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空からエルフ [古武術男子高生の場合] ~助けただけだ。ハーレム作れとも、無双したいとも言ってない~  作者: Resetter
二章

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20/28

14.混乱の朝、平和な午後……?



 央世の大きな身体で隠しているアードから、光が漏れてしまっていた。

 窓から入る朝陽ではとても説明のつかないナニカを見た零は、目を丸くしながら首を傾げ——(くだん)のアードを覗き込んでいた。


「や、やっぱり、光ってますよね……?」


「え、あ、いやぁ? あ、あれですよ、ほら、美味いと光るやつ! そんなのあったっしょ!」


 央世が、首だけグリンと振り向け、何とか誤魔化そうとした。


「……それ、古い漫画の話じゃ……」


 しかし、零には通じなかった。


「あー……! それ、光るTシャツなんだっ! 流行ってるんだ!」


 菊理も、何とか誤魔化そうとした。


「……光る……Tシャツ……? って、夜なんじゃ……」


 零は、顎に手を添えながら、今度は逆サイドに首を傾げた。かなり訝しんでいるようだ。


「かくなる上は……! ░░░░░░……」


 央世たちが慌てている隙に、アードは声を紡いだ。


「あっ……! アード……! おまっ……」


 央世がアードの方へ振り向いた時には、遅かった。


「……あっ」


 零が、小さく声を漏らした。央世が振り向く。


「……おっとぉ」


 サッと手を伸ばし、倒れかけた零を受け止めた。


「そっか……これが魔法……」


 菊理が呟いた。


「おい、アード……何しやがった」


 央世の鋭い視線が、アードを射抜く。


「だ、だいじょうぶなのじゃ! 問題ないのじゃ! さしすせそじゃよ!」


 アードは、ブルブルと首と手を激しく振った。


「さしすせそ?」


 央世が首を傾げる。


「さわがない・しずかに・すなおに・せいにほんぽう・そばにいる……じゃよ! 問題ないのじゃ!」


 アードは、早口でまくし立て、ぷるんと胸を打った。得意気な顔である。


「ん……? なんつった……? 今、なんか変なの混ざってなかったか……?」


 央世は、全てを聞き取れなかったようだ。頭をひねって怪訝な顔をするのだが。


「さしすせそという魔法なのじゃよ! 日本語的に! 何も変ではないのじゃ!」


 アードは、更に舌の回転数を上げた。よく噛まないものだ。


「何言ってんのコイツ……?」


 菊理も首を傾げていた。


「……うっ……あれ……? わ、私……」


 零が、央世の腕の中で声を上げた。

 そして、キョロキョロと周りを見回し————パチッと、その視線が、央世の瞳と重なった。


 ——ボンッ! プシュー……


 と、聞こえた。気がした。

 零の顔は真っ赤に染まり、頭から湯気が——出ている……わけではないが。


「ひゃ……ひゃうっ……?! う、うで……わ、た、だっ……こ……ッ!?」

 

 口から漏れるその声は、もはや日本語になっていなかった。

 いや、漏れていたのは魂かもしれない。何か——白い——いや、透明なものが……?

 

