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異世界冒犬譚  作者: さくら
星に願いを
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12話

よろしくお願いします

 スタックフォード大陸では年に一度、聖祭という大きな祭りが開かれる


ユグラシルと神木に感謝を込め祈る祭りで、神木の前にある祭壇に神木の朝露で満たした聖杯を祀り、さらには一年を通して拾った神木の枝を燃やし祈りを捧げる


この日ばかりは大陸中に散らばっているエルフ達が一堂に会し、お祭り騒ぎになるのだ。エルフの民にとって重要な発表もこの際に行われる。今回の発表はもちろん次期後継者である守人の発表だ


エルフの民にとって神木はなくてはならない存在だ。その世話をする守人を決めるという事は一大イベントでもある


多くのエルフはレーナが選ばれるという事は暗黙的に知ってはいるのだが、こうして大々的に発表されることを期待し待ち望んでいたのだ


一方、現守人であるリーブスの屋敷では重苦しい雰囲気に包まれている


原因は病に伏せているレーナだ。あれから一向に手がかりもつかめず、治療に進展はない


このままでは守人の次期後継者発表の舞台には立たせられない。仮にレーナが立てたとしても、このように病弱な姿を見せるわけにはいかない。守人は神木を守るだけではなく、次期後継者を生み育てる義務もあるのだ


ただ、シャールが戻って来てくれたので、その心配はなくなった。ただし、新たな悩みの種があるのも事実だ。後継者争い。本人たちの意思とは別のところで動くこの争いはかつてエルフの民を二分するかと思われるほどのものだった。危険を察したシャールが身を引くことで一旦の解決を見たのだが、ここでシャールが後継者と発表されれば、再びあの争いが始まる事だろう


それを考えるだけで頭の痛くなる話だのだ


「仕方ない。シャール、お前が後継者として守人の責務を負いなさい」


今日の夜から始まる聖祭の進行確認という名目で開かれたこの会議にはリーブス、シェイド、シャール。それに東と南の長であるシュレイン、コレット。相談役であるガルドウィンが席についている。俺とエルロッテは壁際でそれを見ている


「はい……」


目を伏せたままシャールが同意した


「はあ。誰を責めるつもりもないけど、頭が痛いわね」


眉間に指をあてて苦々しい表情でコレットは呟いた


「致し方あるまい。守人の跡継ぎがいないと発表してみろ。暴動が起きるぞ」


シュレインは胸の前で腕を組み背筋を伸ばし目を瞑っている。もはや諦めに近い格好なのだろう


「進行に変更はないな?」


「ああ、問題ない」


シュレインとリーブスが頷き合う



重苦しい空気の中で一人我関せずといった面持ちの人物がいた。人物というか犬だ。というか俺だ


皆はレーナの事で頭を痛めているが、俺だけがレーナの病が治るという事を知っている


未だにレーナは治っていないが…… 先日、戦ったユグラシル達がそう言っていたので大丈夫だろう。なにせ曲りなりにも神の一人なのだ。嘘なんてつかないだろう。つきそうだな。あいつら


ユグラシル達はたき火の日には治せると言っていた。最初は何のことかわからなかったが、聖祭の話を聞いて納得した


聖祭は今日行われる。と、なれば恐らく夕方ぐらいには治してくれることだろう


ユグラシル達のあの性格もあり、若干不安になりながら、当の本人達に目を向ける。ユグラシル達は部屋中を飛び回り遊んでいる


あの後、屋敷に帰るときについてきたのだ。まあ、この大陸を支配してるような感じだから、ここに居た所で不思議ではないのだろうが……


俺の毛を引っ張るからどっか別のところに行って欲しい。あの騒動以降、なにかにつけて俺にちょっかいを出してくるのだ。好かれてしまったのだろうか?悪い気はしないのだが…… 子供は苦手だ


