13話
よろしくお願いします
届かないと思っていたアイリスが、気がつけば目の前にいた
突然の出来事に俺は戸惑う。これはあれか? 噛んでもいいよってことなのだろうか? そんなわけないか
既にアイリスはボロボロと涙を流しているのだ。きっと何かがあったに違いない。その理由まではわからないが……
改心したのだろうか? だとしたらなぜ? やはり女の子だから、噛まれるのが嫌だったとか? そんなわけないか。そもそも届かないってわかってるんだし
そこで気づく。モロ見えだったのに、それを許す女の子がいるわけがないと——
確かにアイリスは俺の事を貶した。だからと言って下着を見ていい理由にはならない。それはそうだ。それが許されるのであれば、「思わずムラっときたので手を出しました」と言って痴漢が許されるのと同義だ
そんな事が許されるはずがない
彼女の下着は白だった。純白と言ってもいい。誰にも汚されていない聖域を俺は勝手に覗いてしまったのだ
正確には言うほど純白ではない、この世界には幾つかの布があるが、下着でよく使われる絹があるのかどうかはわからない。絹でないとすると結構ゴワゴワなんだろうが、着心地はどうなのだろうか?
だが、先ほど見たアイリスの下着は、普段見る布よりも光沢が強かった気がする。と、なるとやはり絹なのだろうか? 絹は肌触りがいいので下着には最適だろう
今までに絹の布って見た事あっただろうか?
などと、考えていると気がつけば俺はアイリスの足の臭いを嗅ぎながら、その聖域へと顔を突っ込みそうになっていた
「カール!!!」
「アイリス様!!」
突如、自分の名が呼ばれた事でドキリと飛び跳ねる。別にやましい事してないのに。いや、してるからびっくりしたのか
ドキドキしながら振り返ると、シャール達が階段を駆け上がってきていた
「アイリス様……」
セレナが泣きじゃくるアイリスに優しく声をかける。その声にアイリスが顔を上げる
「お許しください」
セレナがそう言うと、手のひらをぐっと後ろに振り被る。その動きはまるでスローモーションのように見えた
——ッパン!
乾いた音が響く。頬を打たれたアイリスは唖然と自分の頬を押さえていた
「心配したんですよ!!」
セレナはアイリスに抱きつくと、今度はセレナが泣きじゃくる
「セレナ……私……」
「いいんです。アイリス様がこうして戻ってきてくれたのであれば……」
その光景を俺も唖然と見つめる。そもそも何が起きているのかがわからない。セレナとアイリスは知り合いだったのか? そもそもなんでアイリスはセレナやシャールを殺そうとしたのだろうか? 誰か説明してほしい
わからないなら聞けばいいじゃないという事で、説明を求めるように後ろを振り向く。シャールやセイファルなら事情を知っているはずだ
後ろを振り向いた先は真っ暗だった
「カール!! 無事でよかった……」
シャールに抱き抱えられる。そして、次の瞬間無数の人に体を撫で回されるという恥辱を受けた
「カール!!」
「さすがは聖獣様ってか!?」
「カールがいなかったら、どうなってたか……」
みんなが思い思いに俺の体を弄る
『なんということを……』
その声に全員が一点を見つめる。その先にはアカリウムがいた
「アカリウム様。私は、私はやはりこの世界を……この世界に住む人々を殺す事はできません」
アイリスが身を乗り出す。だが、アカリウムから返事はない
「アカリウム様。たしかに我ら人は愚かです。ですが、そんな人だからこそ、歴史から学び、そして生かす事ができます。どうか、もう一度我々にチャンスをください」
「もちろん、私達も手伝うわよ?」
見れば、勇者達もいた。その姿はボロボロではあるが、瞳からは強い意志を感じさせる
「追いついたぞ! アカリウム!」
アカリウムを追ってマグナスも現れた
『どうやら私が間違っていたようですね……』
突然の懺悔に全員が驚く。だが、それと同時に安堵にも似た、ため息がこぼれ落ちる。こうして戦い傷つきはしたが無駄ではなかったのだ
命を懸けて戦う姿を示したことで、アカリウムは考えを改めようとしているのだ
「アカリウム。間違いは誰でも犯す。そこに人も神もない。大切なのはその失敗を糧にどう未来を紡ぐかだ」
『失敗を糧に……そうですね』
誰もが失敗はする。だが、言い換えれば誰もが成功もするのだ。諦めさえしなければ。ここにいる全員が明るい未来を作る。その強い決意をもっているのだ
『中途半端に残そうとした私が愚かだったのですね』
「アカリウム?」
『全部壊しましょう』
アカリウムはそう言うと玉座の上に漂う光の元へと近づく。アイリスが放とうとしていた魔法がまだそこにあったのだ
「何をする!?」
『私の大切な世界に紛れ込んだ害虫の駆除にも失敗し、選ばれた人間達だけで創生を果たそうと思いましたが……もはや手遅れのようでしたね。どうやら私もまだ甘かった』
光の玉は次第に大きくなる
「何をする気だ! アカリウム!!」
『曲がりなりにも私が育てた世界。私も傷つく覚悟が足りなかったという事です』
アカリウムはにっこりと笑う。そしてその姿は霧散し、光の玉へと吸い込まれた
「アカリウム!!! っく!!」
マグナスが慌てるように近づく
「な、なにが……」
その光景を眺めていたシャールが呟いた
『なんてことを……』
セイファルが顔を青褪めさせながら言う
「セイファル様。一体、どういうことでしょうか?」
事態を飲み込めないシャールがセイファルに尋ねる
『あの魔法はアイリスがその力を失った事で、止まっていた。それをアカリウム様……いや、アカリウムが自らの魂で再度動かし始めたのじゃ』
「つまり……?」
レオンがごくりと唾を飲み込む
『この世界は無に帰る』
世界崩壊へのカウンドダウンが告げられた




