6話
宜しくお願いします
皇国が設立されて442年の歴史の中で大きな事件や極悪人と呼ばれる人物は少なからずいた。その中でも一番凶悪な人物は誰かと聞かれれば人々はまず間違いなく彼女の名前を上げる事だろう。それこそが死者の女王カイラである。皇国があるマンダス大陸のみならず、ヨルーダ、ノルベリン大陸すらも震撼させ、その伝説は後世語り継がれ色あせることはない。いや、むしろ過大され、より凶悪な人物として恐れられている
今は亡き物語に登場する恐るべき死者の女王その人からの言葉を聞いた子供達はこの世の終わりが来たかのような表情で立ち尽くし、あるいは座り込み泣き続けていた
「泣くな! 俺たちはスターアビシオンだぞ! 悪い奴は退治するんだ!」
強がりもここまでくれば大したものだろう。シグルは足の震えも隠さずに叫ぶ
「だから僕は来るの反対したんだ!」
オミロが頭を抱えながら叫ぶ
「今更言ったってしょうがないだろ!」
「皆落ち着くんだ」
シグルとオミロが言い争うのを制止する様に、落ち着きを取り戻したレオンが優しく話しかける
「ひとまず出口を見つけよう。カイラに見つからないように」
「逃げるのかよ!」
「死者の女王に勝てるわけがないだろう!? いいかい。ここは一度帰って大人達に助けを求めに行くんだ」
「でも……」
「逃げたからって負けじゃないよ。本当の正義の味方は信念を持って誰かの為に戦う人だよ」
「正義の味方は悪者を懲らしめるんだろ!」
「何のために? シグル。君は胸に誓って自分を良く魅せたいとか、目立ちたいとかではなく、本当に正義の為に戦っていると言えるかい?」
「……」
カッコいい、皆に褒められたい。子供の正義のきっかけはそんなものなのかもしれない。別にそれに関して咎められる事でもなんでもない。だが、今は相手が悪すぎる
「むしろカイラ復活の事実を伝えれば、それだけでも表彰されるべきものだ」
いや、なんでそんな危ない事したんだって怒られる気がするが
「わかった……」
「うん、良い子だ。安全なところに戻るまでは君が皆をちゃんと守るんだ。正義の味方なんだろ?」
「わかってる! 俺が皆を守ってやる! オミロ! いつまでも泣いてんじゃねぇ!」
「いて! もう無理だよぉ……」
弱音を吐くオミロをシグルが無理やり立たせる。ひとまずレオンの説得で無茶な事はしないだろう。簡単にここから出れるとも限らないのだが
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シュナイダーは町へと戻るも次に取るべき行動がわからず立ち尽くしていた。
レオンがあの洞窟で姿を消した。だが、それを誰に伝えるべきなのかが問題だ。本来であれば城の人間に伝えるべきなのだがそれはできないのだ。レオンがあの洞窟に子供達を連れて行っていることは誰も知らない。そもそもレオンが城を抜け出して、町の子供達と遊んでいるという事がバレれば大問題だ。自分が責められるならまだしも、レオンの立場がまずくなることは絶対に避けなければならない
レオンが消えた状況からして何かしらの魔法による可能性が高い。だとすれば城の魔導士達に助けを求めるべきなのだがそれはできない
「くそ! どうすれば……」
戻ってきた事は間違いかと思い始めた時、ふと女性の声が聞こえた
「あれは……」
シュナイダーはその二人の女性に一筋の光明を見出す。あの人並みならぬ魔法を使ったエルフの女性ならばなんとかしてくれるかもしれないと
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「エルロッテ! そっちには居ましたか?」
「いえ、こちらにも居ないようです」
朝起きるとカールがいなくなっていた。こんなことは初めての事だった
シャールとエルロッテは慌てて部屋の中を探し周り、どこにもいないとわかると今度はこうして外へと探しに来たのだが、一向に見つかる気配がない
「どこにいったのかしら」
考えたくはないが頭の中では嫌な想像が次々と思い浮かび目が潤む
「申し訳ありません。私の不注意でこのような事に」
