15話
よろしくお願いします
城には俺とアカリウムだけが残されていた。といっても、アカリウムは玉の中に取り込まれ眠っているのだが
謁見の間は物音一つせず、まるでこの世界に二人しかいないようだった
世界を創生し意味を持たせた者と、この世界にいる意味を持たない者。相反する二人はただ黙って互いを見つめているだけだった
(俺的には別に争うつもりはないんだけどな。話し合い……はもう無理だよな?)
当然、アカリウムから返事は返ってこない。アカリウムはすでに覚悟をし、選択したのだ。この世界を放棄するということを
(まあ、いいか。さすがにここまでされれば、嫌でもわかるわ。つまり、俺は世界からもあんたからも否定されてるってことだよな)
俺はゆっくりとアカリウムに近づく
(なら、あんたがやろうとしている事も否定してやるよ)
なんて格好つけてみたものの、どうしていいのかわからない。恐る恐る鼻先をアカリウムに近づけてみる。触れるか触れないかといった距離になった瞬間、光の玉はその輝きを放ち始め、全てを飲み込んだ
『どこまでも邪魔をするのですね』
気がつくとそこは見た事のない場所だった。いや、見た事はあった。かつて夢の中でセイファルとユグラシルと出会った場所だ。足元は霧で覆われ、あたりを見回しても、何もない世界。目の前にはアカリウムがいるだけだった
ふと、自分の体を見ると犬の姿ではなくなっていた
『それが本当のあなたの姿というわけですね』
「そうなるのかな……?」
『あなたは何者です? この世界に何をしに来たのですか?』
当然、その答えを俺は持ち合わせてはいない
『目的もなく、ただ現れ、そして世界を乱すもの……なるほど、勇者達が言っていた破壊神とは本当の事だったのですね』
ひどい言われようだ。だが、否定もできない
「破壊ではなく、変革だよ。アカリウム」
突如、背後から声がし、驚いて振り返る。そこにはマグナスがいた
「あれ? 皆と避難したんじゃ?」
思わず俺はマグナスに声をかける
「お前一人残してか? 俺も当事者だぞ? お前だけに押し付けはしないさ」
そう言いながらマグナスは俺の横に並ぶ
「アカリウム。お前の覚悟はわかった。足りなかったのは俺の覚悟だったんだな」
そう言いマグナスは顔を伏せる。
「いつか、またあの日のように、お前と世界を見守る日をどこか望んでいたんだ。お前は覚悟したのに、俺はその覚悟を認められずに駄々を捏ねていただけだ」
マグナスは顔をあげ、アカリウムをみる。その目には固い決意のようなものが感じられた
「俺も覚悟をしよう。お前を失ってでも、お前の覚悟を否定してやる」
『良い覚悟です。あなたと私……そして何処から来たのかもわからぬ訪問者よ。私とあなた達のどちらの意思が押し通せるか……勝負です!』
言い終えると、アカリウムの体が光り始める。その輝きは徐々に力を増していく
「来るぞ」
突如、俺の手を柔らかい何かが包み込む。隣に立つマグナスが俺の手を握ってきたのだ
たぶんだが、きっとこれはなんというかラストバトル的ななにかなんだろう。だが、なぜか俺の頭は冷静だった。というか、いまだに他人事な気がしてならないのだ
この世界に来た意味。犬であった意味。世界に否定される意味。創造神と戦う意味。その全てが俺の意思とは違う所で動いている気がしてならなかった
自分で決めた事、自分がした事は一つもないのだ
「なあ」
俺は横に立つマグナスを見下ろし、声をかける
「なんだ?」
マグナスが俺を見上げるように見つめる
「そういや、俺の名前を言ってなかったよな」
「うん? ああ、そう言えばそうだな。今更な気もするが……カールだったか?」
カール。俺の名前だ。初めてこの世界でマニーズにつけてもらった名前だ。でも違う。そうじゃない
「まあね。でも、本当の名前は違うんだ」
俺がこの世界に来た理由がなにかはわからない。でも、それでも俺がここにいたという証拠を残したい。本当の俺の名前を誰かに伝えたい
「お前には俺の本当の名前を知っておいてもらおうかな」
異世界に来て、初めての自己紹介がこんな状況というのもおかしな話である
「え!?」
突如、マグナスが慌て始める
「うん? なんだよ?」
「ほ、本当の名前って……」
「うん、そう。カール……じゃない、俺の本当の名前」
「ま、まてまて! それはいきなりすぎるというか、心の準備というか……そもそも、まだそんな関係じゃないだろう!! ましてや俺は神だぞ!?」
なにを言ってるんだこいつは
「い、いや。嫌ってわけじゃないんだが……その……」
顔真っ赤にしてどうした。お前はコミュ障か。よくわからんが時間もないし言っちゃおう
「祐一。唐澤祐一って言うんだ。よろしくな」
やっと言えた。俺の名前。この世界に降り立って、マニーズと出会い、俺はカールになった。もちろん、カールという名前は嫌いではない。でも俺はカールじゃない
俺の言葉を聞いたマグナスが真顔でこちらをじっと見つめてくる
「……シュリー」
「うん?」
「アシュリー……マグナス・アシュリー。それが私の真の名だ」
「へー、アシュリーか。可愛い名前だな」
アシュリーは顔を伏せてしまう
「お前をこんな痴話喧嘩に巻き込んでしまってすまないと思っている」
「どうした? それこそ今更だろう」
「例え、この身が滅びても……ユーイチ、お前の事だけは守ってみせる」
「お、おう?」
疑問系になってしまった。突然どうしたと聞きたい。まあ、こんな状況なんだから頼りにするしかないのだが。
見つめ合う俺たちを照らすように暖かい光が沸き起こる。眩しさのあまりに目も開けていられない。なにも見えなくなったその世界でも、俺の手にアシュリーのぬくもりだけは伝わっていた




