表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空からエルフ?! [古武術男子高生の場合] ~助けただけだ。ハーレム作れとも、無双したいとも言ってない~  作者: Resetter
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/25

17.18時40分



 女性が——震える手を懸命に伸ばし、央世の手をはっしと掴んだ。再起動したようだ。


「……あ、ありがとう……ございます……」


 20代前半くらいだろうか。

 あまり似合っていない派手な化粧が涙で崩れている。元は派手な色だったのであろう上下のセットは色褪せていて、シワの目立つシャツは、少し黄ばんでいた。

 売れない水商売女の風体だった。


「……何があったか知りませんけど、早く逃げたほうがいいっすよ」


 央世は、ひょいっと女性を立たせながら、柔らかくそう言った。


 ――ピチャッ


 女性の足下に、水溜まりが出来ていた。薄らと黄色いようだ。


「ぬ? 妙なにお――」


 アードが顔を顰めた。


「おい、黙れアード。そういうこと言うな」


 そんなアードに、央世は小声で鋭く言い放った。


「むー……。なんじゃ旦那様ー。わらわにひどいのじゃー」


 アードは頬を膨らませて、唇を尖らせる。央世は、キッとアードを一瞥し、そして女性に微笑んだ。


「……ご、ごめんなさい……」


 女性は、アードの言葉に——深く(うつむ)いた。涙の痕が拡がりそうだ。


「あ、いや、ほんと……気にしないでください。むしろすんません。アイツちょっと変なんで。それよりも、早く逃げた方がいいですって」


 央世は、プレハブの外へと女性を促す。

 女性は水滴を垂らしながら、一歩……二歩……と、脚を動かした。

 プレハブから漏れる光だけが頼りの倉庫内を抜けて、裏口へと歩く。先頭は央世。その後に女性。アードは殿(しんがり)の位置だ。


「……あの、あなたたちは……? ここで、何を……? なんで……助けてくれたんですか?」


 女性が小声で、央世の背中に話しかけた。


「……あー、オレ……は、ここに呼び出されたんですよ。あの小さい女は……ついてきただけっすね」


 央世が親指で、アードを背中越しに指す。


「……呼び……出された?」


 女性が、顔を上げた。央世の大きな背中が視界に映る。


「えっと、なんか脅迫文? みたいなのが、家に……」


「脅迫文……?」


「もうすぐ時間なんで。だから早く逃げたほうが……ってことっすよ」


 央世は、早くと言いながら、歩く速度は緩やかだった。警戒……というよりは、女性の頼りない歩行に合わせているのだろう。

 少し重心を落としているのは、最早彼に染み付いた動作だ。本来は、その状態でも、もっと素早く動けるのだから。


「でも、わたし……きっとまた……」


 女性が震える指先を合わせて、胸の前でグッと握った。

 

()()……って?」


 央世が、一瞬振り返った。


「……わたし、借金……背負わされてる……から……」


 女性は、ぽたりぽたりと、目の端から雫をこぼして、地面を濡らした。


「だから……撮影……するって……。動画を……売るって……」


 ——なるほど。……と、央世は思った。

 こんなことは、創作でも現実でも、()()()()()である。

 

「……大変そうですけど。今日のところは一旦帰って、風呂にでも浸かって、ゆっくりしてください」


 央世はそう言いながら、裏口の扉を開けた。プレハブの明かりが、外に漏れる。


「えっ? いや、そんなこと……」


 央世が開けている扉を潜りながら、女性が戸惑いの声を上げた。


「その恰好……ね?」


 央世は、にっこりと微笑みながら、首を少し傾けた。


「……えっ? ……あっ……。はい……」


 女性は、自身の下半身の惨状を見ながら、顔を赤らめた。


「……あの、ありがとうございました。あなたのお名前は……? わたしは——」


「あー! いいっすいいっす。そういうのはいらないんで。ホント、気を付けて帰ってください」


 央世がブンブンと手を振りながら、女性を遮った。


「……いえ、でも」


「多分また、危ない奴らがすぐにくると思うんで……ね?」


 央世の表情が、薄い笑顔から——ふっと真顔になった。


「……わ、わかりました。では、あなたもお気をつけて……」


 女性は一歩後退り、礼を告げると、央世たちが来た道を——闇に紛れるように、歩いて行った。


 央世は、その背中を見送りながら、その闇の先を見据えていた。

 そして、小さな足音が消えると、首と目線だけで——無言でアードを促し、扉の中へ戻った。


「ぬ? 旦那様、どうするのじゃ?」


 央世の背中に、アードの声がコツンと当たる。


「ひとり起こして訊く」


 央世は、短く答えながら、足早にプレハブの方へ戻っていく。足音は、極小だ。


「なるほどなのじゃ」


 にたりとアードの口角が持ち上がり、三日月を描いた。



 18時40分。

 実に手早い制圧と解放だった。

 


