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異世界冒犬譚  作者: さくら
星に願いを
29/126

6話

よろしくお願いします。

 皇都ドナーコニスを出立し一週間が過ぎた


今、俺たちはエルフィンリーフと呼ばれる薄く透き通るような葉を持つ花が咲き誇る丘で人を待っている。


待ち人はエルウィだ。ただ、いつ来るかはわからないので、野宿をしながらになる。スマフォがあった世界が懐かしい


ドナーコニスを出発した後、船に乗ってここまで来たのだが、まさかエルウィが船の手配までしていたとはビックリだった


そもそもスタックフォード大陸までの船は皇都からしか出ていない。今回のような密入国的な事をしてくれる船乗りもいるのだが、想像通りガラの悪い連中だ。だが、今回の船はとても人当たりの良い船員と船が用意されていたのだ。さすがエルウィ。やるな


船に乗り、見えてきたスタックフォードは想像通りと言うか、森で覆われた大陸だった


遠目からでも中央にある巨大な木が見え、その存在感を遺憾なく発揮していた


本来の港から遠く離れた場所で降ろされた俺たちはエルウィとの合流予定である丘の近くでテントを張り、エルウィが迎えに来るのを待っているのだ


「エルロッテ。食事ができたわ」


先ほどからたき火で鍋を温めていたシャールが周りを見張るエルロッテに声をかけた


本来であればお嬢様であるシャールではなく、エルロッテが作るべきなのだろうが、食事の担当はシャールだった


最初はなぜ? という疑問があったが、それはすぐに分かった。一度だけエルロッテが食事を作ったことがあるのだ。シャールが席を外している間にエルロッテが料理を始めた。戻ってきたシャールは慌てて止めたのだが、俺はその時その理由を知らなかった


結局、シャールは体調が悪いと理由をつけて食事を断ったので、俺のところに回ってきた


一口食べてわかった。クソまずい。水と材料と塩を入れて煮詰めただけのスープ。味もなにもあったもんじゃない。というか、犬に塩分は駄目でしょうが


顔は良いのに、料理は残念な可哀そうな子だとわかってからは、エルロッテが料理しようとしたら全力で止める様にしている


本人は料理が下手だと思っていないところが余計にタチが悪いのだ


一方のシャールと言えばかなり料理がうまい


もちろん俺は二人が食べるものはもらえないのだが、残飯をもらった時は感動で涙が出そうだった


犬になってから味の差がさほど区別がつかない感じなのだが、それでもはっきりとうまいとわかった


「ありがとうございます。シャール様。ですが、言って頂ければ私が作りますよ?」


それだけは本当にやめて頂きたい


「そ、そうね。そのうち作ってもらおうかしら?」


そんなこと言って後悔するぞ。ここははっきりと言ってあげたほうが本人の為でもある


食事が終わり、日が傾くと再び火を起こし明かりを確保する


ここからはお楽しみタイムだ


宿と違い水浴びをする場もないので、この場で服を脱ぎなにかの粉を体にまぶして布で拭くのだ。あの粉が何かは分からないが、いい匂いのする粉だ


頻繁に体を洗えない旅ではああして体を拭いて匂いを消しているのだろう。いくら美女とはいえ、汗をかいたままでは臭うしな


まあ、言葉を理解しているとバレてからは大々的に見ることはできなくなったのだが…… たき火の炎が映し出す透き通る白い背中は幻想的だ


俺は寝ているふりをしながらチラチラとその時間を楽しみながら過ごすのだ



 数日が過ぎ、持参した食料もそろそろ尽きるかと思われた頃にエルウィは数名の従者を引き連れて現れた


「シャール様。ご無事でしたか」


「ええ、私達は大丈夫です。そちらは?」


「はい、こちらもシャール様の事は漏れておりません。守人様だけが知っており、首を長くしてお待ちしております」


「そうですか、では、参りましょう」


「はい、ですが、どこで誰が見ているかもわかりません。移動は慎重を期したいと思っています」


「ええ、もちろんです」


そういうとエルウィは従者達に眼で合図をする。従者達は踵を返し、森へと走っていった。しばらくすると森の中から光の合図が送られる。それを見たエルウィはシャール達を促し歩き出した



*********************************************



 森の奥深くに作られた集落は本当にそこが森の中かと疑うほどに美しい建物が立ち並んでいた


ここに来るまでは、木の上に家を建てるツリーハウスとかを想像していたのだが、目の前にある家はかなりおしゃれな木製の一戸建て住宅だ


入口の木の柵を抜けると道は土がむき出しではあるが整備され、整備された道を挟んで左右に綺麗な戸建てが並んでいる


程よく新緑が視界に入り、目に優しい。一見、日本の避暑地・別荘地に戻って来たのかと錯覚すらする


しばらく歩いていてその錯覚の原因が分かった。ガラス窓だ。ここの家ではガラス窓がついているのだ


今までの家では木の扉窓で閉めると中が見えなかったのだ


ガラス製品が作れるって実はすごいことなんじゃないだろうか? と、大してあるわけでもない知識で考えながら歩く


ちなみにシャールとエルロッテは目元まで隠すようにフードを被っている


数人のエルフが正体不明の二人を気にするが、それ以上に俺の存在が気になるようで先ほどから視線が痛い


まぁ、ある意味カモフラージュになってるから良いのだろうが、裏口から入るとかそういう考えはないのだろうか?


