目を開けると、そこにはカールだけが横たわっていた






 『ここどこ?』

『どこ?』


普段とは違う目線にユグラシルは戸惑う。まるで地面に寝そべっているかのようだった


『このたわけが! 魔法を重ねがけする馬鹿がおるか!』


回復魔法といっても闇と自然では要素が違う。つまりは別物なのだ


『ふーんだ』

『自分だけ良い所見せてカールに気に入られようとしても無駄だよー』


ユグラシルの言い分に頭が痛くなるセイファルだった


『そんなことより、これをどうするかじゃのぅ』


そう、この状況が何なのかをセイファルは理解していた


『どういうこと?』

『どういうこと?』


『恐らくだが、今、我々はカールの体の中におる』


『え?』

『カールの中?』


『そうじゃ、恐らく見ている景色も全員同じじゃろう』


『じゃあ……こう……すれ……ば?』

『おぉーすごいすごい!』


視界が動き始め、地面が遠のく。立ち上がれた


『お、おい。無茶するなよ? というか勝手に動かすんじゃない!』


突然動き始めた「自分の体」にセイファルが慌てる。『きゃはは。なにこれ楽しー』『走れた!』


視界の景色はリビング、廊下と流れ、そして外の風景が広がった。目の前ではシャール達が暗殺者達と戦っている


『あ、あいつらがカールをいじめたんだよね』

『お仕置きだー』


『馬鹿者! お前らが暴れたらとんでもないことに……と言ってもカールの体だから平気か? いや! カールが傷つくじゃろうが!』


セイファルの言葉を無視してユグラシルが魔法を放つ。——カールの体を通して




——ッズガァァァン!!!!




『え?』

『あれ?』


ユグラシルが間の抜けた声を出す


『な、な、な、なにをやっとるんじゃ! 全力で魔法を撃つ馬鹿がどこにおる!』


『違うよ? ほんのちょっと、試し撃ち程度のはずだよ?』

『そうなの?』


試し撃ちのつもりでほんのちょっと魔力を放ったつもりだった。だが、その結果は地面が抉られるほどの高威力だった。あまりの威力にシャール達だけでなく、暗殺者達も動きを止め、こちらを驚くような目で見ていた


『これ、すごい楽しいかも……』

『次は私! 私だよ!』


『お、おい! よさんか!』




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