11話
よろしくお願いします。今回から投稿時刻を19時にするようにしました。
この世界に存在する魔法は魔素と呼ばれる物に左右される。魔素を多く保有している者ほど多くの魔法が放て、魔素の質が良い者ほど効果の高い魔法が使える。今まで祐一が出会った中で魔法を扱えたのはネリーとシャールだけだったが、魔素自体はすべての人が持っている。魔法を使う事はなくても魔素は必ず体内に保有しているのだ。エルフの民は総じて魔素の量が多い。その魔素量は人間族のそれに比べて10倍とも言われている。ちなみにダークエルフは量ではエルフ族には及ばないが、質でエルフを圧倒すると言われている。つまりそれだけエルフ族は魔素の扱いに長けているのだ
そんな魔素の塊、それが神である。量や質の問題ではなく、魔素そのものが神なのだ。その力は大地を揺るがし、空を割り、万物を凌駕する。そんな相手に人如きが適うはずもない
祐一は暴虐の限りを尽くさんとする者を目の前にして痛感していた
先ほどまでの幼さからは想像もつかないほどのプレッシャー。威圧と呼ぶには生ぬるい。神の威厳、神威を前に頭の中が真っ白になっていた
自分の行動が彼らの逆鱗に触れたのだと否が応でも理解させられる
飛び回るユグラシル達の目の前に風が凝縮し始める。まるで見えない小さな枠の中に台風を詰め込んでいるような不気味な光景が広がる
暴風が一点に集まり、そして静寂が訪れる
『きゃはははは!』『ばいばい』『しんじゃえー』
その無邪気な笑い声と共に力を解き放つ
目標物に向かっていく塊は驚くほど小さく、だがそこには確かな死が詰まっていた
足が固まり身動きが取れない祐一は後悔すらする暇もなくその暴力に飲みこまれた
一瞬にして目の前が暗闇へと変わり、轟音が響き渡る
全てを飲み込む嵐が対象を切り刻み、破壊する
圧倒的な力に飲み込まれた祐一は恐怖のあまりに閉じた目を固く結び、死を待つしかできなかった
終わらない轟音に恐怖し、身を固める
だが、待てど暮らせども痛みは襲ってこなかった
あれ?
耳を割くような轟音はたしかに聞こえる。だが、痛みがないのだ
固く閉じていた目をゆっくり開ける。そこには確かに暴虐の限りを尽くす風の壁が広がっていた
それだけだった
まるで自分だけはその場にいないような感覚。出来の悪い映像を目の前で見せられているようなそんな不思議な感覚を覚える。だが、目の前では草木が引き千切られ、その力の凄さを証明しているのだ
予想外の結末にホッとすると同時にふつふつと怒りの感情が芽生えて来る。一度は死ぬ覚悟までしたのだ。それに目の前のユグラシル達にも正直がっかりした。多くのエルフ達が信仰する神がこんなのでいいのだろうか?それにあのエルフの少女の願いはどうなるのか。神を信じて毎晩祈りを捧げている少女がこんな神の姿を見たらなんて言うだろう。あの子はユグラシルはすごく優しいって信じてた。でも本当のユグラシルは?
「信じてたのに」とか「裏切られた」とかいう言葉が俺は嫌いだ
信じるのは自分の都合だし、裏切られたのも自分が勝手に信じた結果だろう。それを相手のせいにして「信じてたのに」とか「裏切られた」とか言うのは勝手に信じた人の我儘でしかない
だから、正直、エルフの少女が勝手に信じて、勝手に裏切られただけなのだから仕方のないことなのかもしれない
でも、あれだ、なんかムカつく。エルフの少女は可愛かった。あの子が泣く姿を思い浮かべるだけで悲しくなる。別に逆ギレじゃない。……違うよ?
