4.お風呂ぱにっく②
円景寺家は、一部だけ二階がある平屋造りである。玄関から見れば、コの字型のようになっている。古めかしいが、広い。8部屋と、台所、居間は別である。
コの字の上部側3部屋は、父親の部屋と、物置的に使われている部屋などがある。
央世の部屋は、玄関のすぐ脇、コの縦棒の下辺りである。
だが、央世は下部の最奥、菊理の部屋の前にいた。
「おい、アード。いるんだろ? 開けるぞ」
言いながら、スウッと襖を開いた。
「ぬ? 旦那様。どうしたのじゃ?」
「お、おま……。服着ろよ……って、それ」
アードは、菊理に渡された服をそのまま置き、布団の上に座り、膝上で何かを開いていた。
「くふふ……。これは、小さな旦那様じゃろ? じゅうぶんに堪能しておったのじゃ。今も堪らぬが、これはこれで、愛らしいのう」
「な、なに言ってんだ。そんなことより……」
央世の視線が部屋を彷徨う。布団の横に置かれた菊理のTシャツに目が留まる。
「服を着ろォ!」
言うが早いか、Tシャツを引っ掴んでバッと広げ、ズバンとアードにひっ被せた。
「……あぁん♡ 前が見えぬぅ……。旦那様は、こんなぷれいがお好みなんじゃな」
「なわけあるか! ってか、アード。お前、マツリやくくりに何をしたんだ。ちゃんと説明しろ」
すっと、央世が目を細めた。肩は脱力し、少し、重心も落としている。
「あー……っと、旦那様、落ち着いて欲しいのじゃ」
アードが、両手を上げた。
「この世界じゃと、軽い洗脳魔法……とでも言うのかのう? わらわへの敵対心みたいなものを、下げただけじゃよ。ククリは、どうも効きが悪かったようじゃがのー」
「洗脳……だって?」
——だったら、なんでもやりたい放題ってことか? こいつ……。
央世は、拳を握りしめた。
「どうにも、元の世界に帰れそうにはないようじゃからな。わらわ、困っておるのじゃ。旦那様とは繋がったゆえな、わらわの魔法は効かぬのじゃ。じゃからこうして頼むほかないのじゃ」
アードが、姿勢を正して、深々と三つ指をついた。額が、畳に着く。
「……この通りじゃ。わらわを、助けてたも」
「え……あ……」
神々しいまでに、その姿が輝いて見えた。央世は絶句し、しばし固まった。
(帰れ、ない……か。そうか……。もし、オレが知らない世界に飛ばされたら……絶対、困るよな……。右も左も、わからんだろうし。使える能力があるなら、生き延びるためにはそうする……よな……)
央世は、グッと握った拳を見詰めた。ゴツゴツとした、硬そうな拳だ。
そして、顎に手を当てて、考え込んだ。
(……いや。むしろ、オレに魔法が効かなくなったというなら……オレが見張ってる方が、都合がいい……か。まぁ、住まわすかどうかは、親父が帰ったら、相談するか。多分、駄目とは言わんだろうが……)
央世が、チラリとアードに視線を送った。アードは、畳に額を着けているままだった。
(……そうだな。困ってるんなら、助けるだけだな。そのための毎日の鍛錬でもあるよな。それに……帰す方法も、その内見つかるかも知んねぇしな)
手を下ろし、央世が口を開く。
「まぁ、変なことしないなら、親父が帰るまで置いてやるよ。……で、親父にも、置いてもらえるように頼む」
「……本当か? ありがたいのじゃ」
アードが、パッと顔をあげた。少し切羽詰まったような、神妙な顔だった。
「……ああ。オレも男だ。約束は守る」
央世は、何かを決意したようだ。真剣な表情で、グッと拳を握っていた。
「ありがたいのじゃ」
アードが再び、深々と頭を下げた。
——そして、にちゃっと口角をあげた。
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