「止まれ!」


巨木を背にしたひと際大きな建物の前で武装したエルフが立ちはだかった


「ここは守人様のお屋敷だ。立ち去れ」


「この方たちは私の知人でもある。守人様とのお約束でお連れした」


「おお、エルウィか。ふむ、そちらの犬もか?」


「そうだ。通してもらいたい」


「そうか、わかった。エルウィの知人という事であれば問題ないだろうが…… 問題は起こさせないようにな」


「ああ、わかっている」


エルウィが俺達を隠すように立ち、説明をすると武装したエルフ達は道を開け、また警備に戻った


中に入ると更なる驚きが待ち受けていた。外装も綺麗だったが、内装も綺麗だった


今までの町では単純に木を切って使いましたという感じだったのだが、ここは違う。明らかに加工してある木を使用しているのがわかる


木を切り、表面を削り、艶がかった木の表面がとても美しい造りをしていた


「カール? どうしたの? ついてらっしゃい」


あまりの美しさに木の柱などを眺めていると前方のエルロッテが俺を呼ぶので慌てて後を追いかける


追いつくと同時にとある一室の前でエルウィが立ち止まる


「失礼いたします。エルウィです。お連れいたしました」


エルウィが扉の向こうに話しかける。しばらくするとゆっくりと扉が開いた


なだらかな撫で肩に美しい白い肌、髪を片方の肩にまとめてかけている妙齢のエルフの貴婦人が姿を現す


その女性はどことなくシャールの面影を感じる。母親だろうか? 美しさの中から優しさが溢れだしたその女性は柔らかい笑顔で俺達を迎え入れてくれた


中に入ると窓から柔らかい日差しを受けた純白のベッドが目に飛び込んできた。そのうえで横たわる美しい少女とそれを心配そうに見守るエルフの男性がいた


エルフの男性はこちらをみると無言で近づいてくる


「よくぞ戻って来てくれた。さあ、レーナの傍へ」


シャールは無言で頷くとベッドへと近寄り、少女の肌に触れる


遠目から見ても美人だとわかるその顔を一目でも見ようと思った俺はベッドに足を掛ける寸前でエルロッテに抱きかかえられ後ろに下がられてしまった


まあ、お蔭で顔はみれたので良しとしよう


いや、この感じは粗相をした犬を窘めるような抱き方な気がする


背中に感じる温かさの中にどこかうしろめたさを感じ上を見上げると、俺を窘めるような目で見つめるエルロッテがいた


大人しくしてよう……



*********************************************



 「息災であったか?」


俺達は先ほどの部屋から場所を変えて、大きな客間のような部屋へと案内されていた


テーブルを挟んで久しぶりの親子の再会と言ったところだ


俺は部屋の隅でエルロッテとその光景を眺めている


「はい、何も言わずに出て行ってしまったこと、申し訳ありませんでした」


「貴方が謝る必要はないわ。私達がもっとしっかりしていれば、あなたが辛い思いをしなくても済んだのだから」


「その通りだ。我々が不甲斐ないばかりに辛い思いをさせてしまってすまない」


「気になさらないでください。それにお父様もお母様もお元気そうで良かった」


「ああ、我々はこの通り元気だ…… だが、レーナがな。叶うのであれば代わってやりたいのだが……」


「あなた……」


シャールの父親は沈痛な面持ちで顔を伏せる。そしてその身を案じる様に母親がそっと手を重ねる


「お父様。レーナは治るのでしょうか?」


シャールの問いに父親は無言で首を横に振る


「正直なところわからない。ユグラシル様の怒りを買ったのは事実だ。だが、どのようにお怒りを鎮めるべきかが検討もつかないのだ」


「指輪の話をエルウィから聞きました。指輪を御戻しになられては?」


「既に戻してあるのだ。だが、レーナは一向に良くはならない」


「ユグラシル様にお会いしてお許しを得るしかないのでしょうか?」


「ユグラシル様は我々エルフに加護を与えてくれてから、千年間お姿を見せてはくれていない。どうすればお会いできるかもわからん」


「そんな…… どうすれば……」


ユグラシルという神が呪いをかけたのであれば、その神様に呪いを解いてもらうしかない


というか、神様って本当にいるのか? その辺りやはりファンタジーなのだろう


「今はガルドウィンに書物を調べて手がかりを探してもらっている。なにかわかれば報告があるだろう」


「わかりました。それで、私はどうすればいいのでしょうか?」


これまでの行動からシャールが如何に妹を大切に思っているかが伝わってくる。少しでも力になりたいのだろう


「お前を呼び戻させたのには理由が二つある。もちろん一つはレーナの助けになってほしい事。そしてもう一つは……」


父親はそう言い言葉を濁し視線を落とす


「あなた……」


母親が励ますように手を取ると、父親は意を決したようにシャールの眼を見つめなおす


「レーナの身に何かあったときはお前が跡を継ぐのだ」


その一言を境に沈黙が客間を支配する


「はい…… その覚悟はしております。ですが、レーナは何としても助けるつもりです」


両親もこの場にいる誰もがレーナを見捨てるつもりは毛頭ないのだ。だが、それでも最悪の事態は考えておくしかない


俺の場所からはシャールの顔は見えない、だがその震える様に絞り出した声から気丈に振る舞っているのが痛いほどわかる


「では、私はガルドウィンに会ってまいります」


シャールは立ち上がりながら告げるとこちらに近寄ってくる


「ああ、何かあれば遠慮なく言ってくれ。我々も集落の長達を集め情報を集めよう」


「この事を知っているのは?」


「我々とガルドウィン。それから東と南の長だけだ。北も西もレーナに肩入れしているからな。この事が公になれば混乱を招くだろう」


「わかりました。私達もできるだけ姿を見せないほうがいいでしょうね」


「数人の口が堅い使用人には伝えてある。この屋敷の中で過ごす分には不自由はしないだろう。だが、外に行くときは注意してほしい」


「分かりました」


「自分の故郷なのに不自由な思いをさせてすまない」


「お父様。お気になさらないでください」


シャールは一礼をすると俺達を連れて部屋を後にした



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