「カールはさっきから何を見てるの?」


小声でエルロッテが話しかけてきた


「なにも無い所をキョロキョロ見てるけど、怖いからやめて……」


ユグラシル達が見えてないエルロッテからすれば俺の行動がおかしく見えるのだろう


目の前に自身が信仰するユグラシルがいるってわかったらどんな顔するのだろうか




*********************************************



 まるで時間を勘違いしているのではないだろうかと思うほどの人が道を埋め尽くしていた


本来この時間ならば日は落ち、夕闇が覆いつくし、警備をする人間のみが出歩く


だが、聖祭と呼ばれる今日はそれが嘘のように人で溢れかえっていた


道の両端では各集落から持ち寄った特産品などを売ったり、軽食を売っているエルフ達の姿も見える


聖祭というからもっと(おごそ)かな雰囲気をイメージしていたのだが、どちらかと言うと普通のお祭りと言った感じだ


そんな光景を俺とエルロッテは屋敷のテラスから見下ろしている


エルロッテは大通りに出たがっていたようだが、シャールが忙しいのでそばを離れることができない


先ほどから羨ましそうに大通りを眺めている


俺としては元々人混みが苦手なのと、この体になってからは人混みは恐怖でしかないので、できればお断りしたい


ふと振り返ると部屋の中ではリーブス、シェイド、シャールが煌びやかな衣装に着替え、出番を待っている


聖祭の主役は守人らしいが、今回は後継者シャールのお披露目でもあるので、シャールも緊張の面持ちで今か今かと出番を待っているのだ


「準備はできましたかな?」


ガルドウィンがノックをし部屋へと入ってくる


後で聞いたのだが、ガルドウィンは司祭みたいな役割を持っているらしく、聖祭の司会進行役なのだそうだ


「こちらは問題ない」


そう言い三人は立ち上がるとガルドウィンに続いて部屋を出て行く


そろそろメインイベントの始まりなのだろう


(おい、レーナはどうなってんだよ? もう治さないとまずいって)


相変わらず俺の周りで呑気にはしゃぐユグラシル達に焦る口調で問いただす


『もうちょっとー』『うん、もうちょっと』『なんか溜まるの遅いね?』


え? 大丈夫なのかこいつら


『しー』『余計な事いわないの!』『あ、そっか、いつもより魔素が溜まらないのは内緒だったね』


内緒になってねーよ。やばい、今頃になって不安になってきた


「カール! 置いていっちゃうわよ? 早くおいで!」


エルロッテが廊下から顔だけ出し、立ち止まっている俺を呼んだ


(頼むぞ! 早く治してくれないと面倒な事になるんだから!)





 屋敷の裏にある神木の周りは普段人は立ち入ることができない。だが、今日は神木に祈りを捧げる為に多くのエルフが神木の前で膝まづいている


彼らの見る方向には神木とその手前にある聖杯が祭られた舞台がある。更にその手前では神木の枯れ枝が詰まれ燃やされている。ゆらめく炎に照らされることで、辺りは神秘的な情景を作り上げていた


「我が同胞たるエルフの民よ。今宵、ユグラシル様の加護を引き継ぎ、神木を守護する次代の守人を紹介する!」


舞台に上がったガルドウィンの言葉でエルフ達の視線は一斉に集まる


「守人様。よろしいでしょうか?」


舞台の脇に控えているリーブスとシェイドが舞台へと上がる。シャールはまだ舞台の脇で控えている。頭からローブを被り顔は見えない。俺とエルロッテはいざという時にすぐに動けるようにその更に後ろからそれを見守っている。なのでシャールの後ろ姿しか見えていない


「誇り高き我がエルフの同胞達よ。今宵、守人の責務において次期守人をここで宣言しよう!」


「「「「「おおっ・・・」」」」」


リーブスの声にエルフ達が騒めく


「それでは、次期守人よ! 上がるがよい!」


エルフ達の視線がシャールへと注がれる。そんな中、ゆっくりとシャールは舞台の上に立った


あれ、これ間に合わないんじゃないだろうか


このままではシャールが本当に次期守人になってしまう


シャールに被せられたフードが取られ、その顔が露わになる


「なっ!?」

「おお! シャール様だ」

「戻られたと聞いていたが本当だったのか」

「シャール様が次期守人なのか!?」

「おお、相変わらずお美しい」

「レーナ様はどうされたのだ!?」


あちこちから疑問と称賛の声が上がる。肯定否定共に半々といったところか。というか、間に合わなかった。あのクソガキども


「静まりたまえ! 同胞エルフ諸君! こちらが……?」


リーブスの声が止まる


「これは、雪? いや、なんだ……?」


リーブスが手のひらを差し出し、淡く光るなにかを手のひらで受け止める。その場にいる全員が一斉に空を見上げると、雪のような光が星空から降り注ぐ


『くすくす』『きゃははは』『あははは』


ふいに聞き覚えのある無邪気な声が響く


『間に合ったね』『良かったね』『間に合ったの?』


間に合ってねーよ


『僕らはユグラシル』『私達はユグラシル』『我らはユグラシル』


突然の出来事にすべてのエルフが息をするのも忘れ、その言葉に耳を傾ける


「ユ、ユグラシル様・・」


かつてエルフが加護を得た千年前から今に至るまで、ユグラシルの姿はおろか声を聞いたものはいない


本来であれば声だけで、それが本当のユグラシルかどうかはわかるわけがない。だが、降り注ぐ光と声からエルフ達は他を圧倒的する魔素を感じ取っていた


セルンの神 ユグラシル


エルフの民は自身が崇拝する神の声に心が震え、そして涙していた



『森の子等よ』『そなたらは罪を犯した』『指輪を持ち出した』


神のまさかの発言にエルフの民はぎょっとする。罪とは何のことだ?指輪を盗む?


多くの民がユグラシルの指輪が盗まれた事実を知らない


『だから守人に罰を与えた』『守人に罰を与えた』『罰を与えた』


信じられない言葉にエルフ達は青褪めていた


『友の願いを受け』『その罪を許そう』


ひと際大きな光が聖杯へと降り注ぐ


煌々と輝く光はその輝きを増し、そしてひときわ強い光を発して消える。空から降り注いでいた光も止んでいた



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