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異世界冒犬譚  作者: さくら
正義の味方
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4話

よろしくお願いします

 静けさに包まれた洞窟の中を五人と一匹の足跡だけが響き渡る。どれだけ奥へと進んでも虫一匹すら出てこないのだ


「なんにもいないね」


あまりに拍子抜けな状況に思わずオミロが呟いた。怖いという思いもありつつ、どこか物語のような戦いにも憧れていたのだ。だが、肝心の相手がまったくと言っていいほどいないのだ


「油断するな。どこから襲ってくるかわからないぞ」


リプシーとミルファはすでに飽きてしまったかのように歩みを進めるが、レオンとシグルは緊張を解く気配はない


しばらく進むと一段と開けた場所へと出た。ここも見覚えのある場所だった。あの怪しい集団が膝をつき、なにかを祈っていた場所だ。あの時は異様な光景に目を取られていたのだが、今は落ち着いてゆっくりとその様子が観察できる。前方には地下の水が流れ出し小川ができていた、その周りの土は所々発光しており幻想的な風景を作り上げている。小川に掛かった石の橋の先には大きめの祭壇が見える。あそこで祈っていたのだ


辺りを警戒しながら祭壇へと近づくと、地面には所々に血のりが付いていた


「なんにもないね」


オミロは大げさに肩を落とし残念そうにしている


「おい、奥にも通路があるぞ」


(なあ、奥になにかいるとかわかったりする?)


ここから先は俺も行ったことがない。できることなら危険は冒したくないがこの子供達相手では止めるのは難しいだろう。で、あれば事前に察知できないかと試しにユグラシルに確認してみた


『いないよ』

『いないね』


どうやらわかるらしい。便利だ


『でも、奥にはなにかいる?』

『いるの?私には感じないよ?』


ユグラシルは二体いる。一体は少年の姿をした妖精で、もう一体は少女の姿をした妖精だ。少年ユグラシルには何かが感じ取れるらしいが、少女ユグラシルには何も感じないらしい。気のせいなのだろうか? 不安になるからそういうのはやめて欲しいのだが・・


『気のせいかも』

『うん、そうだね』


(やめて、それはきっとフラグよ)


フラグってなに? と言いたそうに俺の頭の周りを浮遊するユグラシル達を恨めしそうに睨みつけておいた


「そろそろ引き返した方がいいんじゃないかな?」


レオンが進言するが、子供たちは聞く耳を持たない。大きなため息とともに後ろに目を配る。シュナイダーがちゃんとついてきているか心配なのだろうが、確認できないでいるようだ。それだけシュナイダーがうまく隠れているという事だろう。俺にはバレバレだけど


「あ、ちょっと、待ってよ!」


後ろを気にしている間にも子供達は奥へと進んでいってしまった



 『なんかある』

『なんかあるね』


ユグラシル達が何かを発見して知らせてくれる。これで既に三度目の警告だ。ユグラシル達は俺達には気づかない罠を誰よりも早く察知し教えてくれるのだ。それを聞いた俺は三度目になる警告をレオンに伝える。言葉は通じないので、レオンのズボンのすそをちょいと引っ張り前方に向かって唸るのだ


「みんな止まって」


レオンが全員を止め、一歩前に出ると慎重に前方を探り始める。レオンは魔法の素質があるようで、魔法の罠を先ほどから解除してくれているのだ


「これでよし。よくわかったね」


慣れた手つきで魔法の罠を解除するとこちらに近寄り俺を撫でる


「レオンすごーい」


「いや、カールが教えてくれないと気づかないほど巧妙な罠だよ。だから、あまり先に行かないで固まって動いてね」


「「「はーい」」」


「期待の新人だな!」


シグルはなぜか得意げになっている。まあ、変に対抗心だされて先走られるよりはいい


(だってよ。すごいじゃんお前ら)


『へへへ』

『エースだもんねー』


ユグラシルを連れてきたのはもちろんその力に期待していたところが大きいのだが、それ以上に先日のスターアビシオンの集会でのやり取りが楽しかったらしく、ノリノリでついてきたのもある。俺がスターアビシオンの団員になったと言うと羨ましそうに自分たちも入れろとせがみ始めたのだ。分身とは言え神なのにいいんだろうかと思いつつも、ひとまず俺が勝手に許可すると嬉しそうに飛び跳ねていたのだ。喜びようを見るに見た目と変わらない精神年齢なのかもしれない。まぁ、初対面の時になんとなくわかってはいたが…… ひとまずこの団員ごっこが楽しそうなので良しとしよう


『あっ』

『あっ』


飛び回るユグラシル達はぴたりと動きを止め、俺の頭に乗る


(どうした?)


