4話
4話になります。
純白の美しいドレス。薄いピンク色の刺繍が織り込まれ更に純白を引き立たせている。だが、そんなドレスすら引き立て役でしかない。少女はそれほどまでに美しかった
肩が大きく開いており、華奢な両肩にはらりと落ちる黒髪がまた美しい。大人顔負けの艶のあるスタイルから一転し大きな瞳があどけなさを残しており、幼さと色っぽさが混在している美少女はおとぎ話から飛び出してきたかのような佇まいをしていた
安っぽい言い方になってしまうが、黙っていれば超絶美少女なのだ
部屋ではエイムと複数のメイドの手によって美少女はより一層美しく着飾らされていた
本来であれば少女のお着換えシーンを見るなど許されるわけがない
これが成人男性ともなれば、衛兵を呼ばれた上で牢屋に繋がれることだろう。だが、俺は違う
心は大人。体は犬
素晴らしい。この体になってよかったと思える瞬間到来だ
部屋に居座ったままその様子を片時も目を離すことなく見る。変態と言われようが見れるなら見る
一糸まとわぬその姿は透き通るような新雪のように美しかった
俺は悶々とその光景に魅入っていた
——ッコンコン
ドアをノックする音にびっくりして飛び上がりそうになる
やましい事してないのに驚きすぎだろ。逆に言えば驚いたのはやましい事をしてたからだ
「セレナ。準備できたかい?」
マーチルがドア越しに声を掛けてきた。それを聞いたメイドの一人がドアを開ける
「おお、とても綺麗だよ。セレナ。さあカノンも待っている」
マーチルに促されセレナがドアに向かって歩くと、俺の前で止まりじっと見つめられた
なんか言え
無言のプレッシャーを浴びた俺はのそりと起き上がる
正直、完全にアウェイもいいところなのだが・・絶対にほかの貴族に陰口言われるのが目に見えてわかる
あらどうも臭いと思ったら獣が紛れ込んでおりますわとか言われるんだろう
いや、それは幾ら何でもネガティブ過ぎだろうか、もしかしたら、あら可愛いワンちゃんだこと。とか言って取っ替え引っ替え綺麗な貴婦人に抱きかかえられるかもしれない
よし、そう思うことにしよう。じゃないとやってられない
手綱を握られた俺はセレナの後をついて馬車へと乗り込む。浮かない気持ちの俺を乗せたまま馬車は優雅に走り出した
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マーチルは緊張の面持ちで今日この日を迎えた。娘の晴れ舞台であるこのパーティでうまく話しを進められれば今までの様に肩身の狭い思いはしなくなる
マーチル・オーチュアは先代の子ではあるが妾の子だった。正妻に子供ができなかったために回ってきた役回りである。当然の如く周りの貴族の眼は冷たい物だった。やれ妾の子だの、半端者だのと散々陰口を言われた。それでもマーチルは尊敬すべき父親が遺したオーチェア家をより強固なものにすべく励んできた
妻のカノンも陰ながら支えてくれた。カノンと婚約した時も両親からは猛反対をされた。それでもカノンはマーチルを信じてついてきてくれたのだ。その時に何としてでもその思いに報いらなければと決意した
そして生まれたセレナも同様である。愛しい我が子の為にマーチルはなんでもする気だった。今日のパーティはいつものパーティとは様相が違う。セレナの晴れ舞台なのだ。ここでセレナを見染めた貴族がいれば・・いや自慢の娘なのだ、きっと引く手あまただろう。もちろん娘の気持ちをないがしろにする気はない。娘の気に入った貴族の子息と婚約できれば……
きっとオーチュア家は、妻は、そして娘は今まで以上に胸を張って生きていける。その為の晴れ舞台なのだ
「あなた……どうされたのです? 険しいお顔になっていますよ?」
カノンは緊張の面持ちのマーチルを気にして声を掛けてきた
「ん? ああ、すまない。娘のお披露目だからね。緊張もするさ」
「セレナなら心配ありませんわ。私たちの娘ですもの」
何時からだったかセレナは癇癪を起すようになった。何が気に入らないのかがマーチルにはわからなかった
昔は優しい子だったのに……少しでも優しい気持ちを取り戻してほしいと思い珍しい犬を買ってあげた
他の貴族達の話を聞いたところ教育の一環もかねて動物を飼わせるのが最近の流行りらしいのだ
だが結果はあまり変わっていないようだった
