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空からエルフ [古武術男子高生の場合] ~助けただけだ。ハーレム作れとも、無双したいとも言ってない~  作者: Resetter
二章

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23.痕



 円景寺(えんげいじ)観世(かんぜ)

 当年とって、四十五歳。195センチ、筋骨隆々の偉丈夫。短く刈り込んだ頭は、ソフトモヒカン風。

 央世の実父であり、菊理の義父である。

 大型トラックのライト——激しい光の渦の中を、のしのしと歩く姿は、現実とは思えない程の、凄まじい迫力だった。


「お、親父! な、なんでこんなとこに?! 帰るの、明日って……」


 央世が、顔を若干引き攣らせながら訊いた。


「はっはっは! 早く帰れそーだったからな! サプライズだ! ……つーか、そのサプライズしようにも、家にだーれもいねーからよー。くくりのGPS辿って来てみたらよー……なんだぁこれ?」


 観世は、表情をコロコロと変えながら、中村組の面々に視線を這わせていった。


「クソチンピラどもじゃねぇか。……んん? お前……もしかして、中村?」


 そして、ある一点でピタリと止まると、インターネット検索のような一言を放った。どうやら菊理の養父ということは、揺るぎないようだ。


「ああん? なんだてめ……」


 呼ばれて、反射的に声を向けた中村が、顔面蒼白となった。


「か、かかっ、かっ……観世……さん……?!」


 そして、引け腰になり、一歩後ずさった。


「おー? やっぱりか! ひっさびさじゃねーかぁ、中村ァ。ずいぶん太ったじゃねぇの。つーかよ。お前、ウチの子になんか用か? そんなヤツら集めてよぉ……相変わらずみてぇだなぁ?」


 軽薄そうだった観世の表情に、険が立つ。少し浮き出た血管から、ピシリと音がしそうだ。


「うっ……あっ……」


 中村は、観世と面識——いや。因縁でもあったのだろう。ガクガクと膝を笑わせていた。


 そんな中村の状態に、気付いているのかいないのか。観世は、視線を切ると、中村たちなどまるでいないかのように、央世たちに近付いていった。

 

「おとうさーん。サプライズってさ、もうちょっと違う感じだと思うんだけど……」


 菊理が、薙刀の構えを解きながら、呆れた声を出した。


「はっはっは! くくりは今日も可愛いなぁー! うんうん。ほーらいい子だぁ、たかいたかいするかぁ?」


 両手を広げた観世の、その表情が、一瞬で溶けた。


「いや、もうそんな歳じゃないんだってー!」


 菊理は不満そうに、ダンッと足を踏み鳴らした。


「はっはっは! なんだよぉー。まだまだ可愛い盛りだろぉー? んで、央世は……なんだそれ?」


 観世が、央世に視線を向けた。


「ん、ちょっとな」


 央世の返事は、素っ気なかった。


「あ、あの……おうせくんは、わたしを助けてくれて……だから、その……」


 代わりといわんばかりに、零がカタカタ震えながら、しどろもどろに説明しようとした。


「ほほう……」


 観世は、その様子を顎を摩りながら見ていた。

 そして、ニヤッと口角を上げた。


 ——ガシッ!


 気付けば、観世が央世の頭に、その分厚い手のひらを乗せていた。素早い動きだった。


「はっはっは! おうせー! 立派に頑張ってるじゃねーかぁ!」


 そして、ガシガシと力強く撫でつけていた。


「ちょ……やめろって」


 央世は、身体を少し捩り、右手で払う。


「はっはっは! お前は相変わらず照れ屋だなぁー!」


 観世の豪快な、満足そうな笑い声が、辺りを包む。

 

 やがて。


「じゃ、まぁ、乗れよ。帰るぞ」


 観世はそう言って、トラックを親指でさした。


「あ、ああ。そうだな……」


 央世は、薄く目を閉じ、頷いた。


「つーか親父。後で頼みがあんだ」


 そして、目を開けると、観世の目をじっと見た。


「ん? 珍しいな、お前が頼みとか。まぁ、オレは腹が減ったからよー。飯食いながら聞くわー。おっしゃ、乗れ乗れーい!」


 観世は、息子の脇にいた、小さな金髪の美少女に気付いた。


「お? 嬢ちゃんは初めましてだな? 巻き込まれたのか? まぁいいや。送るから一緒に乗んな!」


 それは央世のような、爽やかな笑顔だった。


「うむ。親父殿よ。わらわはアード。アード・フェンじゃ。ご子息の伴侶じゃ」


 アードは、アードだった。いつも通り、ろくな説明をしない。


「こらぁ! ドロボー2号!」


 ——ガッ!


