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異世界冒犬譚  作者: さくら
少女との約束
20/126

5話

知り合いから更新が遅いと怒られたので、少しだけ更新をはやめようと思います。長くは続かないとは思いますが、よろしくお願いします

 少女は言いようのない重苦しい気持ちに胸を苛まれていた


両親と一緒に居れるはずだった時間が一人の青年によって引き裂かれてしまった


セレナは両親の事が好きだった。小さい頃は一緒に中庭で遊んでくれた父親。いつも優しかった母親はいつの間にか自分を見てくれなくなっていた。毎晩のようにパーティに出向き、一緒に食事をすることもなくなった


いつだったか、母が大切にしていた花瓶を割ってしまった。もちろん故意に割ってしまったのではなかったのだが、母の悲しむ顔を想うと申し訳ない気持ちで一杯だった。案の定、その日の夜は父と母に呼ばれ両親の部屋で色々と話をされた。悲しかったが嬉しくもあった。大切な花瓶を割ってしまったが、その代わりに父も母も自分と一緒に居てくれたのだから


その後はまた同じ日々の繰り返しだった。一人で食べる夕食、あいさつ程度の毎日に何度も涙を流した


なんとか父と母の気を引けないかと思った。そして藁にも縋る思いでまた花瓶を割った


いけないことだとはわかってはいた。父と母が悲しむだろうとも予想できた、それでも父と母に自分を見て欲しかった。最初こそ父と母はセレナが問題を起こす度に会いに来てくれたが、それは長くは続かなかった。だが泥沼のようにその行為はエスカレートしていき、自分自身では止められなくなっていった


今日のパーティの話をされた時、セレナは嬉しかった。父と母と一緒に出掛けるなど何年ぶりの事だろうか、父と母、そして犬を連れて出掛けるという夢にまで見た出来事に心が弾んだ


いざ着いてみればそれは想像していたものとは違ったが、それでも父と母と一緒にいれるのが嬉しかった


だが、それも先ほどまでの話だ。隣にいる青年にそれを打ち砕かれてしまった


セレナはまだ子供ではあるが、今日のパーティの意味ぐらいはなんとなく想像していた。これは自分を貴族の方達に紹介する場なのだと


隣にいる青年がその筆頭なのも理解はしていた。実際にトリウムは素敵な男性だった。常にこちらに気配りをしてくれ、他の貴族と話をしている時も常にセレナが回答しやすいように誘導してくれる。そして父と母の想いを無駄にしてはいけない……








 ——ッガシャン!!



場にふさわしくない音にその場にいた人間は一斉に振り返った。セレナの感情の高ぶりはすぐに限界が来た


テーブルの上に綺麗に並べられた食器は無残にも散らばり、料理やお酒が床に飛び散った


トリウムは突然の出来事と隣でテーブルクロスを握りしめて泣いている少女を唖然と見つめるしかなかった


「セレナ!!!」


マーチルとカノンが青ざめた表情で駆け寄りセレナの肩を抱く


「申し訳ありません! トリウム様」


「いえ、すぐに片付けさせましょう。セレナさんも慣れない場所で戸惑ってしまったのでしょう。私はもとより誰も責めませんよ」


はっと我に返ったトリウムはとっさにフォローする。主催の息子。まして次期当主にこう言われては誰も文句は言えない


「メイド長! あちらとあちらのご婦人を別室にておもてなしをしろ。それからあちらの方にも別のグラスを」


トリウムは見事なまでに険悪になりかけた場を仕切り和やかにしていく


「セレナさんは気分が優れないようですので、今日のところはお帰りになられた方がよろしいでしょう」


「そ、そうさせて頂きます…… 私たちはここに残るから、セレナは先に帰りなさい」


未だに眼から涙をぼろぼろとこぼすセレナは近くのメイドに付き添わされて一人馬車へと帰っていった



*********************************************



 暇だ


暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ


馬車に監禁されるとかこれなんて拷問ですか?


寝ようにも外が騒がしいし床も堅い。流石に座席に座ったら怒られるんだろうな。でもちょっとぐらいいいか?


などと、考えながら三人の帰りを待っていると、突然馬車の扉が開いた


そこにはまるで雨の様に涙を落とすセレナがいた



え? ど、どうしたの?



傍に居たメイドがセレナを馬車へと乗せ、御者に何やら話をしていると思ったら馬車が動き出した



あれ? セレナ一人で帰るの? お父さんとお母さんは?


「どうして……」


ん?


「どうしてあんなことを……お父様とお母様にも沢山迷惑をかけてしまった……」


セレナはぽつりぽつりとつぶやきながら目尻から涙を溢れさせる


「家でもあんなことをして……お父様とお母様に構って欲しくて……」


んん? 家でもって…… パーティ会場で癇癪起こしたのか!? まじかよ。そりゃ凹むな……って、構って欲しくて癇癪起こしてたの!? どんだけ構ってちゃんなんだよ



呆然とセレナを見ていると馬車が止まる



まだ走り出して数分のはずだが、なんだろうか?



