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花嫁修行で宮廷勤めしたら、学園の先輩だった変人魔術師に求婚された〜宮廷の事情に巻き込まれても、私は何も知りませんけど〜  作者: 月乃宮 夜見


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17 遠征リターン

 一週間ぶりにアーケルが遠征から帰還したのは、穏やかな夕暮れ時だった。私は宮廷の庭で小さな花壇の手入れをしていた。新緑の香りが漂う中、私はアーケルからもらったネックレスとブレスレットを身に着け、彼の帰りを心待ちにしていた。遠征中の魔術の手紙で「無事に結界を設置した」と知らされていたが、彼の姿を直接見るまでは不安が消えなかった。


 庭の門が軽く軋む音がして私が振り返ると、そこにアーケルが立っていた。旅装のままの彼は、埃にまみれたマントを羽織り少し疲れた顔に笑みを浮かべている。ローゼ・アラネアスは彼の後ろに立ち、無表情で荷物を肩に担いでいた。アーケルは一歩進み私に近づくと、軽く手を振る。


「ただいま、レオーネ。約束通り帰ってきたよ。……待っていてくれたかい?」


 私は剪定鋏を置き、急いで彼に駆け寄る。胸が締め付けられるような緊張が解け、思わず涙がにじんだ。


「アーケル、おかえりなさい! 無事で良かった……本当に心配したんですよ!」


 アーケルは優しく笑った。「君が待っていてくれたから、無事に帰ってこられたよ。ローゼのおかげもあるけどね」と後ろを振り返る。ローゼは「俺の名前を出すな」と冷たく呟き、そのまま去っていった。アーケルは私の手を取る。


「少し疲れたけど、君の顔を見たら元気が出た。さあ、屋敷に帰って話そう」


×


 二人はリビングに腰を落ち着けた。アーケルはマントを脱ぎ、テーブルに置かれた水差しから水を注いで飲み干す。私は彼の疲れた顔を見ながら、遠征の話を聞きたくてソワソワしていた。アーケルは一息つき、私を見つめて微笑んだ。


「遠征は無事に終わったよ。灰色の峠に結界を設置して、魔物の動きを抑えた。ローゼの精密な術式がなければ、少し危なかったかもしれないけどね」


「ローゼ様と上手くやれたんですか?」私が少し不安そうに尋ねると、アーケルは笑って頷く。


「ああ、もちろんさ。彼の不機嫌な顔に耐えるのが一番の試練だったけど、仕事では信頼できたよ。魔物が少し出てきてね。僕が結界を急ぐ間、彼が時間を稼いでくれた。おかげで任務は成功さ」


 私はホッとした表情で、「良かった……」と呟く。アーケルは私の安心した顔を見て、さらに笑みを深めたが、ふと何かに気付いたように首を傾げる。


「そういえば、君の様子が少しおかしいね。何かあったかい?」


 その言葉に、私は一瞬ギクリとした。遠征中の贈り物のことをどう切り出そうか迷っていたのだ。私は少しモジモジしながら、テーブルの下で手を握りしめる。


「実は、アーケルが遠征に行ってる間に、宮廷でちょっとしたことがあって……」


 アーケルは眉を上げ、「ちょっとしたこと?」と興味深そうに尋ねる。私は意を決し、部屋の隅に置いていた小さな布袋を取りに行く。そして、中から贈り物を出し一つずつテーブルの上に並べた。手袋、指輪、ブローチ、ハンカチ、ペンダント。それぞれが異なる輝きを放ち、アーケルの視線を引きつける。


「これ、ハイドレンジア様、リリウム様、ゼルベラ様、ミュゲット様、ヴィオレット様からもらったんです。アーケルがいない間に、みんなが『君を守るため』とか『元気でいてほしい』って渡してくれて……」


