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空からエルフ [古武術男子高生の場合] ~助けただけだ。ハーレム作れとも、無双したいとも言ってない~  作者: Resetter
一章

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10.お買い物へ行こう!



「おう、そこのデケェにいちゃんよぉ」


 触手の――集団の先端に歩み出たガラの悪い男が、肩を怒らせ、央世に近寄った。


「ん? オレ?」


 央世が自身を指差す。



「てめぇ以外に誰がいるってんだぁ? デクノボーが!」


 チンピラがひとり、横からしゃしゃり出た。朝、北条零に絡んでいた男だった。


「あー……どっかで見たことあったかな……? まぁ、オレちょっと忙しいんで、またにしてもらえる?」


 央世は答えながら、チラッとアードに目線を送った。


「コイツの上履き買いに行かなきゃなんで」


「そうじゃぞ! わらわ、旦那様と約束したのじゃ! ほれ、下郎ども! 道を開けるがよいのじゃ!」


 アードが一歩前に出て、バッと手を振った。張った胸が、ぷるんと揺れる。


「おい、アード。お前また……」


 背後からの央世の声に、アードは慌てて振り向く。


「してないのじゃ! なんにもしてないのじゃ!」


 そして、ぶるぶると左右に首を振った。



「なんだぁ? このロリ巨乳はよぉ? 売れそうじゃねぇか……」


 チンピラが手を伸ばした――


「おい、待て」


 その時。

 アニキと呼ばれた男から、待ったが掛かる。


「へ?」


「おう、にいちゃん。場所、変えるか。ここで暴れんのも……お互いよくねぇだろ?」


 いつの間にか央世は、アードに掴みかかろうとしていたチンピラの横にいた。


「いや、オレ待ち合わせ……はぁ……」


 央世は手を下ろし、溜息ひとつ吐いて、アードに向き直った。


「アード。マツリと二人で上履き買ってきてくれるか? オレはお客さん対応があるらしいんだ」


「ええー?! そんなの酷いのじゃ! 約束したのじゃ! じゃからわらわ、授業中も大人しくしておったではないか!」


「いや、約束なくても授業は大人しく真面目にだな……」


 央世は、56億7千万歳児をなだめるように諭したが、当のアードはプリプリと怒っていた。



「いつまでゴチャゴチャやってやがんだ! おら、来いや! その女もだ!」


 痺れを切らしたチンピラが、央世の腕を掴んだ。


「はぁ……行くよ。オレもこんな場所でモメんのは勘弁だ」


 スルリとチンピラの手を解くと、央世はリーダー格に向き直った。振りほどかれたチンピラは、勢い余ってたたらを踏んでいた。


「わかりゃあいいんだ。……こっちだ。その女も逃がす気はねぇよ」


 リーダー格の男が、顎でアードをさす。そして、背を向けて歩き出した。

 六人ほどがふたりを取り囲む。


「お? わらわも往くのじゃな? では往こうか旦那様♡」


 アードが、すっと央世の手を取った。

 央世は歩き出しながら、そっとその手から抜けた。


「むー……」


 アードは、ガラの悪い男に囲まれることより、腕組みが出来なかったことが不満らしい。

 

「ところで旦那様。この者らは知り合いなのか?」


 ふと、アードが訊いた。


「いやぁ? 知らな……あ。一人キャンキャン吠えてたヤツ、朝見かけたかも?」


「おい! 聞こえたぞ! 誰がキャンキャン吠えてるだと?!」


 ぐるんと振り向いたチンピラが、央世に睨みを利かせながら、顔を近付けて凄む。


「おお、こやつか。ふはっ! 確かにキャンキャン吠えておるのじゃ! えーと、なんじゃったか……そうじゃ! チワワじゃ! 小さくて涎を垂らしておるような、情けない生き物じゃ!」