「なんだお前らは! そこをどきなさい!」


御者が叫ぶように言っているが何事だろうか?


「ぎゃっ!」


——ッドス!


「おい、馬車の中を開けろ」


聞きなれない男達の声が響き、扉が開かれると無精ひげを生やした男達が剣を持っていた



おいいい! ここで誘拐イベントかよ!



咄嗟に男達に飛び掛かってしまった


「うお!? なんだこの犬は!?」


「犬なんざどうでもいい! 早くしろ!」


俺は脇腹を蹴られ吹っ飛ばされる



くそ!!!



男達はセレナを抱きかかえると用意していた馬車へと乗せてその場を立ち去る



まずいまずいまずい!!



血の気が引く思いで俺は男達の馬車の後を追った



*********************************************



 天罰が下ったのだろうか。何が起きたのかもわからず突然男達に攫われたセレナは男達の住処に連れてこられた。木の柵で覆われた一室に入れられ今は一人きりだった


セレナは必死に今の状況を振り返る。パーティでしてしまった事、その後一人で家に帰された事、その途中で何者かに襲われた事


町中で襲われるなんて聞いたことがない。アウフヴィタは貴族も多い町なので警備は他の町に比べて厳しい、それなのに町中で襲われたのはきっと自分に天罰が下ったのだ


あんなことをするつもりなんてなかったとパーティ会場での出来事を思い出す


トリウム様に他の貴族を紹介されている時、言いようのない想いに駆られて近くにあったクロスを思いっきり引っ張ってしまった。たくさんの人に迷惑をかけてしまった。きっと父と母も自分に失望しただろう。こんなことがしたかったわけではなかった


父と母に甘えたかった。その為に多くの物を壊し、多くの人に迷惑を掛けてしまった。その為の罰なのだ…… 後悔、悲しみ、自分への怒りが波の様に押し寄せ、涙が止まらなかった


止まらない涙を何度も拭っているとふと近づいてくる何かを察した


男達が戻ってきたのだろうか、この後、自分はどうなってしまうのだろうかと恐怖と不安でまた涙がこぼれる



暗闇から姿を現したのはこの場に似つかわしくない訪問者だった。いるはずがない存在にセレナの思考が停止した


白と茶の毛で覆われた犬がそこにいた。紛れもなくノクトだった。なぜここにいるのかという疑問と同時に安堵の涙が溢れだした


ノクトが近づき仕切られた柵の匂いを嗅いでいる


セレナの心は不安、安堵、後悔で溢れかえる。ノクトにもひどいことした。それなのにノクトは私を守ろうと、あの男たちに立ち向かってくれた。痛い思いもしたはずだろう。なのに、こうして自分のところまで来てくれた


ここまでの距離は決して短いものではない。その道のりを小さい体で懸命に走ってくれた事を想像するだけでセレナの胸がキュッと苦しくなる


セレナが柵の間から手を伸ばすとノクトが鼻先で手に触れてくれた。セレナは涙で滲む視界の中でノクトを抱き寄せた。そして持っていたハンカチをノクトの首に巻いてあげた。形見のつもりで


「ノクト。あなたは帰りなさい。ここは危険だから……ありがとう」


いつ男達が戻ってくるかわからない、見つかってしまったらきっと殺されるだろう


だが、ノクトはその場を動こうとしなかった


「お父様とお母様にお会いして謝りたかった……」


その言葉を聞いたノクトはすっと腰を上げ踵を返して出て行ってしまった


「あ……」


セレナは縋るように手を伸ばそうとするが思いとどまる。あれだけの事をしたのだノクトにまで呆れられてしまったのだと、そう思った







 俺じゃ、あれは助けられない


俺は踵を返し、なんとかならないかと周りの様子を見に来た。もちろん男達に見つからないようにこっそりと。だが、男達の気配はなかった


奥の部屋から食べ物の匂いと酒の匂いがする。恐らくあそこで腹ごしらえでもしているのだろうか


部屋に近づくと話し声が漏れ出していた


「がはは、これでアニデ様から報酬がたんまりもらえるなぁ」


「まさか護衛もつけずに一人だけとはな。さすが貴族のお嬢様。平和ボケしてやがるぜ」


「それにしても良い女だ。そのままにしとくのがもったいねぇ」


「馬鹿野郎。手出してみろ。アニデ様にぶっ殺されるぞ。明日の朝には引き渡すんだからな。余計な事すんじゃねえぞ」


「貴族様に目をつけられたら、たまったもんじゃねぇしな。それはそうと、俺達みたいなやつが会いに行って貴族様は会ってくれるのか?」


「心配するな。短剣を預かってる。それが目印だ」


「なるほど、なら心配ねぇな。がははは」


アニデってだれだ? よくわからんが、中には十人ほどいるみたいだな。俺じゃどうにもできん……助けを呼ぶしかない


俺は飛び出し、来た道を駆けた。援軍を呼ぶために


次回は13日を予定しています

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