「ちょ、北条さん?! よだれ、出てますよ」


 よだれだった。


「は?! もしかして、北条さん……それ、ひとのお兄ちゃん見て、欲情……」


 菊理が、ゆらりと——動いた。


「ちちちち……ちがっ……ちがいますっ……!」


 零は、蚊の鳴くような声だが、残像でも見えそうな凄まじい速度でぶるぶると首を振る。そして、ギュンッと立ち上がった。


「かかか……帰りますっ……!」


 そして、とてとてと頼りない足音を響かせながら、小走りで円景寺家を出て行った。

 玄関を出る辺りで、「お邪魔しました」と、振り返って小声で言いながら、深々と頭を下げていたようだった。


「……なにあれ」


 さしもの菊理も、ぽかんと口を開けていた。

 ギギッと、央世の首が回る。


「……おい、アード」


 その冷え切った声に——アードは、ビクンと背筋を伸ばした。


「だだだ旦那様……? どどどどうしたのじゃ……?」


 カタカタと壊れたロボットのように、アードが央世に顔を向けた。ヒクヒクとした笑顔を、懸命に貼り付けている。


「あれ、大丈夫なんだろうな?」


 央世が、玄関をくいっと親指でさした。


「あー……。くくりとは違うて、ずいぶんと効き目がよかっただけなのじゃ。さしすせそじゃよ、問題ないのじゃ」


 アードは、そんな央世の目を、じーっと見ながら淡々と答えた。


「……ふーん。まぁ、その感じなら大丈夫なのか」


 ふっと、央世が小さく息を吐いた。


「あ、おにいちゃん。そろそろ時間、やばくない?」


 菊理が時計を見ながら台所に走る。


「あ、やべ」


 央世は洗面台に走った。


「……ふぅ~。わらわもセイフクとやらに変えなくてはじゃのー」


 アードは、てちてちと菊理の部屋の方へ歩いて行った。



 しばしの間——円景寺家に、ドタドタと足音がいくつも響き渡っているようだった。


「おい、アード! マジで行くんだな? 制服、オッケーだな。上履き持ったか?」


「うむ! 昨日せっかく買うてもろうたのじゃ! 忘れいでかなのじゃ!」


「くくりー! 行ってくるわ!」


 央世が奥に向かって叫んだ。


「はーい! 気を付けてねー!」


 洗面所辺りから、菊理の声がした。


「よし、茉莉が待ってる。乗れ!」


 央世が、アードの前に背を向けてしゃがんだ。


「うむっ! 合体じゃっ!」


 シャキーンと、アードは央世の肩の上に乗った。そう、肩車である。


「急ぐぞっ」


 その言葉とともに、央世は走り出した。三歩でトップスピードに到達する。子供サイズのアードが、本当に子供だったなら——振り落とされていたであろう速度だ。


「くふふっ! はやいのじゃー」


 だが、アードは楽しそうだった。さすが、56億7千万歳児である。


 そして、あっという間に茉莉との合流場所に着いたのだった。


 央世の足音を聞きつけた茉莉の視線が、キッと刺さった。


「オハヨウゴザイマス、オウセサン。キョウモ、オソカッタデスネ」


 今日の茉莉も、ロボット語だった。


「いやー、すまんすまん。ちょっとなー。ははは」


 央世は、ポリポリと頭を掻こうとしたのだが、そこにはアードがいた。掻けなかった。


「うむ。ごくろーなのじゃ、マツリよ!」


 アードは、遥か高みから、茉莉を見下ろした。地面に立てば見下ろされるばかりなので、嬉しいのだろう。


「ちょっと、アード。アンタなんでエラソーなの。遅れそうになったの、アンタのせいじゃないの?」


 尊大なアードを、茉莉はものすごく怪しく思ったようだ。美少女のしかめっ面というものは、中々の迫力である。


「あー、いや、違うんだ。北条さんがさ、昨日のお礼って、家に来たからさ」


「おお、旦那様……! そうじゃぞ、マツリや! わらわのせいではないのじゃ! ふふん」


 央世に庇われたと思ったらしいアードは、増々得意気になっていたが。央世にしてみれば、事実を言ったに過ぎない。


「あー。北条さんか……。そっか、昨日助けたんだっけ。あの人、夜働いてるって聞いたなー、そういえば。だからこの時間なんだ……。まぁいいや。遅刻するし、行こっ」


 茉莉は、ブツブツと言っていたが、自転車に跨った。


「はっはっはっ! まだまだよゆーの時間だ!」


「あ、ちょ、おうせー! なんでアンタの方が早いんだってのー」


 走り出してしまった央世を追いかけて、茉莉は必死でペダルを漕いだのだった。



 ▽



 その日の授業は、拍子抜けするほどに滞りなく進んだ。

 どうやら、アードの魔法が効き過ぎていたのか——生徒たちは、やたらと素直で静かだったのだ。


 昨日の疲労感とは雲泥の差なのだろう、茉莉は普通に歩けている。そして、央世も平静であった。

 だが、アードは——


「今日はどこへ連れていってくれるのじゃ?」


 昇降口を出たところで、そんなことを二人に訊いたのだった。


「え。アード、どっか行きたいのか?」


 央世の中では、そんな予定はなかったらしい。


「え、今日は私バイトだからさー」


 茉莉が急いで帰る日だからだろう。


「うぬ? では、わらわと旦那様二人で行けばよいのじゃ! マツリはいらぬのじゃ!」


 アードがにこっと微笑んだ。


「……は? アンタ、それ、酷くない? 私、結構面倒見てあげてるのにさー」


 当然、茉莉はぶすっと唇を尖らせた。


「と、いうわけで、今日は真っ直ぐ帰るんだ。たまにはくくりの帰る前に家のことをだな……」


 菊理は、放課後は部活がある。

 その間に、央世は茉莉と遊んだりする日が多いのだが、茉莉も毎日暇なわけではない。今日の央世は、早く帰って掃除をする使命があったのだ。


「なんじゃー。どこにも行かぬのじゃなー。残念なのじゃー」


 アードは、しょぼんと項垂れた。央世は、それをお構いなしにひょいっと担ぎ上げた。


「ぬー。合体なのじゃなー……」


 もそもそと、アードは央世の肩の上で体勢を整えた。……どうも肩車が定着してきている印象がある。

 

「おまたせー」


 茉莉が自転車を取ってきた。


 走り出した茉莉は、いつもの帰り道より少しペースが速い。

 央世は、それに小走りで並走した。


「じゃ、今日は私こっちだからー。また明日ねー」


「おう! バイトがんばれよー」


 いつもの分かれ道とは違う場所で、央世は茉莉を見送った。


「ふむ。ばいと……とは、なんじゃ?」


「あー。アルバイトって言って、少し働く感じなんだ」


「おぉ、少し働く……じゃな……? ふむ」


 疑問に思っていたらしいアードに、央世が答えた。アードは、うんうんと頷いていた。


 ▽


 ——ガラッ


「ただいまー」


 央世が家の玄関を開け、大きな声で挨拶をした。当然、早い時間には誰もいない。

 靴を揃えて、アードと二人、廊下を進む。


「今日は……玄関と廊下の掃除でもするかなー」


「ふむ。ばいとじゃな!」


 アードが、笑顔でそう言った。


「あー、いや、ちょっと違——」


 ——ガシャーン!!


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― 新着の感想 ―
央世モテモテですねー。茉莉というものがありながら、アードにまで(羨ましい)!!!でも、央世の妙に冷静な感じも魅力的ですもんね。アードもハチャメチャで面白いです。また読ませていただきます!
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