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異世界冒犬譚  作者: さくら
正義の味方
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7話

よろしくお願いします

 長く伸びた通路は先が見えず、永遠に続いているようにも見えた


俺達はあれからこの地下らしき屋敷の中で出口を求めて彷徨っている。道中では数体のブロウガルがいたのだが、どれも単独で徘徊していたので難無く撃破できた


その後も探索をしていると長い通路へと出たので歩いているのだが、行けども行けども通路が続いており、まるで無限にこの通路が続いているかのような錯覚を受ける


「止まろう」


ふいにレオンが話しかけてきた


「この通路はやっぱりおかしい。何度もこの扉の前に戻って来てる」


長い通路では一定の間隔で扉を横切っているのだ。レオンの言葉に全員がその扉を見つめる


「どういうこと?」


リプシーが怪訝な表情でレオンの顔を伺う


「恐らくこの部屋に入れってことなんだろうね」


今まで感じていた感覚は錯覚ではなく、この扉に入るように仕向ける為に同じところを延々と歩かされていたのだろう


「どうすんだよ。入るのか?」


「や、やめようよ……」


シグルは恐る恐るといった様子で扉を見つめている。オミロは周りが気になるのかキョロキョロと落ち着きがない


カイラは俺達を自分の元へと来るように誘導しているのだろう。とはいえ、先ほどからユグラシル達が何も言わないのも不思議だった


(なあ、この先にカイラが待ち受けてたりするのかな?)


俺からはユグラシルが見えないのだが、背中に乗っている感覚はある。だが返事は返ってこない


(おい、聞いてるか?)


後ろを見る様に背中を覗き込むと、俺の背中でぐったりと横たわるユグラシル達がいた


(お、おい! 大丈夫か!?)


『しんどいー』

『つかれたー』


俺の背中にのって休んでたくせに疲れたとは何様だと睨みつける


『魔素ぎれー』

『眠いよぉ』


どうやら、洞窟内で俺をサポートしたのが精いっぱいだったらしい。この後更にやばいのと対峙しなければいけないのだが、なんとも頼りない連中だ


(魔素切れしたら消えてなくなるとかないよな?)


『それは大丈夫』

『消えたら寂しい?』


(いや、まあ、寂しいっちゃ寂しいけどさ)


『えへへ』

『寂しいんだー』


なんだこのやりとりは


(まあ、無理すんなよ)


出来れば無理してほしい所なのだが、そういうわけにもいかないだろう


「っひ!?」


突如、ミルファが短い悲鳴を上げる


「どした!?」


シグルが腰の剣に手を当て身構える


「あ、ごめん。なんでもない……カールがいきなり後ろを振り返るから何かいるのかと」


ユグラシルは俺以外には見えていないのだ。まるで後ろに誰かいるかのような行動をした俺にびっくりしたようだ


「カールぅ……あんまりビビらせるなよな」


俺が悪いのか? いや、俺が悪いのか……


「中に入ろう」


そのやり取りを見ていたレオンが意を決したように扉に手を掛ける。その様子を子供たちは固唾を飲んで見ている。もはやほかに道はないのだ。このまま延々と歩き続けていては子供たちの体力が持たない


扉を開けると広い部屋が現れる、目の前にはとても長いテーブルと椅子。テーブルの上には今まさに用意されたばかりの豪勢な料理の数々が並べられていた。そして、最奥の椅子に座り、客人を出迎える人物がにっこりと微笑む


《ようやく入って来てくれたのね。待ちくたびれてしまったわ》


頭に響く不快な声で部屋の主は続ける


《さあ、あなたたちの為に温かい食事を用意したのよ。席に座って召し上がれ》


恐る恐る入って見たものの、目の前には温かい食事と優しそうな貴婦人がいるだけだった。話に聞いていた死者の女王カイラは嘘だったのだろうかと子供達は一瞬唖然とする


「おいしそう……」


オミロはぽつりと呟く


子供達は洞窟に入ってから飲まず食わずでいたのだから余計にそれが宝石のように見えたのだろう



 一方、俺はオミロがおいしそうと呟いたのを聞いて、何をいってるんだこいつとオミロを凝視する


目の前に飛び込んできたのは古ぼけた長いテーブルと椅子。そのどちらも埃まみれだ。その上にはひび割れた食器などが並べられており、この状況で何が美味しそうなのかが理解できなかった。恐怖のあまりに頭がイカれちゃったのだろうか?奥では骸骨が擦り切れた服を身に纏い不気味にこちらをみているだけだ