一方、ユグラシル達は自分の力に酔っていた。絶対的な力を持ち、対象をねじ伏せる魔法。それに巻き込まれた犬が無残な姿になる事を想像してはしゃいでいた
時間にして数分だろうか、暴力の嵐は徐々に力を弱め、景色が戻っていく。地面は抉れ、草木は引き千切られその圧倒的な力を物語っている
『きゃはは』『つまんなーい』
塵と化した無様な犬を嘲笑うように飛び回りはしゃぐユグラシル達
一陣の風が立ち込めた土煙を吹き飛ばす
そして驚愕した
『っ!!??』『え?』『え?』
そこに先ほどまでと変わらぬ姿で一匹の犬が立っていたのだ
『どうして?』『なんで?』
目の前で起きている出来事が理解できない
『もう一回殺そう』『うん、殺そう』『そうしよう』
先ほどと同じように、いやむしろ先ほど以上の魔素を込めて魔法を放つ
だが、結果は同じだった。犬は変わらずそこにいる
『どうして?』『なんで死なないの?』『なんで?』
自分達の持つ絶対的な力が通じない。そんなことがあっていいわけがない。そんな疑問と現実に頭が混乱する
『もう一回!』『うんもう一回!』
だが、幾度となく繰り返された一方的な暴力は死ぬべき犬の手によって止められた
その場に立ち尽くしていた犬はその身を翻し飛び掛かってきた
自分たちが傷つけられる可能性など微塵にも思っていなかったユグラシル達は突然の反撃に身を固まらせる
魔素の塊である神を傷つける者がいるわけがないのだ。英雄と呼ばれた人間ならば可能性は否定できないが、それでも可能性は低い。神と呼ばれた自分たちを傷つける存在がいるわけがない。ましてや目の前にいるのはただの犬だ
なんの力も持たない一匹の犬が今まさに飛び上がり、ゆっくりとその口を開く
一瞬の出来事のはずがやけに遅く感じた
自分たちを一飲みするほどに大きな口が迫り、そして一体のユグラシルが噛み千切られた
その牙はたしかにユグラシルを噛み千切った。だが、口に残った感触は空気だけだった。あっけに取られつつも残ったユグラシル達に身を向き直し威嚇する
難しいことはよくわからないが俺には魔法が効かないんじゃないだろうか?そう直感した。シャールとの出会いの時もそうだった。あの時は突然の出来事で考えるのを止めていたがこれで2度目だ。それが神の放った魔法であればそう思わざる得ない
だが、なぜ魔法が効かないのかはわからない。もしかしたらなにかの条件があるのかもしれない。シャールと言葉が通じたのも身に纏っている青い布のおかげだった
俺に魔法が効かないという判断を下すには早いが、ひとまずユグラシルの魔法は効かない
たぶん
さすがにあんな魔法を食らってはひとたまりもない。そう何度も試したくはないのも事実だ
魔法が効かなかった事実はあるものの、その理由がわからないので絶対とは言えない
どうしたものかと威嚇しながらも躊躇していた
『う……』
う……?
『うわぁあああああんん!!!』『ひどいよ! なんでいじめるの!』『怖いよぉぉぉ!!!』
ユグラシル達が突然大声で泣き始める
(え、そっちが先に仕掛けてきたんだろうが!)
『犬がいじめるぅぅぅ!!!』『虐待だぁぁぁ!!!』『暴力はんたいぃぃ!!』
ぐずりながらなんかすごいことを言い始める。傍から見ればいじめを受けたのは俺だ。俺だよね?
(おい、いきなり何を……)
『ひぃぃぃぃ!!ころされるぅぅ!』『だれかたすけてぇえええ!』『たすけてええええええ!!』
おびえる様に身を寄せ合いながらユグラシル達は叫び続ける。これでは俺が幼児虐待しているようだ。納得がいかない
(いや、そっちだって殺そうとしてきただろ)
『ひぃぃ! 犬が喋ったぁ!』
(それこそ今更じゃねえか!)
