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空からエルフ [古武術男子高生の場合] ~助けただけだ。ハーレム作れとも、無双したいとも言ってない~  作者: Resetter
一章

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9. 一難去って



 カッと目を見開いた朱夏が、バッと布団を跳ね除けた。

 そして、ゆらぁりと上半身を起こす。


「あなたたちぃ〜? 今、性交渉って言ったかしらぁ〜?」


 朱夏の首だけが、くるーりと央世に向く。


「うん? なんじゃ? 言うたが、どうかしたかの?」


 アードの言葉に、朱夏の目がギラリと妖しく光り、ビュンと振り向いた。


「あらぁ? あなた、起きたのねぇ〜。……で? それって……おうせくんの屈強そうな(たね)を……もらおうってことかしらぁ?」


 朱夏は、ヒクヒクと顔を引き攣らせながら、すっと——ベッドから脚を下ろす。


「ぬ? なんじゃこやつ?」


 アードが、朱夏を指さして茉莉に訊いた。


「えっと……保健室の先生……保健医さんだよ。なんか今日、ちょっと変なんだよね……。アードの胸を見てからさ……」


 茉莉の視線が、じとぉっとアードの胸部へ向かう。茉莉も中々立派なのだが、アードのそれとは比較にならない。だが、今はそれだけではないのだろう。ちらりと朱夏を見て、苦い顔をした。


「ふーむ……。わらわの魅力にやられてしもうたのじゃな。まぁ詮無きことじゃの」


 アードは、自身の双丘を見やった。右側には、央世の手。頬が、綻んだ。


「ちょおっと〜? 先生無視して、なぁにごちゃごちゃ言ってるのかしらぁ?」


 朱夏の首が、カタカタと機械のように動きだす。そして——幽鬼のように一歩、二歩と、迫る。


「うわ、こわっ」


 茉莉が、一歩後ずさった。

 央世は無言でゆっくり振り返ると、左腕をだらりと垂らした。そして、ゆるりと左右に振る。

 それに、アードが気付いた。


「おお、旦那様。わらわに任せるがよいぞ。░░░░░░……」


 言うが早いか、アードは音を紡ぐ。


「……あっ?! お前、また!」


 央世の制止は、すでに遅かったようだ。


「あっ……」


 朱夏の瞳から、光が失われた。薄く開いた口から、たらりと一滴よだれが垂れ——ぽたりと床に染みを付けた。


「ふぅ……。なんなのじゃこやつは……」


 小さく息を吐きながら、アードが顔を顰めた。理解が及ばないようだ。


「いや、お前、無闇に魔法使うなっての……。大体、さっきはそれで倒れたんだろ?」


 央世が盛大に溜息を吐いた。


「あ、あれは……少々数が……一気にやりすぎただけなのじゃ! それにほら、今は繋がっておるのじゃから! これしきは平気なのじゃ」


 そんなことを言いつつも、アードは、ベッドに横たわったままだった。央世も、茉莉も、無言で——憐れみの目を向けていた。


「な、なんじゃ、その目は?! ふ、ふたりとも酷いのじゃ! わらわ、本気を出せば……すごいんじゃからな?!」


 アードは、両手両足をじたばたと動かし、頬を膨らませた。


「いや、本気出すなよ? その本気がどんなもんか知らんけど」


 央世は、ウンザリとしているのか、少々吐き捨て気味だった。


「ね。世界滅んだりとかしたら、シャレにならないしね……」


 茉莉も同じようにウンザリした表情を作り、央世に顔を向けた。


「おお、そんなこともあんの——」


「無理じゃよそれは! 今のわらわでは消えてしまうのじゃ!」


 央世に被せるように、アードが大声を出した。珍しく驚いた表情だった。


「……今のってことは、元々は出来たのか?」


 央世が、眉根を寄せながら、冷たい声を出した。


「いや、おそらくじゃが……この規模の星ならば——丸ごと消すのは、わらわでも無理じゃよ? 人族を滅ぼすだけならば、やりようもあると思うのじゃが……」


 アードは、考え込むように——記憶を探るように——視線を動かしながら、答えた。


「……ほぉう?」


 央世の目が、ギラリと光った。


「あ、いやいやいやいや、旦那様? ちがうのじゃよ?! やらぬのじゃよ?!」


「ほんとにぃー? なんか……アードって何するか分かんないよね? 私も洗脳されてるみたいだし……」


 必死で手を振るアードに、茉莉からの横槍が炸裂した。効果は抜群だ。


「……や、マツリよ、何を言うのじゃ?! わらわ、マツリと早う仲良うなれるようにしただけなのじゃ! 悪いことはしておらんのじゃ! 悪いエルフではないのじゃよ?!」


 アードは、飛び上がらんばかりの勢いで、早口に捲し立てた。


「……ふーん?」


 茉莉は、そんなアードを——目を細めて横目に見ていた。


「な、マツリ?! 何じゃ、その目は?! ほら、見るがよいぞ? わらわ、可憐な乙女じゃろ?! そのようなことするはずが……! あ、旦那様……?! なんじゃその手は? 拳、握って……え? あ、ちょ、ま、待つのじゃ!」