そもそも部屋の鍵は閉まっていたので部屋から出たという事は考えられないのだ。にも関わらずいなくなっているのが不思議でならなかった
「あなたのせいじゃないし、考えても仕方ないわ。カールを見た人がいないか聞いて回りましょう」
「はい!」
カールはこの世界でも珍しい姿をした犬だ。その外見から一度見れば記憶している人も多いかもしれない。だが、珍しいからこそ下賤な輩が金目当てに狙う可能性もあるのだ
言葉が通じる様になってから、自分達と出会う以前の話も聞いていた。数人の男達に捕まり売られたという事も。なぜもっと注意深く行動しなかったのだろうか
シャールは自分の不甲斐なさを痛感しながらもより多くの人達に話を聞きに行こうと踵を返す
「きゃっ!?」
カールの事で頭が一杯になっていたため、背後に人がいることに気づけず、振り向き様にぶつかりそうになってしまった
「も、申し訳ありません。急いでいたので……」
ぶつからずに済んだものの、突然の事に動揺しながらも謝罪の言葉を口に出す
「失礼。あなた方はシャール様とエルロッテ様ですね?」
「え?」
なぜ自分たちの名前を知っているのかと疑いつつも目の前の男性の顔を見る
「以前、レオン様と共にいる時に助けて頂いたシュナイダーと申します」
「あ……!」
目の前の男の顔に見覚えがあったシャールは驚いたように口元を手で隠した
「お二人に内密にご相談がございます。お話を聞いては頂けないでしょうか?」
突然の願いに二人は顔を見合わせる。今はそれどころではないのだ。そんなことよりもカールを探しに行きたい
「シュナイダー様。申し訳ありません。私達はカールを……」
「カール様の件とも関係がございます」
「っ!?」
「出来れば人気のない所でお話させて頂きたく」
「わかりました。私達の部屋で話しましょう」
「感謝致します」
シュナイダーは頭を深々と下げ感謝する。話を聞いてもらえるという感謝の念もあったのだが、それ以上にカールの名前を出した途端にシャールの目つきが変わったのだ。それだけで二人にとってカールがどれだけ大切な存在だったかが伺えたのだ。この後、二人の協力を得る為には誠心誠意の謝罪を持って接するしかないと判断した
「レオン様が!?」
「やんごとなきお方かと推測していましたが、まさか皇子様とは……」
シュナイダーはここに至るまでの経緯を包み隠さず二人に話した。レオンが第二皇子であり、その護衛の任を仰せつかっている事。レオンが如何に民の事を考えているか、その行為が行き過ぎて時折こうしてお忍びで町へと出向いている事。前回の洞窟の件もその一環だった事。すべてを話した
「第二皇子ともある方がお忍びで町の子供と遊んでいると知られれば、たしかに問題になるかもしれませんね」
この世界では階級制度は絶対なのだが、そこまでの差別はない。現にレオンが子供達を自分の宮廷へと招いて遊ぶ分にはなんら咎められもしないはずだったのだ
「ありのままの市民の暮らしが見たいと皇子はお考えでした」
「気持ちはわからなくはないですが……」
「それで、なぜカールを?」
「レオン様とそのお友達はカール様の事を大変好ましく見られていたようです。私もまさかカール様をお連れしていかれるとは思いもよらず・・」
「レオン様が鍵を借りて?」
「恐らくは」
「後程、宿屋の主人に文句を言っておきます」
宿屋の主人からすれば皇子に言われたのでは鍵を渡さないわけにはいかなかったのかもしれない。だが、それはそれ、これはこれだ
「以前の洞窟にレオン様達は向かいました。その際、やつらの根城を発見したのですが、そこで黒い霧に包まれ……」
レオン達がいなくなった経緯を説明しながら、シュナイダーは自身の不甲斐なさに顔を歪める
「なるほど。わかりました。カールが居るのであれば私達にとっても重要な事。お手伝い致しますわ」
「お嬢様。よろしいのですか?」
「ええ、カールを勝手に連れ出した事については思う所もありますが……今はカールと子供達の身の安全が最優先です」
シュナイダーが連れ出したわけでもないのだ。むしろカールがどこにいるのかが分かった事の方が大きい
シャールは立ち上がるとすぐに出かける準備をし、シュナイダーと共に洞窟へと向かった




