7話
よろしくお願いします。
積み上げられた本の影が辺りを覆いまどろみが襲い掛かってくるような錯覚を覚える。異様なその一室はこれでもかと本で埋め尽くされていた
「ガルドウィン! いますか?」
部屋の入口からシャールが呼び掛ける
暫くすると奥でまどろみが揺らぎ、一人の男性が姿を見せた
白髪に白い髭を蓄えた老人がゆっくりとこちらに近づいてくる
「おぉぉ。これはシャール様。お久しゅうございますな」
「ガルドウィンも相変わらずね」
「なに…… 私にとってここは都よりも住みやすい宝の山ですわい」
シャールはクスクスと笑いながらガルドウィンと挨拶を交わす
「して、そちらは?」
ガルドウィンは俺をじっと見据える。その目力はとても老人のものとは思えないものだった
「こちらはカール。私とエルロッテの大切な友人です」
「ほう。犬を持ってシャール様にそこまで言わせるとは…… いや、失礼。カールと言ったか、ようこそいらっしゃった」
シャールの言葉を聞いて態度を軟化させ挨拶してくるガルドウィンは一転して優し気な目で俺を見つめる
そりゃ、知らない犬がいれば怪しむよな
「それで、なにかわかりましたか?」
部屋の奥へと案内され、レーナの症状について話を聞き始める
「それが順調とは言えませんな。ユグラシル様についての文献はあまりありません」
「そうですか…… 手掛かりになりそうなものは?」
「こちらの創世の書とエルフの歴史が書かれている書物ぐらいですな。創世の書には一応、神託を受ける手法が記されてはおりますが…… どこまで本当なのやら…… といった感じですな」
創世の書と呼ばれる本には神々について書かれており、エルフの歴史の書物では如何にしてユグラシルから加護を得たかが書かれているという
「拝見させてください」
そこに記されていた方法はさほど難しい物ではなかった
神木で作られた杯に聖水を満たし、神木の枝を浸す。後はユグラシルの魔法陣の中央に杯を置き詠唱をする。そうすることで神木の枝を介して神託を得られると書いてあった
「聖杯、聖水、神木の枝…… そして詠唱」
方法が分かったところで詠唱がいかなるものなのかが分からないのだ
「ふむ。聖杯とは感謝祭で使われる杯のことですかな?」
年に一度、ユグラシルへの感謝を込めた祭りが開催される。杯を神木の朝露で満たし、それを祭壇に置く。そして一年で拾った神木の枯れ枝を一晩かけて燃やし神木へと還すのだ。その際に使われる杯がそうなのではないかとガルドウィンは言う
「そうなると聖水は朝露の事でしょうか?」
「恐らくは。聖杯、聖水、神木の枝は問題ありませんな。問題は詠唱ですが…… そのような魔法は聞いたことがありませんな」
「隠された魔法でしょうか」
「ううむ。エルフの歴史が書かれている本にもそのような魔法については書かれていませんな。いや、もしかすると……」
「なにかわかったのですか?」
「あ、いや、なんでも…… そのように都合の良いことがあるわけもないでしょうが、神木と同様守護されている森の祠の洞窟になにかあるのではと……」
いかにもなお決まりパターンではある。それにそんな都合よく祠に魔法の事がわかる何かがあるとは思えない。だが、藁にも縋る思いでシャールは決意する
「私達で調べてきましょう。ガルドウィンは引き続き手がかりを探してください」
「分かりました。どうかお気をつけて……」
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件の祠は神木の裏手にあった
石造りの祠は人一人入れる程度の建造物で鍵がかかっていた。本来であれば誰一人として立ち入ることを許されない場所だが、シャールが両親を説得し特別に立ち入ることが許された。シャール、エルロッテ、そして俺は重々しい雰囲気を肌に感じながらも祠の中へと入っていった
祠の中には下へと続くはしごがあり、地下へと続いているようだった。もちろん俺ははしごを降りれないので、エルロッテに背負われながら降りてもらった
降りた先は石の色と土の色が入り混じっていた。かつては石造りの通路だったのだろうか、長い年月を経て朽ちた通路からは悠久の歴史さえ感じられた
日の光が届かないのでシャールが光の玉を作り出し周りを照らしながら奥へと進む