 央世の左拳がギリリと握られ——ゆっくりとアードの頭上へと移動していく。

 そして、焦るアードを冷たい目で——数秒間、射抜いていた。


 ……が。


「まぁ、マツリもそこまで変になってる気はしないから、いいけどさ。……それより、愛宕先生どうなってんだ? これ」


 央世は拳を解いて、朱夏を親指でさす。


「ふむ。どうも自我が強いようでな。抵抗しておるのじゃろうて。そのうち気が付くじゃろ」


 朱夏は、時折ビクンビクンしているようだが、倒れたりはしないらしい。ぬうっと立ち尽くしたままだ。

 

「ふーん……。くくりの時みたいなもんかぁ……。まぁいいか。また起きられても、面倒くさいことになりそうだしな。……で。これ、いつ外れるんだ?」


 央世が、アードの霊峰に埋まった自身の右手をじっと見ながら、顎をしゃくった。


「……ぬ? 旦那様は、わらわと離れたいのか? わらわ、さみしいのじゃ……」


 きゅるんと瞳を潤ませたアードに——


「バカなこと言ってないで外しなさいよ! 授業中なんだし!」


 茉莉が激しく突っ込んだ。中々に赤い顔である。


「ぬぅ……。もう少し回復したかったのじゃがのう……」


 ぶつぶつと言いながら、アードは自身の右手を央世の右手に重ねた。接触部が、淡く光る。


「お、外れた」


 央世は、さっと右手を引き抜いて、プラプラと振った。そしてグイっと伸ばした。


「むー……」


 アードが不満そうに頬を膨らませる。


「おっし、戻るか、教室」


 央世は、そんなアードに目もくれず立ち上がると、軽く伸びをした。


「そうね。欠課になっちゃうしね」


 茉莉も立ち上がった。


「けっか……とはなんじゃ?」


 アードは横たわったまま、ポカンとした顔で訊く。


「授業を休むってことだよ。休み過ぎると単位がもらえなくなるの。一応、私もおうせも、真面目に通ってるんだからね」


「ほうほう。この世界は、学びに熱心なんじゃなぁ」


 アードが感心したようにこぼした。


「まぁ、それも割と近代になってからの話らしいけどな?」


「アードはどうするの? 立てる?」


 茉莉が、振り返った。


「うむ。ここにおるのも退屈じゃ。わらわも往くとするのじゃ」


 ふわりと軽い動作で、アードがベッドから降りた。てしっと音がした。


「そういえば、アード……何で裸足なんだ?」


 央世が、思い出したように訊いた。


「昨日、玄関では靴を脱ぐ——と、言われたからじゃよ?」


 アードの頭の上に、疑問符がたくさん浮かんでいるようだった。


「あー……。学校ではな、上履きってもんがあって——」


 三人の話し声が、保健室から次第に遠ざかる。

 

 混沌で満たされていた保健室に、静寂が戻った。

 

 そこには、時折ビクリとだけ動く、ぽーっとしたままの朱夏がひとり——人形のように佇むのみだった。



 ▽



 放課後。


「ふーむ。実に興味深かったのじゃ」


 アードは機嫌よさそうなに、央世の方を向いた。


「それはいいけど、上履き買いに行くぞ……。本当に学校通うならな……」


 しかし、対照的に央世の表情は晴れないようだ。


「……はぁ。疲れたぁ……」


 茉莉も、少し後ろをトボトボと歩いている。魂が半分抜けているような顔である。


「おうせー。私、自転車取って来るからさぁ、校門で待っててよー……」


 そう言って茉莉は昇降口を出ると、駐輪場に向かった。


「おー。わかった」


 返事をした央世は、真っ直ぐ校門へ向かう。

 その後ろをアードが、とてとてと付いていく。


 校門の外には、人だかりが出来ていた。

 正確には、団子状になった集団を、下校する生徒たちが、遠巻きにゆっくりと避けて帰っているようだった。


「……ん? なんだあれ。誰か待ってんのか……?」


 央世が、ちらっと校舎を振り返ったが、思い当たるフシもなかったのだろう。スタスタと、いつも茉莉を待つ場所——校門を出て少し行った辺りの、小さな水路前を目指し、歩いていく。


 ——つもりだった。



「……あっ、アニキ、アイツっす!」


 それは、央世が校門を出てすぐのことだった。


「ああん? ほぅ、あれか……」


 団子状の集団が形を変え、触手を伸ばすかのように、動きだした————!


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