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異世界冒犬譚  作者: さくら
星に願いを
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10話

よろしくお願いします

 シャールの屋敷の一室では数名のエルフ達が集い重苦しい雰囲気が支配していた


一回り大きい一室は客間にふさわしく美しい丁度品で彩られている。大きなテーブルを囲うように五人のエルフが座っていた


一番奥で全員を見渡せるようにシャールの両親が座り、その脇にシャールがいる。そしてシャールと対面に東と南の集落の長が座っている


俺とエルロッテは入口の扉前でその光景を見ている。本来であればこういった重要な話し合いに出る事は許されないようだったが、シャールたっての希望だ


「それで? じきに聖祭だが、どうするつもりかね?」


東の長であるシュレインが口を開いた。この話し合いが始まって早々に現状の説明がされての発言である


「次の聖祭では跡継ぎのお披露目もあるんだぞ? レーナ様が病に伏せてるとなればシャール様を紹介するのか? どうなんだ? リーブス」


シュレインは身を乗り出すようにシャールの父親、リーブスを問いただす


というか、ようやくシャールの両親の名前を知ることができた。言葉が通じないから聞くに聞けないんだよな。誰も名前で呼ばないし


あれ? よく考えたらシャールに聞けば良かったんじゃね? まあいいか


「わかっている。まだ数日の猶予がある。その間もレーナの治療を続けるつもりだ。だが、もしレーナが回復しないときは」


「ときは?」


「シャールを後継者として紹介する」


「……」


再び重苦しい空気が流れる


「はぁ…… そうするしかないとはいえ、そうなるとまたモメるわね」


シュレインの隣に座る若いエルフの女性、コレットがため息交じりに呟いた


シュレインは老齢のエルフの男性であるのに対して、コレットはかなり若い印象を受ける


とはいえ、シャールのお母さんであるシェイドも随分若く見える、対してリーブスはいい感じのおっさんだ


エルフの男性は老け顔で女性は若作りがデフォルトなのだろうか?


「かなりモメるだろうな。北と西。特に北は相当反発するだろう」


シュレインはこめかみを抑えながら、悩ましいと言った様子だ


「レーナが病に伏せた原因を作ったのも北なんですっけ?」


「そうだ。北の長達が神木から指輪を持ってきてレーナに渡したのが事の始まりだ」


なるほど、北の集落が過激派集団ってことか


「シャールはそれでいいの?」


コレットがシャールに水を向けた


「はい。混乱を収める為に出て行ったのですが、また戻って混乱させるのは心が痛みますが…… 後継者不在とあっては、エルフの一族全体を混乱させてしまいます」


「そうね。とても大きな痛手を負うか、大きな痛手を負うかぐらいの差しかないけどね。とはいえ、後継者不在となれば東と南のエルフ達も黙っていないわ」


神木の守人はエルフにとって特別な存在だ。その後継者がいないとなればエルフ一族全体が混乱に陥る。とはいえ、レーナが後継者として公になっていたのが、突如シャールになるとなれば、元々レーナを崇拝していた北と西のエルフ達が黙ってはいない。どちらにしても頭が痛い話なのだろう


「とりあえず、西には私達から根回しはしておくわ。期待はしないで欲しいけど」


コレットが手をひらひらとさせながら言う


「とはいえ、なんとかしなくてはな。北だけでも面倒なのに、西も一緒にではどうにもならん」


「すまん。迷惑をかけるがよろしく頼む」


リーブスが頭を下げる。謝ってばっかだな。まぁ仕方ないんだろうが……


「シャール。あまり無理しないようにね。なんでも一人で抱え込んじゃ駄目よ?」


コレットは立ち上がりながらシャールを気遣う


「はい、ありがとうございます」


「なにかあればまた呼んでくれ」


シュレインもコレットに続いて立ち上がり、二人は部屋を出ようとする


「ん?」


扉の前でコレットが俺の存在に気が付き足を止めた


ん? なに? どした?


暫く俺を見つめるコレットは何事もなかったかのように部屋を出て行った


なんだったんだ?


「ふぅ。シャール、疲れただろう。少し部屋で休んでいなさい」


「はい、レーナの様子を見に行って、そうさせて頂きます」


そう言い残すとシャールは俺とエルロッテを連れてレーナの部屋へと向かった




*********************************************



 レーナは変わらずベッドの上でその美しい顔を時折苦痛で歪めながらも眠りについていた


数人のメイドらしきエルフが甲斐甲斐しく世話を続けるが、目を覚ます気配はない


「レーナ。必ず助けてあげるから…… 頑張ってね」


シャールがレーナの頬に手を当て優しく語り掛ける。もちろん反応はない


「……っ」


それを見ていたエルロッテが悔しさで顔を歪める


何とかしてあげたいが今はなんの手がかりもない。あれからガルドウィンからも特に報告はない。完全に手詰まりだ


そんな状況をここにいる全員が理解しているのか、やはり空気が重い


『くすくす』


そんな重苦しい雰囲気を嘲笑うかのような声が俺の耳に流れ込む


おい! 失礼だろ! 誰だ! 笑ったのは!