 そんなアードに、菊理の拳骨が降り注いだ。


「あだっ……?! ククリはひどいのじゃー……」


 アードは、頭をさすって唇を尖らせた。


「はっはっは! まぁいいから乗れ乗れー」


 観世が、楽しそうに笑った。


 そして、央世たちが全員トラックに乗り込んだ後。観世は、のしのしと中村に近付いていった。


「おい、中村よ。落とし前、つけてもらうからな? せいぜい、覚悟しとけよ。……ほれ、これ。今のオレの名刺だ。連絡してこい。……ま、逃げたいなら逃げてもいいぜ? 別に追い込むほどヒマじゃねーしな」


 そう言って、観世はビッと名刺を差し出した。


「……あ……あ……あ」


 中村は、池の鯉のように口をパクパクさせながら、差し出された名刺を右手でなんとか掴んだ。口には入れなかったので、鯉ではないらしい。


「じゃあな」


 後ろ手に軽く手を振ると、観世は颯爽とトラックに乗り込んだのだった。



 ▽



 観世は、一旦菊理とアードを自宅に降ろし、央世と零を連れ、病院へ向かった。……ド派手なデコトラで。


「おっし、ここだ!」


 そこは——小さな、診療所といった外観だった。看板には、『愛宕診療所』と、書かれていた。


「あー……。めんどくさぁ……」


 ボソッと央世が呟いた。のそっと身体を動かし、ドアを開け、降りた。

 スッと右手を上げ、零に差し出す。


「どうぞ」


 そして、微笑んだ。


「……え、あ、ありがとう……」


 零は、ステップに足を掛けながら、央世の手を取り、なんとか降りる。よろりとしたところを央世に支えられると、顔から湯気が出んばかりだった。


 ——ピンポーン


 そんな二人に先んじて、観世はインターホンを押していた。……診療所横の、普通の玄関だ。


『……誰かね、こんな時間に。勧誘ならお断りと書いてあるが?』


 ほどなくして、冷たく硬い、初老の男性といった声が聞こえた。


「こんばんは! 円景寺ですがー!」


 観世は、大声だった。隣近所にまで聞こえていそうだ。いや、すでにトラックの排気音で、気付かれているかもしれないが。


『はぁ……。やっぱりお前か……。で、どうしたんだ?』


 インターホン越しに、溜息が聞こえる。


「急患っすよ、急患!」


『くっ……。お前はいつもいつも……! 診療所に回れ!』


「はっはっは! いつもすんませんねー!」


 ——プッ


 観世の笑い声の途中で、インターホンが切れた。


「おっし! いくか!」


 観世が笑顔のまま、二人を促した。

 央世は、無言で零の背中を緩く押した。二人ゆっくりと歩き出す。


 診療所玄関の鍵は、すでに開けられていた。

 観世は勝手知ったるふうに、スタスタと奥へ進んでいった。央世も、零をエスコートしながら後に続く。


 奥にある診療室の扉を、観世はノックもなく開けた。


「どーも!」


「ノックぐらいしろ、バカタレが」


 白髪混じりの、初老の医師が椅子に腰掛けていた。


「まーまー、愛宕先生。そんな堅いこと言わんでもー。はっはっは!」


 愛宕医師の一言にも、観世は全く動じなかった。こんな部分を、少し央世も受け継いでいるのかもしれない。


「はぁ……。少し声のボリュームを下げろ。お前はうるさいんだ。……で? 今日はどうした」


 愛宕医師は、うんざりした口調だった。

 そこへ、央世と零が到着した。


「あーっと、ウチの央世と、北条さんが怪我したみたいでね」


「……ん? 央世くんはまぁいつものことだが、北条さん?」


 愛宕医師が首を捻る。


「ウチのご近所さんだぞ?」


「そういうことじゃない」


「あの……えっと……」


 愛宕医師の視線を向けられた零が、あたふたと言葉に詰まった。当然だ。正直に話せば、事件なのだから。それに、なにからどう話せばいいのかも、分からなかった。


「はぁ……。まぁいい。北条さんから座りなさい」


「はい……」


「ふむ……。これは、刃物による裂傷か……。深い傷ではないが……。多少……痕が残るかも知れんぞ」


「そうですか……」


 零は、小さく息を吐いた。まるで、安心したかのように。


「えっ? 傷痕……? 先生、なんとかならないんすか?」


 だが、央世は気にしたようだ。硬い声だった。


「おうせくん……。いいの、全然……。本当に、気にしないで?」


 零は、そんな央世にふわりと笑いかけた。


「処置をしておく」


 愛宕医師は、そんな二人のやり取りを気にする素振りもなく、短くそう言うと、テキパキと零の処置を終えた。看護師もいない時間だから、当然全てひとり作業だ。


「ありがとうございます」


 零は、そんな愛宕医師に深々と頭を下げた。


「いや。お大事に。じゃあ、央世くん、座りなさい」


 だが、愛宕医師は、素っ気ない。時間外診療で、非合法でもある。当たり前なのかもしれない。


「うっす……」

 

 そんな愛宕医師に、幼い頃から世話になっていた央世は、すっかり苦手意識が育っているのだ。目線すら合わせない。


「……ナイフが刺さっているな」


 愛宕医師が、ジトっとした目線を央世の左腕に向けた。


「そうっすね」


 央世の声に、温度がなかった。


「はぁ……。全く。円景寺家はどうなっているんだ……」


 愛宕医師は、軽く頭を抱えた。


「オレの英才教育だぜ? 先生」


 だが、観世は得意気だった。愛宕医師が一瞥した。


「黙れバカモノ。息子にこんな無茶ばかりさせるんじゃない。……抜くぞ」


 そして、央世に手を伸ばした。


「うっす」


 ——ブッ……


 抜かれたナイフは、出血を誘った。だが、思いのほか少量だった。央世は、ナイフが抜けると同時に、上腕二頭筋(ちからこぶ)に相当の力を込めていたのだ。


「ふむ。軽く縫っておくか」


 慣れた手付きで愛宕医師は、央世の治療を行っていったのだった。


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