『臭いのが来る』

『汚いのが来る』


ユグラシル達の指摘と同時に俺の鼻にブロウガルの鼻につく臭いが飛び込んできた


「ガルルルルゥ……」


すぐさま身を低くし前方を威嚇する


「皆下がって! 何か来る」


レオンが腰の剣を抜くと、その隣では目を輝かせたシグルも剣を構えている


後ろではリプシーがオミロとミルファを庇うように構えている


武器を持っているのはレオン、シグルとリプシーだけだ。オミロとミルファはさすがに危ないのか木の棒だけを持っているが、恐怖で棒を抱きしめているだけだ


「う……あぁぁぁぁ……」


レオンが松明を前方に放り投げると奥の通路が映し出される。すると暗闇から一つの影がゆらゆらと大きくなり、ブロウガルが姿を現した


ブロウガルは辛うじて生き残ったという風貌をしていた。片方の手に武器を持ち掲げているが、もう片方の手はなんとか繋がっているといった様子だ。足を引きずりながら突如現れた侵入者たちに襲いかかる


ブロウガルは弱い部類のモンスターだ。更に負傷もしているので駆け出しの冒険者であれば簡単にあしらえる程度だ。だが、こちらはまだ幼い子供達でしかない。十分強敵だ


「く、くるよ……」


レオンもどことなく震えている。魔法の素質はあるが剣の素質は褒められるほどでもないのだ、無理はさせられない


「くらええええ!」


一方、シグルは怖いもの知らずだ。それにメンバーの中でも一番体格がいい。太った体からは想像できない速さで飛び掛かる



——ッガキン!


いくら速いとはいえ、所詮は子供だ。シグルの振り下ろした剣は容易に受け止められてしまう


「くそ……っ!!」


「うがぁぁ……ぁぁ……」


「うわぁぁ!」



——ッガィン!



反撃してきたブロウガルの剣をシグルが無我夢中と言った様子ではじき返す。正直危なっかしくて見てられない


とはいえ、俺も人の事は言ってられない


剣と剣が入り乱れる様に交差していく、その様はどんなにひいき目に見ても戦闘とは呼べない代物だ。振り回した剣がなにかに当たってるというだけの状態だ。だからこそ余計に間に入っていけない


俺がタイミングを掴めず飛び込めずにいると、事態はブロウガル優勢になる。レオンが剣の重さでよろめき、シグルもブロウガルの力で尻餅をついてしまった


ここしかない


(ユグラシル! 魔法使えなくてもなんかできないか!?)


『んー』

『初級魔法なら少しは?』


(お願い! しまっす!)


ユグラシルの返事も待たずに俺は飛び出す。初級魔法がなんなのかはわかない。俺ができる事と言えば噛みつき、体当たりなどでの態勢を崩す程度だ。相手は動くので当たるかどうかは怪しい所ではあるわけだが……結局はユグラシル頼みなのだから情けない


尻餅をついているシグルの横をすり抜け、剣を振りかぶるブロウガルの足目掛けて力いっぱい体当たりを仕掛ける


その時、一陣の風が俺の体に纏われる。なんだこれ?


疑問に思いつつも途中で止まれないのでそのままブロウガルの足を噛みつこうとする


だが、俺の口が足を捕らえることはなかった。正確には捕らえるべき足が俺の鼻先で消えたのだ


身に纏う風がブロウガルの足を細切れにしたのだ



いやだ、なにこれ



勢い余って飛び出しすぎた俺は振り返ってブロウガルを見る。そこには片足をなくしたブロウガルがよろめいている。そしてバランスを崩して倒れ込んだ


「うわあああああ!」


叫びにも似た掛け声でシグルが倒れ込んだブロウガルに剣を突き刺す


「があああぁぁあ……ぁぁ」


「シグル離れて! ファイアーボール!」


手のひらサイズの火の玉がブロウガルの顔に当たり燃え盛る。ブロウガルは剣を突きつけられて身動きが取れず、顔だけが黒焦げになって絶命した


「はぁ、はぁ。や、やった!やった!」


シグルは肩で息をし、額から汗を流しながら初めての勝利に歓喜する


「よかった。皆は怪我はない?」


レオンは後ろで震えている三人に声をかける


「ひ……っ」


「ミルファ?どうしたの?」


「怖いよぉ……帰りたい……ひっぐ」


幼い少女には刺激が強すぎたようだ。その場に座り込んで泣きじゃくる。それにオミロが感化されてこちらも顔をくしゃりと歪ませて泣いている


「なんだよ。情けないな。そんなんじゃスターアビシオンのメンバー失格だぞ!」


先ほどの戦いで自信をつけたシグルがふんぞり返って叱咤してくる


「ちょっと! そんな言い方ないでしょ! シグルだって尻餅ついて怖がってたじゃん! レオンとカールが助けてくれたから勝てただけじゃん!」


そんなシグルにリプシーが噛みつく


「う、お、俺一人でも倒せた!」


「はいはい、なら次は本当に一人だけで戦ってみなさいよ! ミルファ大丈夫?」


シグルの強がりを適当にあしらうとリプシーはミルファを抱きしめてあげた


「少し休憩しようよ。あまり奥にいくのも危ないし」


「よし、それじゃあ休憩だ!」


シグルは本当に疲れたのだろう。倒れ込むようにどかっとその場に座り込んでしまった



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