 央世はプレハブに戻ると、顎を掌底で打ち抜いた男の上半身を起こした。


「……よっと」


 そして、背後に回ると、男の背中を一気にグイッと反らせた。


「……くはっ?!」


 所謂(いわゆる)、気付けだったらしい。男が目を覚ました。


「なあ、あんた。あんたらは何者だ? ここで何をしてた?」


 央世は、静かに——地を這うような声で、訊いた。


「……んなッ?! な、なんだてめ……え?!」


 男は、状況の認識が出来ていなかった。

 気絶からの復帰だ。当然ではある。

 が。首元の違和感には、いち早く気がついたらしい。

 ——そこには、央世の太い腕が回されていたのだった。

 

「質問してるのは、こっち。……で? 時間ないし、答える気がないなら、このまま……」


 グッと、央世の腕が硬くなった。


「おっ……俺らは、金融屋だ!」


 男は、悲鳴のような声だった。


「金融屋……か。闇金ってやつか?」


「あ゙ぁ?! て、てめぇ……あんまナメてんじゃねぇぞ! 俺らぁ、中村さんの……ヴッ……!」


 央世の腕が、ギリッと男の首に食い込んだ。


「中村って、中村組とかいうアレか? 半グレ?」


「は、半グレっつーんじゃねぇよ! 愚連隊って言えや!」


 男の顔色が赤く染まる。


「それ、同じだろ……」


 央世は、心底どうでもよさそうに呟いた。


「んで、その中村組が何してたんだ?」


 そして、訊くべきことを訊く。


「あ゙ぁ゙?! 資金作りに決まってんだろが」


 男は、精一杯凄んだ。だが、央世の腕を掴む手は震えていた。


「女を攫ってか?」


 央世の声が、冷たく重くなった。その瞳は、虫を見るようだった。


「ケッ……そりゃ人聞きが悪りぃな。俺たちは効率がいい金稼ぎを斡旋してやってんだからよぉ」


 男が、にちゃりと下卑た笑みを浮かべた。その声はどこか挑発的だった。


「……なんだと? ふざけたこと——」


 央世の声に、熱が入った。その瞬間。


「旦那様ー。まどろっこしいのじゃ。わらわに任せるがよいのじゃ!」


 アードが、うんざりとした声をだした。そして、一歩前に出た。


「お? なんだ? ガキのクセにずいぶんいい女じゃねぇか」


 男がアードを値踏みするように、全身を見回した。


「いや、アード。ダメだ。オレがやる」


 だが央世は、アードに魔法を使わせたくはないのだ。その顔は、頑なだった。


「あー……。旦那様、だいじょうぶなのじゃ。このような下郎は……」


 アードが、つかつかと男の前に歩み寄った。


「こうするのじゃ!」


 ——パチィン!


「いってぇ?! なにしやがんだ?!」


 それは、ビンタだった。

 (はた)かれた方向へ捩じれた首を引き戻し、男はアードを睨みつけた。つつっと赤い液体が、口の端から滲んできていた。


「……お、おい、アード?!」


 困惑した央世を置き去りに、アードは男を果てしなく見下しきった笑顔で——実に楽しそうだった。


「しゃきしゃき話せばよいのじゃ、この下郎がっ」


 ——パチィン!


「アアッーー!」


 男が、身を捩った。びくんびくんと、身体が跳ねている。——央世の、腕の中で。


 ——パチィン!


「さぁさぁ! 素直になるがよいのじゃ!」


 アードは瞳を輝かせながら、なおも男の頬を張る。小さな手のひらの痕が、くっきりと付いていた。


「……も……」


 男が何か——おかしな声色で呟いた。


 ——パチィン!


 男は、顔を正面に戻す。

 何かが、おかしい。


 目だ。


 とろりとした目でアードを見詰め——


「……も、もっとぉ……」


 甘える犬のような声で、懇願した。


「……えっ? キモッ……」


 央世は、ドン引きしている。


「ほぉう? ご褒美が欲しければ、質問に答えるのじゃなー! くははっ」


 アードは、愉しそうに嗤っていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