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異世界冒犬譚  作者: さくら
星に願いを
36/126

13話

よろしくお願いします

 アクアホルンの歴史において神託、神との対話を確認された実例はある。その一例がかつてスタックフォード大陸に移り住んだエルフ達にユグラシルが加護を与えた件だ。その他にも数例あるがその数はごくわずかだ


もちろん今この場にいるすべてのエルフが生まれて初めて体験した事だろう。それを証明する様に、光が収まってから数分は経つというのに誰も言葉を発しない。まるで全員が石にでもされたかのように微動だにしない


その中でカール、祐一だけはその異様な光景に絶句していた


神という存在がいるのは驚きではあったが、どこかファンタジーだしと勝手に納得していた


ファンタジーなんだから神はいるだろう、神っていうぐらいだからすごい強いんだろうとどこか他人事だった


だが、こうして彼らの反応を見ると、如何に彼らが凄い存在なのかを嫌と言うほど痛感させられる



『森の子らよ』『森の子よ』



それを見かねた? のか、ユグラシル達が再び声をかける



『変わらぬ信仰で森を愛せ』『森と共に歩め』



そして声が小さくなる


というか、キャラ変わってないか?あいつら


「お、お待ちください! ユグラシル様!」


一人のエルフが立ち上がり声を上げる


その瞬間、今まで以上のプレッシャーがエルフ達に襲い掛かる


神に声をかけるとは何事だというところか


あまりにも強大なプレッシャーをその身に受けエルフは再び膝をつく。顔は青ざめ、汗だくだ


その様子を見ていたほかのエルフ達も冷や汗を流す


「も、申し訳ありません」


エルフは辛うじて出せたというか細い声を口にした



『今は気分がいい』『発言を許そう』『許そう』



その言葉に跪いたエルフは感無量と言った顔で涙を流す


「あ、ありがとうございます。そ、その、卑しくもユグラシル様から指輪を盗んだのは守人なのでしょうか?」


エルフの民からすれば、自らが神の物を盗むのは極刑に値する。例え守人であっても許されない行為だ



『違う』『違う』『違う』



だが、それをユグラシルが否定する


「では、その不届きものは!」



『名前は知らない』『知らない』『友に聞け』



「友とは? 守人の事でしょうか?」



『違う』『違う』『カールに聞け』



エルフは聞き覚えのない名前に首を傾げた。周りのエルフ達も同様の顔をしている


唯一、シャール達だけがその名前に目を見開き、その名を持つ一匹の犬を凝視していた


あのクソガキ共。俺に丸投げしやがった



声が聞こえなくなってから数分、未だに静寂に包まれた会場は一人のエルフの女性の叫ぶような声で破られた


「守人様!!! レーナ様がっ! レーナ様が!!!」


目に涙を溜めたエルフの女性は肩で息を切らし、中央の舞台へと駆け寄ってくる


「ど、どうしたのだ? レーナの身になにかあったのか!?」


先ほどまで微動だにしなかったリーブスが声を上げる。その様子はまるで声の出し方すら忘れていたかのようだった


「お、お目覚めになられました!」


「「「っ!?」」」」


「ガルドウィン! この場は任せる!」


ユグラシルの言葉を信じていないわけではなかったが、その事実に驚き、シャール達はレーナの部屋へと急いだ






 ——ッバン!!



扉を開ける手に力が入り、扉を吹き飛ばすように部屋へと駆けこむ


そして目の前で起きている事実を疑いながらも両親、シャール、エルロッテは目から涙を溢れさせ少女の元へと駆け寄った


「「レーナ!!」」


「お父様、お母様。お姉様まで!」


四人の家族は人目もはばからず抱きしめ合いながら涙を流し喜んだ



*********************************************



 残されたガルドウィンの説得によりその場は混乱が起きる事はなかった。レーナが病に伏せていた事、指輪が盗み出されていた事、シャールが戻っていた事。そのいずれも衝撃的だったが、それすらも霞むような出来事にエルフの民は放心状態だったのだ


後程、集落の長達から詳しい話をさせると説得し、聖祭は幕を閉じ、そして一夜明けた


今、リーブスの屋敷の一室ではシャールを含めた四人の家族と東西南北の集落を治める長達が一堂に会している


俺は先ほどまでシャールの部屋で寝ていたのだが、エルロッテに呼ばれて参加させられた


「あちらのソファでおくつろぎください」


部屋に入ると一人のエルフの使用人からなぜか壁際にあるソファを薦められる



え……と?