いつも思うがああいう魔法ってどうやって使うのだろうか? やはりファンタジー異世界転生物と言えば魔法は定番だ。いつか使いたいものではあるが犬に使えるのだろうか?口から火を吐くとか勘弁してほしいが
一本道の通路を進むと扉が見えた。シャールとエルロッテが辺りを探り罠がないことを確かめると扉を開いて中に入る
ちょっとした広間のような場所に出ると先ほどまでの閉塞感が失われる
「ここはなんでしょうか?」
エルロッテが部屋にあるオブジェを遠巻きに見ながら首を傾げる
「奥にも扉がありますね」
扉に近づいたシャールは先ほどと同様に辺りを確認した後、扉を押すが開く気配はない
「鍵がかかっているようですね」
「先ほどの鍵でしょうか?」
「いえ、鍵穴らしきものは見当たらないわ」
「だとすると、これが鍵なのでしょうか?」
エルロッテがこれと言いながらオブジェを見る
部屋の中央にあるそれは、台座とその上にガラスでできた四つの人工物のことだ。円すいを逆さにし、中には液体が入っている。赤、青、黄、そして黒の液体だ
「台座に何かが書いてありますね」
シャールとエルロッテが台座を覗き込むが俺には見えない
「森の樹葉に身を隠し…… 森は果実を実らせ恵みを授けん、森と土に根を張り共に生きよ?」
シャールが言い淀みながら台座に掛かれている文字を読み上げた
「まだ続きがありますね。私には読めませんが」
エルロッテには読めないようだ
「生きとし生ける者の母なる自然の色を生み出さん…… って書いてあるのね」
「さすがはシャール様。ですがどういうことでしょうか?」
「扉を開ける為の暗号かしら? 樹葉? 葉っぱかしら? 果実……はセルンプラムのことかしら? あとは根? が必要なのかしら?」
「わからないですね」
エルロッテは考えるの放棄してないか?
まあ、そのままの意味で考えると、四色使って色作れってことなんじゃないの? 問題は何の色かってことだが、森の樹葉ってことは葉っぱか。緑かな? 果実ってなんだろうな? 土と根は茶色だよな
「どうしましょう? とりあえず叩けば動きますかね?」
エルロッテが物騒な事を言いだす
いやいやいや、ちょっとこの子いきなり何言ってんの? ガラスっぽいのに叩いたら壊れちゃうでしょ!?
「グルルルゥ・・」
「え!? ちょ、ちょっとカールなんで怒ってるの? なにかいるの!?」
お前に怒ってるんだよ
俺が唸りだした事を敵が出たと思い込んだエルロッテは剣に手を掛け辺りを見回す
「お手上げのようですね。戻ってガルドウィンに聞きましょう」
「戻られるのですか?」
「私達ではどうにもならないわ。もう少し調べて一度戻りましょう」
あー、たぶんわかったんだが、伝える手段がない。戻ってまた来るの手間だしなんとか伝えられないだろうか?
ただ、本当にそれが正解かの確証もないけど、作りをもう一度見たいな
背の低い俺からはオブジェの全体像が見れていない。なんとか見れないかとエルロッテの足を前足で掻き、抱っこしろアピールをする
「こら、カール。遊んでる場合じゃないのっ。変なところ調べて壊さないでよ?」
遊んで欲しいアピールに思われたようだ。というか壊そうとしたのはエルロッテだよな?
エルロッテは駄目だと、今度はシャールの方を見ると、どうやらテーブルがありその上の何かを見ているようだ
シャールならわかってくれるかと近づきエルロッテにしたアピールをするが、なにやらぶつぶつと呟いて一向に気づく気配がない
こうなれば自力で何とかするしかない。テーブルの周りを歩くと椅子がいい感じに引かれており、飛び乗れる高さだった
お尻を振り勢いをつけ飛び移る。テーブルもさほど高くないのでそのままの勢いで飛び乗った
「あ!こらカール!いたずらしちゃ駄目よ?」
突然目の前に現れた俺にシャールが驚いた
端の方へと歩き少しでも近づく。淡い青色をした布があるのでそこまで行く。踏んだら怒られるかもしれないが…… まあ怒られたらどけばいいか
この位置からなら中央のオブジェが良く見えた
オブジェをじっと見つめるとやはりという感じだった。ガラスの下の先端部分には取っ手のようなものが付いており、さらにチューブのようなものが下の台座に繋がっている。恐らくあの取っ手で色を流し込み混ざりあうのだろう
さて、後はどうやってシャール達に伝えるべきか……
思案しながら何気なく布の上に腰を下ろす
その瞬間、俺の中で何かが変わったのがわかった




