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空からエルフ [古武術男子高生の場合] ~助けただけだ。ハーレム作れとも、無双したいとも言ってない~  作者: Resetter
二章

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12.新しい朝がきた



 アードは、上機嫌だった。


「ふーむ……。この、ドスとかいう刃物、実に興味深いのじゃ……」


 央世と菊理は、夕飯である。

 アードはひとり、菊理のTシャツをワンピースのように着ながら、菊理の部屋で、戦利品の短刀を観察していたのだ。

 

 観察といっても、(こしらえ)を外して(なかご)(めい)が――などということではない。


「こちらの人族は、金属をこのように加工するのじゃなぁ〜……。ずいぶんと精緻(せいち)なことじゃ。魔法やら異能やらがない世界だからかのう? うーむ。最早この加工が異能じゃのー……」


 作者や出処などではなく、とにかく刃の部分が気になるようだった。角度を変えながら、つぶさに見ていた。


「これ、何か効果を持たすことはできるのじゃろか? ふーむ。向こうのものとはずいぶん違うようじゃが……。うむ。後一回くらいはちからも持つじゃろ。試してみるのじゃ」


 アードが短刀を両手のひらの上に置くように持ち、胡座のように座る。ワンピース風に着ていたTシャツの裾がぺろりとめくれた。一応、ショートパンツを履いているらしかった。安心してください。


「░░░░░░……」


 今は、魔法を咎める央世はいない。アードにしたらチャンスだ。嬉々として声を紡いだ。


 短刀の白刃が、淡く輝き出した。

 その光は、次第に大きくなり、プリズムのようにギラギラと目まぐるしく色が変わる。


「░░░░░░……」


 再度、アードは声を紡いだ。

 激しい光が、刃に吸収されるように収まっていく。


「くふふ……。成功じゃな……」


 アードが、にちゃりと仄暗い笑顔になった。


 直後。

 

「おい、ドロボー二号」


 その声と同時に、スッと襖が開いた。


「はっ?! な、なんじゃ、くくり……? わらわ、食は必要ないのじゃよ?!」


 アードは、ぐりんと振り返りながら、震えた大声を出した。


「は? それはさっきも聞いたし。てか、お風呂どうす……ん? 何持ってんの?」


 菊理の視線が、アードの手許を追う。


「な、な、な……なんでもないのじゃ!」


 ぐるんと身体を菊理に向けながら、アードは後ろ手に短刀を隠した。


「……なんか、隠してるな?」


 菊理は、トットッと、ボクサーのような軽快なステップワークで、アードの後ろへ回り込もうとした。

 だが、アードはその場でくるりと回りながら背後を見せない。


「おい。ドロボー二号。隠してるだろ。見せろ」


 ずいっと菊理が右手を出した。


「な、な、くっ! かくなる上はっ……! ░░░……」


 いつもより、短かい音だった。菊理の耳には、届かなかったようだ。気付いた素振りはない。


「早く、見せろよ!」


 だが。

 菊理の声が、荒くなった。痺れを切らしてきているようだ。心做しか、こめかみに青筋が浮いている。


「ほ、ほら。わらわ、何も持っておらんのじゃ」


 アードが両手を上げた。降参のポーズだ。

 先程まで大事そうに愛でていた白木拵の短刀は、忽然と姿を消していた。だが、不自然な——引き攣った笑顔である。


「……ふーん? だったら最初から見せなよね」


 そんなアードを、じーっと見据える菊理の目は、氷点下だ。


「わ、わらわにも、ほら、都合というものがじゃな……」


 しどろもどろになりながら、必死に言葉を絞り出すアードであるが——それは、先程の素早い魔法の使い手と、同一人物らしからぬ姿だった。


「はあ? 文句あるなら、さっさと出てってくれていいんだけど?」


 菊理が腕を組んで、アードを見下ろした。身長差約40センチ。背景には猛吹雪が似合いそうだ。中々の圧である。


「うう……。わらわ、『えこ』なのじゃ……『えすでぃーじー』なのじゃ……」


 ジト目で圧を掛ける菊理の勢いに、アードは少し涙目だった。覚えたての単語は、Sが抜けている。


「んで、お風呂は?」


「あ、必要ないのじゃ! 『えこ』じゃからの!」


「あっそ……」


 プイッと顔を背けた菊理は、着替えを持ち、部屋を出ていった。


「ふぅ〜……。危なかったのじゃ。旦那様に報告されてはかなわぬからのぅ……」


 アードは、大きく息を吐いて、額を腕で拭った。


「さて……。ちからを集めなくてはじゃな」


 そして、胡座のような格好で、薄く目を閉じた。

 

 部屋の空気が、淡く——キラキラと光り出す。

 やがてその光は、アードの身体目掛けて、ゆっくりと移動し——アードを包んでいった。



 ▽



 翌朝。


 ——ピンポーン


「お? こんな時間に誰だろ」


 朝のトレーニングを終えた央世が、朝食を摂っているところだった。目玉焼きに伸ばそうとしていた箸を止め、玄関の方を見た。


「あ、見てこようか?」


 と、菊理が立ち上がろうとするが。


「あー……いいよ。オレが行くから、くくりは食べてな」

 