『幻惑かけられてるよ』

『魅了されてるよ』


なるほど


「ウウウゥ……ワン!!!」


こんなことでどうにかなるものかと思いながらもひとまず正気に戻れと一吠えしてみる


「「「っ!?」」」


突然の鳴き声に子供たちはびっくりして身を固める


「うわ!? なんだこれ!?」


「ご飯がなくなっちゃった!!」


シグルとオミロが慌てる様に周りを見渡す


《あら、つまらない。まあいいわ。こっちの方が手っ取り早いし》


部屋の奥の椅子に座った骸骨が手を上げると、突如テーブルの周りに黒い霧が立ち込める。聞いたことのないような音と共に黒い霧の中からブロウガルが現れる


《さあ、早く私の元へおいでなさい。 死体になってね》


六体のブロウガルが一斉にこちらへと近づいてきた


「扉が開かない!!」


リプシーとミルファが先ほど入ってきた扉を開けようとするがどうやら閉じ込められたようだ


「シグル! 皆を守るんだ!」


レオンが一歩前に出て剣を構えると、シグルがそれに応える様に剣を抜く


はっきり言ってこの状況はまずいだろう。今までは一体だったから倒せていた。それも辛うじてと言うところが大きい。それが六体同時となればとてもじゃないが太刀打ちできないだろう


逆に一体ならレオンとシグルでなんとかできるんじゃないだろうか


(ユグラシル。ちょっと離れてろ)


背中で休んでいるユグラシル達を離させると俺は飛び出しブロウガルの足を縫うように奥へと駆け抜ける


「うがああああ……」


ブロウガル達は俺をめがけて剣を振り下ろすが、当たる気配はない


「シグル! 目の前の敵に集中するんだ!」


レオンは俺の突然の行動に戸惑うことなく、目の前の一体に剣を向ける。以前にもこうしてレオンを助けたのを覚えていたのだろう


部屋の中を目まぐるしく駆け回る。その間も5体のブロウガルの目線を常に意識し続ける。姿を捉えられず俺を追うのを諦めレオン達の方へと目線を向けた奴は足を引っ張ってお仕置きだ


レオンとシグルは一体、二体と順調にブロウガルを倒していく。思った以上に奮闘しているようだ。だが、それを快く思わない部屋の主が声を上げた


《どうやら獣臭いのが紛れ込んでいるようね。わらわの部屋には相応しくないわ。ご退場頂こうかしら》


俺の事か。骸骨に臭いとか言われたくない


先ほどまでカイラが座っていた椅子を見るがそこにカイラはいなかった


その真上、空中でゆらゆらと浮いているカイラの骨がこちらを見つめていた


《あなたは死んでもわらわに仕える事は許さないわ》


目もくらむ稲妻がほの暗い部屋を一瞬照らし、空気を裂いて俺へと襲い掛かる。鼓膜を破られるかの如く響き渡る爆音にレオン達は耳を塞ぎ顔を伏せた


轟音が鳴りやみ静寂が訪れる


「カール……カール!!!」


レオンが泣き叫ぶように俺の名前を呼ぶ。凄まじい魔法を浴びた俺を心配してくれているのだろう。カイラと言えばにやにやとこちらを眺めている。骸骨なので本当には笑っていないのだが……



でも、大丈夫!



その状況を認識させる前に俺は風を切るように椅子、テーブルへと飛び上がり、カイラに牙を剥けた




 正直、物凄く怖かった。俺には魔法が効かないと理解はしていた。だが、目の前に炎やら雷やら、竜巻出されてビビらないほうがおかしい


だが、雷だったからだろうか、あまりの速さに恐怖と安堵が同時にやってきた。後は慣れだった


これで確信が持てた。理由はわからないが、俺には魔法は効かないのだ。これは一種のチートと思っていいんじゃないだろうか?


いや、だが普通に殴られたら痛いから大したことはないかもしれない


いやいや、でも魔法が無効ってことは純粋に身体能力の勝負になるから何気にすごいんじゃないか?


いやいやいや、魔法で身体強化とかされてたら手も足もでないんじゃね?


わからん



《妾に牙を…… 妾に…… 傷を……》


おっと、魔法に関しては要検証という事にしよう。検証したくないけど。まずは目の前の奴をどうにかせねば。魔法が効かないならただの骸骨だろ


《許さないわ!!!! この獣風情がぁぁ!!》


決して渾身の一撃を与えたわけではなかった、骨が服を着ているだけなので牙がその身に食い込むこともなく、服の裾だけが切り裂かれただけだった。だが、カイラの感情を逆なでするには十分すぎた。気高き死者の女王は激情を抑え切れず、その身から黒い煙をまき散らし、強い緊迫と苛立ちを外へと向ける


腫れ物に触る。まさにそれをやってしまったのだ


《死にたくなるほどの苦痛と絶望を貴様らに与えてやろう》


まき散らされた黒い煙がカイラの足元に流れ落ちていく。次第に煙は床を飲み込み、煙の中で何かがうごめいた


ゆっくりとせりあがってきた影がその姿を現す



それは醜悪と言う以外に他ならないなにかだった



肉の塊、人の形をしたぶよぶよの肉の塊。顔らしき辺りからは口のような隙間が開き歯が見え隠れする


断末魔に似た声を発し、腐臭をまき散らしながら、肉は液状に崩れ落ちていった。不要な肉が崩れ落ちると、そこには人の皮を剥いだような醜悪で人ではない者が立ち尽くしていた


「キシャァァァァァ!!!」


空気を裂くような声でこちらを威嚇するとその姿が消えてなくなる


辛うじてその姿を捕らえた俺は壁へと目を向ける。化け物は壁にへばりつきこちらを凝視する


身体能力での勝負。それすらも敵わない相手を前に俺は絶望を感じ取った



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