その表情は、どこか険しかった。だが、


「アーケルって、宮廷の皆さんに大事にされているんですね」


と私が告げた時。


 アーケルは一瞬目を丸くし、次にゆっくりと口元に手を当てて笑いをこらえた。私は彼の反応に戸惑い、慌てて続ける。


「私、びっくりしてしまって! どうして私にって聞いたら、みんな『君が真面目だから』とか『笑顔が好きだから』とか……ヴィオレット様は『アーケルと関わりがあるから』って言ってました。アーケルにどう説明しようかずっと考えてたんですけど、彼らがこんなにくれるなんて思わなくて……」


 アーケルは笑いを抑えきれなくなり、とうとう声を上げて笑い出した。「はははっ、これは予想外だね! 僕が一週間留守にしただけで、君がこんなに人気者になるとは!」


 私は頬を赤らめ、「笑いものじゃないですよ! 私、困っちゃって……アーケルが知ったらどう思うか心配だったんです」と少し拗ねる。アーケルは笑いを収め、私の手を取って真剣な目で見つめた。


「心配しなくていいよ、レオーネ。君が困惑してるのもわかるし、贈り物をもらったのも僕じゃなくて君の魅力のせいだ。僕が驚くどころか、むしろ誇らしいくらいさ。宮廷の連中が君を大事に思ってる証拠だよ」


 「私の、魅力……?」と首を傾げると「気にしないでおいてくれたまえ。君はそのままでいい」と優しく微笑む。

 それに釣られて私も少し安心して微笑み、「でも、アーケルがびっくりしないかと思って……」と呟く。アーケルは目を細め、軽く冗談を交えて返す。


「驚くって? 天才の僕がそんな小さなことで動揺すると思うかい? まあ、リリウムの指輪は少し派手すぎる気がするけどね。彼の性格が出ているよ。ゼルベラのブローチは可愛らしいけど、彼が顔を赤くした姿を想像すると笑えてしまうね」


 私は「そんな見方しないでください!」と笑いながら抗議し、アーケルもまた笑う。二人は贈り物を一つずつ手に取り、誰がどんな意図で渡したかを話す。アーケルはヴィオレットのペンダントを手にして、少し真剣な表情になった。


「ヴィオレットの言う『不穏な動き』は気になるね。遠征中も、国境で魔力の乱れが自然じゃないと感じた。宮廷内で何か企んでる者がいるのかもしれない。君を守るためにも、これからも注意が必要だ」


 私は頷き、「私もそう思いました。でも、みんなの気持ちは嬉しくて……どうしたらいいか分からなくて」と呟く。アーケルは優しく言う。


「君はそのままでいいよ。贈り物を受け取ったなら、感謝して使えばいい。ただ一旦、僕が強度とか魔術について確認しなければいけないけれどね。魔術には相性というものがある。調べ終わったものは、僕の護符と一緒に持っていても問題ないさ。僕が更新したネックレスとブレスレットは、どんな魔術からも君を守る」


 私は「アーケルらしいですね」と笑い、アーケルも「天才らしいだろう?」と返す。二人は贈り物を布袋に戻し、リビングで夕食の準備を始めた。アーケルが遠征の話を詳しく語り、私が宮廷での一週間を振り返る。


 食事を終え、二人は庭に出て星空を見上げた。私はアーケルの隣に座り、贈り物のことを改めて考える。


「……みんながこんなに気にかけてくれるなんて、私、気づかなかったんです。少し自信が持てました」


 アーケルは私の手を取り、「君はそれだけの魅力があるんだよ。僕が遠征中も、宮廷には君を守りたいと思う人がたくさんいた。それは僕にとっても嬉しいことさ」と答えた。私は頬を赤らめ、「ありがとう」と呟く。


 アーケルは星空を見上げ、「次は君と一緒にどこかへ行きたいな。遠征じゃなくて、ただの旅だよ」と提案する。私は目を輝かせ、「楽しみです!」と笑った。二人は星の下で未来を語り合い、贈り物の出来事を笑いものに変えながら、絆をさらに深めた。

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