 央世が立ち上がって、玄関に向かって行った。


「はーい。どちらさんっすかー」


 ガラガラと玄関を開けながら、央世は気だるげな声を出した。


「……あ、おはよう……。ごめんなさい、朝から」


「あれ? 北条さん……? おはようございます……?」


 立っていたのは、北条零だった。予期せぬ来客に、央世は一瞬戸惑ったようで、首を傾げていた。


「あ、えっと……昨日、助けてもらったから……お礼をって、思って……。これ、作ってきたの」


 零の手には、鍋があった。少し、香ばしい匂いが漏れている。それに気付いた央世は、ゴクリと喉を鳴らしていた。


「え?! マジすか……。わざわざありがとうございます! 今、ちょうど飯食ってたんで、どーぞ! 上がってくださいよ」


「え? あ、あがっ……え? わ、私、そ、そんな、つもりじゃ……」


 零は、余程驚いたのか、小刻みに首を——バネでも入っているかのように、プルプルプルプルと左右に振った。


「あー。まぁ、ほら、聞きたいこともあるんで……ね?」


 央世は、少し首を傾けながら、爽やかな笑顔を作った。そして、すっと家の奥を指し示した。


「……う、あ……ん……。じゃ、じゃあ、はい……お、おじゃまし……ます」


「はい。どうぞどうぞ」


 どんどんと小声になっていく零に、央世は元気よく返す。

 その攻防戦が終わり、奥へと歩いていく央世の後に、そろそろと零がついていく。背格好は、茉莉とほぼ同じくらいだろう。茉莉が居れば、鴨の行進のようだったかもしれない。


 ——ペタペタ


 コの字の廊下から、裸足の足音がした。


「ぬ? そのおなごはなんじゃ?」


 アードが、ぶかぶかのTシャツ姿で現れた。零の足が、ピタリと止まった。


「え、あれ? おうせくん、妹さん、二人いたの……?」


 そして、央世の背中に、そう投げかけた。


「えっ、あ、いやー……? 妹……じゃないんすよ、ソイツは」


 央世は、頭を掻きながら、言葉を濁そうと試みたようだった。


「うむ! わらわは、旦那様の伴侶なのじゃ!」


 だが、アードはアードだった。ぽいんっと胸を打ちながら、自信満々に言い放った。


「……え?! え、え?! えぇ~~?! お、おうせくん、け、結婚してたの?!」


 五秒ほど固まっていた零が——再起動すると、珍しく大声をあげた。


「いやいや、してるわけないっしょ!?」


 央世は、右手をブンブンと顔の前で激しく振った。


「そそそそうよね?! ま、まだ高校生だもんね?!」


 零も、やたらとテンパっていた。ピシャピシャと鍋から音がする。


「あ、あぶなっ——」


 バランスを崩した零の小さな手に、央世の大きな手が重なった。


「……あっ、ご、ごめんなさ……」


 時が一瞬、遅くなったようだった。零が少し頬を赤く染めていた。

 こうして鍋の平和は守られた。


「ぬ? 何をしておるのじゃ? はようせんと、学校に遅れるのじゃ」


 そんな二人を、アードが下から覗き込んでいた。そこまでは、よかった。よかったのだ。


「おにいちゃーん。誰だった……って、何してんの、それ……?」


 菊理が——来てしまった。そして、見てしまった。

 菊理の表情が、みるみる氷のように冷え切っていく。


「ねぇ……北条さぁん? 朝っぱらから、ひとのおにいちゃんと、なぁーにしてるのかなぁー」


 菊理の首筋——こめかみ——と、徐々に、血管が浮き出ていく。


「あ、えっと、昨日……おうせくんに……助けてもらったから……。これ、作ってきたんだけど……。お、落としそうに、なっちゃって……」


 央世がパッと手を離した隙に、零は鍋を眼前に持ち上げて、菊理に見せた。


「……ふーん。で、なんで中まで来てるんですか?」


 菊理の唇が尖る。


「あー、いや、オレがな? ちょっと聞きたいこともあるからさ。朝飯ついでにな、上がってもらったんだ」


「……ふーん。そう。でも、あんまりゆっくりする時間ないからね」


 不承不承(ふしょうぶしょう)、菊理は食卓へと(きびす)を返した。


「ああ、わかってるって」


 央世は、小さく息を吐いた。


「くふふ。くくりは怒ってばっかりじゃのー」


 当事者ではなかったアードは、高みの見物気分で笑っていた。



 四人が、食卓に着いた。この食卓に四人集まるようなことは、本当に珍しいことだった。


「で、北条さん。それ、なんすか?」


「えっと……ローストビーフです……。まだカットしていないので……お台所お借りしても……」


「ま、まじっすか! すっげぇー! くくり! 牛肉だぞ! 牛肉!」


 目をキラキラと輝かせた央世の口の端も、キラリと光った。


「ぎゅ……牛肉……! そ、そんなの、お父さんの給料日くらいにしか……。あ、北条さん。くくりがカットするから、貸してっ」


 菊理も同じように目を輝かせながら、手を伸ばした。


「え、あ、い、いいんですか……?」


 零は、おずおずと鍋を差し出した。

 受け取った菊理は、鼻歌混じりで台所へ消えていった。


「で、聞きたいこと……なんですけどね」


 菊理の背中を見送った央世が、声をひそめて切り出した。


 零が、喉を鳴らした。


お読みいただけまして、ありがとうございました!

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