3.侵入者は突然に②
円景寺家の居間は、畳敷きの部屋だ。
その中央には、古式ゆかしき一枚板のローテーブルと、座布団がある。ソファなどというハイカラなものなどない。
まさに、古民家的……というか、古民家である。
テーブルの真上には、囲炉裏があったのかと思わせる、鍋吊り用のフックが遺されていた。
梁や天井も煤で変色し、黒にも近い深い飴色をしている。
そして、テーブルの下の畳だけ、色が違っていた。
央世は、いつもの席……テレビモニターが見える位置に座った。
そして、その央世の膝の上に、当然のようにアードが座った。それを見ながら、茉莉は——無言で央世の左側に座った。茉莉の瞳には、感情の色がないようだ。
その時——スッと、襖が開いた。菊理だ。
「ああぁー!? ドロボーども! なにしてんだ!」
急須と湯呑を載せたお盆を持ったまま、菊理が叫んだ。
「何って、寛いでおるのじゃが?」
アードに、全く悪びれた様子はなかった。
そして、茉莉はというと。央世の左腕にしがみついていた。——自身のおっぱいを、押し当てるように。
「……いや、何か、こいつら離れなくってさ。こうじゃないと、話もしないとかいうし……。ま、まぁ、くくりも座れよ」
央世は、空いた右手で手招きをした。
「くっそー! ドロボーどもめ!」
菊理はドスドスと畳を踏みしめながら、央世の右側に立つと、ガチャンとお盆をテーブルに置く。そして、座布団もないのに央世の右側に座った。
「え? いや、お前はあっち——」
と、央世が言いかけたところで——菊理は、がしっと央世の右腕を掴んだ。そして、ぎゅっとしがみつく。
「うっさい! おにいちゃんは、おにいちゃんだから! くくりの! おにいちゃんだから!!」
「いや、それはそうだろ……ってか、話が進まないから落ち着いてくれ」
身動きの取れなくなった央世の左腕を、Eカップが包み、右腕をBカップが包——押し当てられた。
「……はぁ。まぁいいや。で、アード。お前、マジでエルフなんだよな?」
央世は、溜息まじりに口を開いた。
「うむ。ここの言葉で分かりやすく伝えるなら、エルフでいいじゃろうな」
アードが央世の膝の上で、くるりと向きを変えた。小柄な身体にそぐわない、蠱惑的な笑みだった。
「そうか……。さっきのは、その……魔法、なのか?」
「そうじゃな。魔法と言えば、わかりやすかろ?」
「……マツリに何したんだ? なんかおかしいだろ、こいつ」
央世が、茉莉に一瞬視線を移した。
アードも、ふっと茉莉に目線を向ける。
「ふむ……。元々が、そのようなものだったのではないかの? ちょっと素直にしただけじゃし」
その時。
「なんなの?! さっきから、エルフとか魔法とか、変なことばっかり!」
ギンッと、菊理が顔を上げてアードを睨んだ。
「……あー。くくり。マジなんだよ。意味わかんねぇけど、マジなんだ」
央世が、菊理の目をじっと見詰めた。硬い声だった。
「えー……? あ。もしかして、さっき頭痛かったのって、こいつの……」
央世の態度で納得したのか、菊理は口籠った。
薄い笑みのアードは、視線をチラリと菊理に流し、こてんと首を傾げた。
「んー……そうなんじゃがのう。思いのほか効きが悪かったのう」
そして、シレッと言い放った。
「アード……。お前、やっぱやってんじゃねーか」
央世の目が、鋭く尖った。
「はぁん……♡ 旦那様ぁ……」
アードの目の中にハートが浮かんだ。気がした。
——が。
菊理に掴まれていた右腕を強引に引き抜いた央世が、ガッとアードの顎を掴んだ。
「アード。オレは女子供に手を上げたくないんだ。でも、お前は人間じゃないんだろ? 家族に害を与えようってんなら……」
ビキッと音がしそうな程に、央世は血管を浮かび上がらせていた。
「ちょ、おうせ?! そんなのらしくないって!」
茉莉が、ガバッと立ち上がった。
「おにいちゃん……」
菊理は、うっとりした眼差しを央世に向けた。
「だ、旦那様……。わらわ、強引なのも嫌いではないのじゃが……少し誤解があるようじゃ」
アードが、わたわたと両手を振る。
「わらわ、旦那様の家族に害をなすつもりなんぞないのじゃ」
アードの紫の瞳を、数秒じっと覗き込んだ央世は。
「……そうか」
と、小さくこぼして、手を離した。
「わらわ、ゆくあてがないのじゃ。じゃからの、ここに住むのじゃ」
アードは、満面の笑みだった。
「よろしく頼むのじゃ、旦那様」
そして、こてんと首を傾けた。央世の——膝の上で。
一瞬、時が止まったようだった。壁時計の秒針だけが、カチカチと響く。
——やがて。
「「「はぁ?!」」」
3人の声が、揃った。
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