まだ一週間程度なのだから焦りすぎなのかもしれないが……
何はともあれ、今日のパーティをうまく立ち回れば……
マーチルは一人決意し拳を握りしめた
仰々しいまでのお屋敷は人のおしゃべり、笑い声、グラスのぶつかる音などが混じり合って異質なざわめきを作り出していた
門前では物々しい警備がされている。この辺りの貴族のほとんどが今この屋敷に集まっているので無理もないが
馬車を降りるとマーチルはカノンとセレナを伴って会場へと進む
ノクトには申し訳ないが馬車で留守番をしてもらっている
セレナは頑なに連れて行こうとしていたが、さすがに中までは無理だ
会場に入ると貴族たちの目が一斉にこちらに向けられた。マーチルを見ているわけではない。それは本人が一番わかっている。仮に向けられたとしてもそれは侮蔑や奇異の目だ
だが今向けられた目は明らかに尊敬や感嘆といった目だった。理由はマーチルの横に控えたセレナだった
普段見慣れない美しい少女を伴って歩くマーチルに羨望の眼差しが集まる
「マーチル殿」
一人の男がマーチルに声を掛ける
年齢は四十代半ばだろうか。彫りが深く意思の強そうな目鼻立ちをした男だった。
「これはクレド伯爵様。本日はお招き頂きありがとうございます」
マーチルは貴族礼を取りこの屋敷の主に挨拶をする
今日のパーティはこの辺り一帯でもっとも権力を持つクレド・セクエンティアが直々に主催するパーティだ
「いやいや、大したもてなしもできないが、楽しんでいってほしい。……それにしても美しい女性を連れて来てくれたようだね」
「ありがとうございます。こちらは私どもの娘でセレナと申します」
クレドの言葉にカノンがスカートを持ち上げ礼をする
カノンがセレナに目を配るとセレナも申し訳ない程度に挨拶をする
「ははは、大人の集まりでは退屈かね?我々のような年のいった者ではエスコートには向いていないようだ。……ふむ、息子のトリウムはどこにいったのだろうか?」
「も、申し訳ありません!」
マーチルは娘の無礼な態度に慌てて謝るが、内心は歓喜した。トリウム様を紹介してもらえるとはいきなり超大物だ。セクエンティア家の次期当主とお知り合いになれれば、今日の目的はもはや終わったと言っても過言ではない。しかもトリウム様の評判は貴族の間でもよく聞く。顔良し、文武共に素質がありとの事だ。性格、顔も良いとなれば噂にならないのがおかしいぐらいだ
「ふむ、どうやら見当たらないようだ…… 見かけたら挨拶をしに行くように伝えておく。ゆっくりと楽しんで行ってくれ」
そう言うとクレドは別の貴族の傍へと近づいていった
思わぬ収穫にマーチルはホッとしていた。その後も何人もの貴族から声をかけられ自慢の娘を紹介した
「マーチル様」
振り返るとそこには一人の青年が立っていた
稀代の美少年。男のマーチルでも一瞬見惚れてしまうほどの青年がにこやかに声を掛けてきた
「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。クレドの息子でトリウムと申します」
言われるまでもなく彼が誰なのかは知っていた
「おお!トリウム様。お初にお目に掛かります。マーチル・オーチュアです。こちらにいるのが妻のカノンです。そしてこちらがセレナです」
「初めまして。楽しんで頂けていますでしょうか?」
「ええ、それはもちろん。さすがはクレド伯爵様主催のパーティです。私共ではこのようには……」
「それは買いかぶりすぎですよ」
話を繋げつつ、どうにかセレナと話をさせることができないかと模索するマーチルだが、正直な彼はそう言った搦め手が苦手だった。どうしたらいいのかがわからない
「セレナさん。もしよろしければご案内させて頂けませんか」
マーチルは両手を上げて声高々に叫んだ。もちろん心の中でだが
「よろしいので?」
「ええ、年の近いほうが何かと気兼ねなく話せるかと思いまして。もちろん無理にとは言いません」
無理なんてとんでもない。無理にでもお願いしたかった
「セレナ。是非ご一緒させてもらいなさい」
トリウムにエスコートされていくセレナを見ながらマーチルは今日の勝利を確信した
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