『怒鳴った! 殺されるぅ!』
なんだろう、すごくやりづらい
(わ、わかった。悪かったって。こ、殺さないって)
くそ、なんで俺がこんなこと言わなきゃならないんだ
『本当に?』『殺さない?』『優しくする?』
(お前らが俺を殺そうと……)
『やっぱり殺すんだぁぁぁ!!!!』『幼女虐待だぁぁぁ!!』『ひとでなしぃぃぃ!!』
人じゃねえし、犬だし
(殺さないって! 大丈夫だって!)
『絶対に?』『嘘つかない?』
(うん、本当本当。嘘つかない)
『ふーん、なら許してやってもいいかな?』『うん、私たちは優しいからね』『許してあげよう』
なんで上から目線なんだ。しかも許しちゃうのかよ
(っても、一匹噛み千切っちゃったけど・・)
『実体がなくなっただけだから死んでない』『私達は死なない』『でもちょっと痛かった』
(わ、悪かったって……)
納得がいかないが和解した
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『きゃははは』『もふもふ~』
結局、俺が謝る事で機嫌を直したユグラシル達は俺の背中で転がるように遊んでいる
(で? レーナの事は治してくれるの?)
『治せないよ?』『無理だよね?』『無理だね』
(おい! どういうことだよ!)
『ぎゃああああ!!!』『噛み千切られるぅぅ!!!』『やっぱり殺すんだ! 犬畜生だぁぁ!』
まだそれやるのかよ! しかもさらっと酷い事言わなかったか?
(わ、悪い。でも治せないってどういうことだよ)
『さっきので疲れちゃったから』『すぐには無理』『へとへと~』
つまり、少し休めば治せるってことか
(じゃあ、治せるには治せるんだよな?)
『たき火の日には?』『治せる?』
(たき火の日? なにそれ?)
『ぶわ~って燃やすの!』『綺麗!綺麗!』『楽しみだねぇ』
さっぱりわからん
(まぁ、いいや。とりあえずレーナはちゃんと治してくれよな?)
『いいよ!』『私達は優しいから!』『なんで犬が喋るの?』
(あん?いや、それはその……なんだ。俺は元人間なんだよ)
『嘘つき! 人間は犬じゃない!』『そうだ! 犬は犬!』『この泥棒犬が!』
(なにげに言葉遣いひどくないか?)
『あれ?』『うん?』『どうしたの?』
突然、一匹のユグラシルが俺の鼻先に止まり首を傾げる
『なんで魔素がないの?』『え?』『え?』
魔素がないとはどういうことだろうか?さっき使い切ったのか?
『へんなのー』『きゃははは!へんなのー』『この変態犬が!』
イラっとする
『誰かきた』『本当だ誰かきた』『誰が来た?』
俺の周りで飛び回るユグラシル達が俺の体を壁にするように身を潜める。振り返ると数人のエルフ達が駆け寄って来ていた
「カール!!」
「何事ですか!」
シャールとエルロッテだ
「こ、これは? な、何が起きたのですか!?」
シャールは辺りの惨状を目の当たりにし驚きの表情で俺を問いただす
(あ、いや、これは、その)
「まさかカールがやったの?」
(いや、ユグラシルが)
「え?」
(ユグラシル達がやったんです)
「……」
シャールが冷たい目線で俺を見つめる
「いくら嘘でもユグラシル様を語ってはいけませんよ?」
まるで母親に叱られるようにシャールに怒られた
『きゃははは! 怒られた!』『私達のせいにするからよ!』『嘘つき犬だ!』
(いや、お前らがやったのは事実だろ!)
「私達のせいなわけがないでしょう!」
ユグラシル達に言ったのだが、シャールが自分に言われたと思い込む
シャールにはユグラシル達が見えていないのだ、シャールからすればユグラシル達に話しかけているのが自分に言ったと思ったのだろう
め、面倒だな
「はあ。怪我はないのですね?」
(は、はい、お蔭様で)
「そう。良かった。物凄い音がしたから何事かと」
どうやらユグラシル達が放った魔法はエルフの集落からも見えたらしい。あの威力だしな
「無事ならば帰りましょう。あとでちゃんと説明してもらいますからね」
シャール達に冷たい目で見られながら屋敷へと帰った