 アードがチンピラを指差しながら、腹を抱えて笑った。


「いや、アード。あんまり言ってやるな。それにな、それを言うなら犬だ、犬」


「ふはは……! ひー……ひー……っ……。 ふー……。え? 犬はもっと立派な感じじゃろ?」


「うーん……。お前、変な知識の吸収の仕方してるんだなぁ……。犬って、色んな種類がいるんだよ」


「ほぉー。そうなのじゃな。チワワみたいなのも犬なのじゃなー。ふむ。ならばこの下郎も、一応は人族ということなんじゃなー」


「まぁ、迷惑この上ないけど、そうなんだ」


「な……て、てめぇら! いいかげんに……」


「おい、黙れ。通報でもされたらどうすんだ。面倒だろうがよ」


 先頭を歩くリーダー格の男が振り向いた。


「さ、さーせん……」


 チンピラが、顔を青くしながら謝り、そしてアードを憎々し気に睨みつけた。


「タダじゃおかねぇからな……楽しみにしてやがれ……」


 チンピラは、小声でそう漏らしたが、街の音にかき消されて誰にも届くことはなかった。



 ▽



 そこは、倉庫のような場所だった。

 鉄骨組みで、トタン貼り。簡素だが、広さはあった。隅の方には、一斗缶やドラム缶が積まれている。


「おら、きびきび歩けや」


 央世たちは、その倉庫の中央辺りに連れて来られた。


「うわー……。キッツイ臭いだなー……ここ」


 鼻をつまみながら、央世は周りを見渡していた。


「ぬー……。なんじゃここは。汚らわしいのじゃー。わらわ、旦那様と買い物とやらに行くというに……。はっ?! まさか……ここが……?」


「なわけあるか」


 同じように顔を顰めながら周りを見渡していたアードに、央世は呆れた顔をした。



「さーて。話し合いを始めようか、にいちゃん」


 リーダー格の男が、奥の位置から口を開いた。


「話し合い?」


「ああ、そうだ。にいちゃん、落とし前ってやつだ。お前さん、今朝、コイツに怪我ぁ負わせてくれたんだろ? ……なぁ?」


 リーダー格の男が、チンピラの肩を叩く。


「うっす。全治三ヶ月の重傷っす」


 チンピラは、包帯すらしていないのだが、()()()()()になっているのだろう。


「怪我? させたつもりもなければ、してるようにも見えねーけど」


 央世は、うんざりとした口調だった。


「おいおい、コイツはな、身体が弱えぇんだよ。どんなつもりとか関係ねぇんだ。怪我したっつんてんだ」


「……で? それが?」


 リーダー格の男が、にゃっと嗤った。


「おう。その女、寄こせ。んで、お前さんは……100万払えや。それで手打ちだ。破格だろ?」


「……はぁ?」


 央世が、顔を顰めながら首を傾げた。


「全治三ヶ月ったら、そんなもんだろ。何なら安い方だぜ……?」


「え、アニキ、300万取るって……」


 ニタニタとしているリーダー格の男に、チンピラが耳打ちした。


「ははは……。あの女、いい売りモンになんだろが。だから破格だっつってんだろ」


 リーダー格の男は、機嫌良さそうに小声で返した。アードを売り捌いた皮算用でもしているのだろう。


「……で? それ断ったら?」


 央世の目が、鋭く光った。


「ああん……? 断る選択肢なんざぁ、あるわけねぇだろうが」


 リーダーの言葉とともに、手下が包囲網を狭めた。


「のう、旦那様や。こやつらは先ほどから何を言っておるのじゃ?」


「あー……お前を売るんだってよ」


「売る……というのは、上履きみたいなものかの?」


「ん? まぁ、そんな感じ……かな?」


「ほぉう……。旦那様や。わらわ、このような不敬……人族から働かれることなぞ記憶にないのじゃ……ちいと懲らしめてやるのじゃ……」


 アードの瞳が、冷たく凍った。


「まてまて! だから何度も言っ――」


「わかっておるのじゃ、旦那様。心配せずとも使()()()のじゃ」


 そう言ってアードは、すっと脚を緩く開いた。それは、央世の型に似ていた。


「きゃはは! コイツ等やる気だぜ!」


 囲んでいた男どもが、一斉に笑い出した。


「ふん。まぁ、わからせてやれ」


「うっす」


 リーダーのひと声で、男どもは一斉に――央世とアードに躍りかかった。

 その数5人。少々のタイムラグ。


 央世に手を掛けた、最初の男は――


「おらっ!」


 掴んだ、つもりだった。


「――?!」


 すっと引かれてしまった腕のあった場所を、己が腕を振り回したのみ。何の感触もなく、空を切った。

 そこへ、次の男が――


「ガキがぁ!」


 体当たりのように突っ込んできた。

 央世は、半身に構えていたが、その半身分だけ、上半身を緩く傾けた。


 ――ガッ!


「ぎィっ……」「ぐえっ」


 残された脚に引っかかり、男は宙に舞いながら、ひとり目に激突した。


「てめぇ、なにしやが――」


 ――ヒュンッ……カッ!


 驚いて止まった三人目の男の懐に、央世は瞬く間に潜り込んでいた。素早く振った右手の掌底部分が、顎先を掠めた。


「――ごっ」


 男は顔面から地面に倒れ込んだ。

 央世がアードの方へ視線を送る。


「くっ……このっ!」

「ちっ……! ちょこまか逃げんな!」


 アードは、マタドールのようにヒラヒラと男二人の手を躱していた。


「はははー。おっそいのう。チワワの仲間は所詮チワワじゃのー。トロルやらゴブリンのほうがよっぽど素早いぞー」


 そして、楽しそうにケタケタと笑っていた。


 ゆらりと央世が歩み寄る。


「おぅらあ!」


 ――ガィン!


 そこへ、チンピラが鉄パイプを央世の頭目掛けて、振り下ろした。央世は、半歩ズレて躱す。鉄パイプは地面を叩き、倉庫に硬い音が響いた。


「なー。あんた、怪我は?」


「うるっせぇぇ!!」


 央世の問いに、チンピラは鉄パイプのフルスイングで返答する。


「まぁ、別に分かってたけど……」


 央世は小声で呟きながら、ブンブンと振られていた鉄パイプを――チンピラの腕に触れたように見えた瞬間――奪い取っていた。


「……な?! は?! え?!」


 チンピラは、自分の手と、央世の持つ鉄パイプを交互に何度も見ながら、情けない声を上げた。


「はぁ~……。手早く終わらすかぁ。マツリ怒ってるだろうし……」


 すっとチンピラの背後に回っていた央世は、チンピラの首後ろに、左手に持つ鉄パイプを当て、右手で顎先をコツンと撫ぜた。


「……!?」


 チンピラが倒れ行く。

 央世は振り返らず、アードに翻弄されている男の背後に迫った。


 ――ドサッ!


 チンピラが倒れる音と同時に、男が白目を剥いた。央世の締めだ。


「あ、旦那様ー。わらわがやるのじゃ、こやつはー」


 その様子を見ながら、アードは6人目の男の顎先に、掌底を掠めた。


「アード……。お前、本当に何者なんだよ……」


「くっそがぁ! 好き勝手やってくれやがってよぉ!」


 央世の呟きは、リーダーの男の声に搔き消された。


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