今までの話し合いの場ではそもそも招かざる客的な立ち位置だったので、扉付近で座っていた


それが今回に限ってなぜか待遇がいい


(これは、もしやユグラシルが俺の名前出したからか?)


今更だが、エルフ達にとってユグラシルの存在は絶対だ。そのユグラシルが俺の名前を出したという意味を今理解した


思わず俺が口に出した声を聞いたシャールがにっこりと微笑む


「カール様、参りましょう」


エルロッテが俺を促す。というか様ってなによ。いや、そういう事なのか


そりゃ神様に友達とか言われて、俺がすごい人扱いされるのは嬉しい。だが、そこまで本当にすごいのかと言われると言葉が出ない。所詮はただの犬だ。虎の威を借る狐、いや虎の威を借る犬か


とりあえず言われるがままソファへと飛び乗り状況を見守る



『くすくす』『カールが偉そう』『偉そう』



俺の周りを飛び回っているユグラシルがその様子を揶揄(からか)


あの後もなぜかユグラシル達は俺に付きまとっている。周りの人には姿も声も聞こえていないようだ




「さて、それではよろしいかな?」


俺が座るのを見てリーブスが口を開く


「まずは先日の件だが」


リーブスは事の経緯を話し始める。北の長率いるメンバーがユグラシルの指輪を盗み、レーナに渡した事。それによりレーナがユグラシルの呪いを受け病に伏せた事


北の長は口を固く締めそれを聞いている。この期に及んで俺は悪くないという感じなのか


一方、西の長は顔を青褪めている。恐らく、指輪の件は初耳だったのだろう


東と南のシュレインとコレットは目を閉じ黙っている


「……というわけだ。北の長よ。この後始末どうつけるおつもりか?」


シュレインが北の長を睨みつけるように言う


「ふん。確かにユグラシル様のお怒りを買った事は謝罪しよう。だが、レーナ様の体調は戻ったのだ。これでレーナ様は問題なく守人として責務ができよう。むしろユグラシル様との交神までもされたのだ。守人として箔が付いたというものではないかね?」


「なんだとっ!?」


「レーナ様は類まれなる力をお持ちのお方。ユグラシル様と同格と認められたも同然ではないか」


北の長とやらのすごい言い分が始まった



『レーナはすごいの?』『僕らと同じ?』『そうなんだ。ふーん……』


いや、ちょっと待て。落ち着け


どことなく声のトーンが下がるユグラシル達を(なだ)める。こんなとこで暴れられては迷惑千万だ



「いい加減にしてもらおうか? その言い分にエルフの民が納得するとでも?」


「ユグラシル様がそのお姿をお見せになったのだ、なんとでも言って納得させればいいだろう」



『カール』『カール』


(なんだよ……)


『あいつってそんなにすごいの?』『すごいの?』『そうなの?』


(あいつ? ああ北の長とかいうエルフか? どうなんだろ? そんなことないんじゃない? 知らないけど)


『じゃあ、なんであいつが僕らの事を決めるの?』『そうなの?』『どうなの?』


(あー、いや、ちょっと待って。落ち着け)


北の長の言い分にユグラシル達までが苛立ってきている。勝手にレーナを自分達と同格と言われるのが気に障るようだ


(シャール! シャールぅ!!!)


