3.侵入者は突然に①
円景寺菊理。16歳。高校一年生。央世の義妹である。
身長172センチ。しなやかに引き締まった躯。パッツン前髪に、黒のロングポニーテール。涼し気で凛とした、大和撫子——いや、女丈夫といった印象だ。
その義妹が——
「その女、なによぉお! なんでおにいちゃんにくっついてんの!!」
空気を掻き混ぜるように、怒気を撒き散らした。ポニーテールが、逆立たん勢いである。
そして、ダンッダンッと床を踏み鳴らしながら、央世に——いや、アードに迫った。
「あ、くくりちゃん、その子は——」
茉莉が説明しようと、口を開いたのだが。
「うっさい! ドロボーは黙ってて!」
菊理は、ギンッと鋭い眼光を茉莉に向けた。
「はぁ?! 誰がドロボーだっての! 何でいつもそんな感じなの!?」
茉莉が負けじと大声を上げる。
「ちょ、お前らマジで仲悪いよなぁ……。いい加減仲よくしろって。長い付き合いなんだからさぁ……」
央世は、溜息まじりだった。だが。その両手は、アードの霊峰に埋まったままだ。
「んー……。この娘っこは、旦那様の義妹じゃったかの」
央世を見上げながら、アードがこぼす。
「おい、アード。だから、なんで知ってんだっての」
央世は、疑いの眼差しだった。
「ああん……♡ その顔は……ダメなのじゃ……」
アードが頬を赤らめた、その瞬間。
——ガッ!
菊理がアードの耳を掴んだ。
「こんのチビめ! おにいちゃんから離れろぉ!」
そして、ギリギリと引っ張った。
「あ、ちょ、くくり——」
央世が止めようと口を開いたと同時に。
「はぁ……。詮無きことじゃの。░░░░░░……」
「あっ……! アード、お前また……!」
アードが魔法を行使したようだ。
「……うっ……ぐっ……」
菊理は、アードの耳から手を離すと、顔を顰めながら頭を抱えた。
「くくりっ! しっかりしろ! ……くっ! おい! アード!」
央世は焦った声を出し、ギッとアードに視線を投げた。
「なぁんじゃ旦那様。ちょっと大人しくさせてるだけじゃ……って、この娘……」
菊理は、頭を抱えながらも、アードを鋭く睨みつける。夜叉か般若か。
「……こっのっ……ドロボー二号かぁー? そうなんだろー……ッ!! ぐっ……離れろぉぉおぉ!! お兄ちゃんから離れろぉぉ……」
ギリギリと奥歯を噛み締める音が聞こえそうだ。何やら物凄い執念である。
「えぇ~……」
さすがのアードも顔を歪ませ、ドン引きしていた。
そして——
「……はぁ。詮無きことじゃ……。もっと繋がってたかったのじゃがのぅ」
と、ブツブツいいながらも——
「░░░░░░……」
魔法の言葉を紡いだようだ。
「……お?! 取れた!」
ついに央世の手が、離れた。ほぼ同時に、菊理がスッと姿勢を戻した。
「……ふぅ。なんか、ちょっと楽になったかも」
菊理は、ペタペタと自身の頭や胸を触って、確認しているようだった。
「ふ、二人とも大丈夫?」
それを茉莉が覗き込んだ。
——だが。
「ドロボーなんかに心配されたくないっ!」
菊理は言い放ち、茉莉の肩を押した。
「あ、ちょ……」
小柄な茉莉は、その勢いでよろけ、たたらを踏み、躓いた。
「……おっとぉ」
それを間一髪というところで、央世が片手で受け止めた。
「……あ、ありがと」
と、頬を赤らめた茉莉と——
「おい、菊理。あんま乱暴なことすんなよ?」
そう嗜める央世に——
「もー! おにいちゃん! なんでそんなドロボーの味方するの!」
と、さらに不機嫌になる菊理であった。
「……うくく。旦那様の家は、実に賑やかじゃのう」
しかしその原因であるはずのアードは、からからと笑っていた。
——お前のせいだろ。
という視線を、央世はアードに遠慮なくぶつけた。
「はぁん……♡ 旦那様ぁ~……」
それは……アードには、ご褒美だったようだ。
が——
「変な声出すな! ドロボー二号!」
「——あいたっ?!」
菊理のチョップが、ドスっとアードの脳天に落ちた。アードは頭を押さえ、摩る。
「で、おにいちゃん! こいつ、なんなの! 説明して!」
菊理が、グイッと央世に詰め寄った。
「あ、あぁ。オレもよく分かんないんだが……。とりあえず説明するから、居間に行こう」
「えー? 家に上げるのぉー? もー……」
菊理は、顔を顰めながら、唇を尖らせた。
「ほら、アード。こっちだ。……くくり、お茶頼むわ」
「はぁい……」
央世に頼まれた菊理は、廊下の奥へ姿を消した。
「……うむ。旦那様。心得ておるのじゃ」
案内しようとした央世に、にこっと笑顔で答えたアードが、上り框へ一歩踏み出す。
「あ、ちょっと、アード。足くらい拭きなよ! それじゃあ土足と同じじゃん!」
そこへ茉莉が慌ててアードの肩を掴み、鞄からスポーツタオルを差し出した。
アードは、ふっと振り返り——
「ほう……マツリ、ここはお前さんの家ではあるまいに」
そう言って、にちゃっと笑顔を作った。そして、また何やらブツブツと、魔法を使ったようだ。足の辺りが光り輝く。
「……お、おい。アード、何してんだ?」
「ん? 汚れた足を綺麗にしただけじゃよ」
振り返り、驚く央世。あっけらかんとしたアード。
「……えぇ、なにそれ……」
そのアードを見て、差し出したタオルを制止したままポカンと口を開ける茉莉であった。