イラっとした俺はメイドの誰かが笑ったのかと見渡すが、もちろん誰一人として笑ってなどおらず、顔を伏せ美しい姉妹愛に涙を流している。肩も震えていない


ん? 聞き間違いだろうか?


『死んじゃうかな?』『死んじゃうよね?』


幼い複数の男女の声がこだまの様に響き渡る


『悪い子にはおしおきだね』『そうだね』『おしおきだね』


次第に声は大きくなるのだが、肝心の声の主は見当たらない


『治そうとしてるみたい』『治せるのかな?』『治るのかな?』


部屋の中と言うよりは部屋の外から聞こえている気がする


声の主を確かめるべく立ち上がり部屋を飛び出し庭へとやってくるが声の主は見当たらない。だが、声は大きくなっている


耳を澄まし、声のする方へと歩き森の中へと入る。辿り着いたのはあの魔法陣や少女と出会った池の畔だった


『なんか犬がきたよ』『犬だね』


俺の事か?


周りを見渡すが相変わらず誰もいない


暫く声に耳を傾けていると、池の畔がキラキラ輝いているのが見える


その(きら)めきに近づき目を凝らすと、徐々にその姿が浮かびあってくる


しばらく目を凝らして見えてきたその正体。それは妖精だった


正確には妖精のような何かが漂っている


手のひらサイズの男女、背に生えた羽はかつて漫画やアニメで見た妖精の姿だったのだ


四匹?の妖精が上下左右に飛び回りながら遊んでいた


(なんだこいつら?)


『こいつら?』『どいつら?』『ぼくら?』


(いや、他にいないだろ)


『この犬なまいき』『なまいきー』


(は?)


『僕らはユグラシル』『私達は偉いんだよ』『偉いー』


(は、はあ。え? これがユグラシル? イメージと全然違うんですけど……)


もっと年配の女性とか髭の生えたおっさんを想像していたのだ


『偉い人にはひざまずけ』『そうだそうだ』『ひざまずけー』


(はあ?っていうか、お前らがレーナをあんな目に?)


『そうだよ。お仕置きだよ』『お仕置きだよ』『おしおきー』


(お仕置きって…… 指輪盗んだのはレーナじゃないだろ?)


『そうなの? なんでもいいや』『なんでもいいね』『そうだね』


(……)


『僕らは自然と星を司る神なんだから僕らがダメっていったらダメ』『そうそう』


(いや、そこはちゃんと本当に悪い奴にお仕置きしろよ)


『うるさい』『うるさい』『うるさいー』


(えー…… ダメな子じゃん)


『む、僕らを馬鹿にするのか?』『生意気だね』『なまいきー』


(いやいや、そうじゃなくて、お仕置きするなら悪い奴らにだろ?)


『僕らが悪いって決めたから悪い』『悪い子にはお仕置き』『くすくす』


小学生かよ。まあ、見た目的にそれ以下なんだが、子供は苦手だ…… 


(子供っていえば、ここで小さな女の子がおまえらにお願いしてただろ? あの子に免じて許してあげるとかさ。神様なんだからお願い聞いてあげようよ)


『お願い?』『女の子?』


(そうそう、エルフの女の子がさ、ユグラシル様はすごい優しいって言ってたぞ。そうなんだろ?)


『僕らは優しい』『私達は偉い』『僕らは正しい』


(そうそうだからさ……)


『僕らは間違ってない』『悪い子にはお仕置き』『お願いなんて聞かない』


(うへぇ……)


『くすくす』『くすくす』『くすくす』


なんか聞いててイラっとしてきた。とはいえ、神様相手だしなぁ


『僕らのいう事聞かない奴はお仕置き』『エルフはお仕置き』『みんなしんじゃえー』


幼い姿をした少年少女の姿も相まって、その言葉になんともいえない怒りがこみ上げてくる


こいつらは何らかの意図があってやっているわけではないのだ、単に気に入らないから苦しませているだけだ


「グルルルゥ……」


頭に血が上った俺は無意識に牙を剥きだし威嚇をしてしまっていた


『こいつむかつくね』『おしおき?』『ころしちゃおう』


見た目こそ幼い彼らがまがりなりにも神という存在であることを失念してしまっていたのだ


だが、そのとっさの行動を悔やむには遅すぎた


彼らは恐ろしい牙で俺に襲い掛かってきた



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