俺は助けを求める様にシャールを呼ぶ


「……?」


呼び掛けられたシャールがこちらを振り返り何事かと首を傾げる


「すいません。ちょっとよろしいですか?」


そう言い俺の傍へと歩みより膝をつく


「どうされましたか?」


(いや、そういう敬語いいから! あのおっさんの発言止めて…… ユグラシル達が怒ってる)


「……? え……!? お、お待ちください! ユグラシル様がここにおられるのですか?」


『いるよ?』『いるよね?』『いるね』


まさかの事実にシャールは虚を突かれたように慌てる。それを嘲笑うようにユグラシル達はシャールの目の前を飛び回るがもちろん見えていない


(い、いるね。というか目の前にいるね)


「……っ!? し、失礼しました……っ!」


突然の出来事に頭を下げるシャール。ユグラシル達はシャールの目の前に居たので、頭突きをするような恰好になったが当たってはいないようだ。実体がないのだろうか?


「シャ、シャール。どういうことだね?」


俺以外の全員がシャールの発言に青褪めている


「カール様のお話では、この場にユグラシル様が同席されているとの事です」


「「「なんだとっ!?」」」


それを聞いた全員がなぜか俺に向かって膝をつき頭を下げる


(いや、おかしいでしょ。そういうのいいから。とりあえずあのおっさんの発言が気に入らないみたいよ?)


「はい。失礼致しました」


シャールは頭を上げ席へと戻る


「北の長。発言には注意してください。ユグラシル様のお怒りを買うことになりますよ?」


「っ!?」


シャールから窘められ途端に青褪め始める


ユグラシル達が本当にいるのかどうかの疑問は持っていないらしい。俺がシャールとだけ喋れるっていうのも疑問だと思うのだが・・


「もはやこうなっては北の長には責任を取ってもらうしかないだろう」


「そうね。この事実が民に伝わればどのみち北の集落に対しての反発が高まるわ」


多くのエルフがユグラシルを怒らせたという事実を先日ユグラシル本人から聞いた。当然、その犯人捜しが始まるのだが、怒らせた犯人は村八分だろう。犯人は北の長率いるメンバーなのだが、このままいけば北の集落に住むエルフ全員が連帯責任として、その対象になってしまう。そうなる前に首謀者である北の長だけに責任を取らせて事態を収拾しようという事だろう


レーナを神格化していたメンバーはそれ相応の数がいた。そのせいで彼らが過激な事を行ったとしても大々的に裁くことができなかった。だが、今回はユグラシル直々に怒られたのだ。過激派メンバーの大多数はその事実に怯え口を(つぐ)むだろう


「北の長よ。そなたと指輪を持ってきた時に居たメンバーには掟に従い、一族を混乱に招いた罪を償ってもらう」


実行メンバーさえどうにかしてしまえば後はどうとでもなる


「異論はないな?」


半数以上の長の同意が取れればこの一件に関しては終わりになる。コレットとシュレインに関しては事前に確認を取っているので、この場での確認とは西の長に対してである


「……異論はありません」


目を伏せながら西の長が同意する。ユグラシルそのものを怒らせ、ましてやこの場にユグラシルがいるとなればもうどうにもならない


本来であれば神がこうして関与して来るなどとは夢にも見なかったのだろう


「うむ、それでは北の長は自宅にて謹慎してもらおう。後程、連絡をするまで待つように」


そう言われると北の長は肩を落とし、両脇をエルフの男に支えられ部屋を出て行った。


「さて、後は守人の後継者の問題だな。私としてはシャールに継いで欲しいと考えている」


リーブスは先日中断され、発表できていない後継者の話題に移る


「私は異論はない」


「東もない」


コレットとシュレインがそれに同意する。西は黙ったままだ


「私もお姉様が継ぐべきだと思います」


レーナまでもが同意したので、シャールが継ぐことになるのだろうか


「……申し訳ありませんが、やはりレーナが継ぐべきかと思います」


「「「っ!?」」」


だが、それをシャール本人が否定する


「私には別の役目がございます」


「役目だと? 何のことだ?」


「私は守人としてではなく、ユグラシル様がお認めになられた聖獣カール様のお世話をする役目があります」



なんかすごいこと言ったぞこの子


こちらに顔を向け、にっこりと笑うシャールに苦笑するしかなかった



3章はこれで完結となります。次回新章となります。引き続きよろしくお願いします

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