15 困惑プレゼント
ある午後、宮廷の給仕として働く私は宮廷の広間で今日の仕事の後片付けをしていた。
その時の私の視界に入ったのは、近づいてくる影だった。私は少し戸惑い、疲れた体に鞭を打つように笑顔で対応する。
「レオーネ、君にこれを」
近づいてきたのは、ハイドレンジア・カールス。黄金色の髪を持つ逞しい騎士だ。彼は大きな手で革の包みを取り出し、私に渡した。
「ハイドレンジア様、これは……?」
私は戸惑いつつも、包みを受け取る。開けてみると、そこには頑丈そうな革製の手袋が入っていた。手袋には騎士団の紋章が刻まれ、保護用の魔術が施されている。
「庭仕事で怪我でもしたら大変だろう? 以前、君の手が薄い手袋で作業しているのを見たからさ。これは騎士団の特別な手袋だ。君の手を守るためのものだ」
ハイドレンジアの豪快な声が響く。私は感謝の意を示しつつも、内心で強い困惑が渦巻いていた。どうして私なんだろう、と頭が混乱する。
「ありがとうございます、ハイドレンジア様。でも、なぜ私に……?」
私の言葉に、ハイドレンジアは肩を叩き、笑う。
「君の真面目な姿を見てたら、放っておけなかっただけだ。使ってくれると嬉しい」
彼が去った後、私は手袋を見つめ、どうしたらいいのかと考えていた。だが、時間もないので、私は手袋をポケットにしまう。
×
別の日。
仕事の最中、影が近づいてきた。今度はリリウム・マンティスだ。宮廷魔術師の中でも地位が高いが、彼はいつも通りの軽薄さで私の前に立った。
「レオーネちゃん、君に渡したいものがある」
その声に、私は緊張しながら答える。
「リリウム様、何でしょうか?」
彼は一歩近づき、黒い革の小箱を取り出した。その表面には複雑な魔術の紋様が刻まれている。彼は笑顔で箱を差し出し、私が受け取るのを待った。
「これは……?」
「開けてみて」
私は少し戸惑いながらも、箱の蓋を開ける。中には、深紅の宝石が嵌め込まれた指輪が入っていた。宝石はまるで炎のように輝き、魔力を感じさせる。私はそれを見つめた。
「これは魔術の護符だよ。君の身を守るためのもの。ちょーっと色々あってね。……君がアーケル君と婚約していることは知っているけどさ、宮廷ってちょっと危ないんだよね。私の力を借りるつもりがあるなら、これを着けておくと嬉しいな」
私は驚きながらも、丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます、リリウム様。でも、アーケルからも護符をもらっているので……」
リリウムは軽薄な笑顔のまま、続ける。
「彼の護符が万能だとは思わないことだよ。私の護符は、物理的な攻撃から君を守る力を持っている。必要なら使ってね」
そう言うと、彼は踵を返して広間を出て行った。私は指輪を見つめ、複雑な気持ちでそれを箱に戻す。アーケルにどう説明しようかと考えた。
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別の日、仕事の最中に私の背後から声が聞こえる。
「レオーネさん、こちらを……」
振り返ると、ゼルベラ・フォルミケスが立っていた。見た目は年下っぽく可愛らしいが、実は結構年上の宮廷魔術師だ。彼は少し緊張した様子で私を見つめている。
「あの、レオーネさん……これ、渡したいんですけど……」
彼の声は小さく、どこか緊張しているように聞こえた。私は笑顔で答える。
「ゼルベラ様、何でしょうか?」
彼は少し顔を赤らめ、モジモジしながら小さな木箱を差し出し、渡すと顔を真っ赤にした。私が受け取ると、彼は慌てて説明を始める。
「これは、魔力を回復するブローチです。レオーネさん、給仕の仕事で疲れてるみたいだから見てて我慢できなくて……これ、使ってくれると嬉しいです」
私は木箱を開け、中に入っていた銀色のブローチを見つめる。ブローチには緑色の宝石が嵌め込まれ、優しい光を放っていた。
「ありがとうございます、ゼルベラ様。でも、なぜ私に……?」
ゼルベラはさらに顔を赤らめ、モゴモゴと口を動かしながら答える。
「レ、レオーネさんが元気でいてくれると、僕、嬉しいから……です!」
そう言うと、彼は慌てて広間を出て行った。私はブローチを見つめ、それを木箱に戻した。
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さらに別の日。
後片付けをしている私の方へ、一人の騎士が近づいてくる。ミュゲット・パグールス。黒髪と鋭い目つきが特徴の若い騎士だ。彼の親しみやすい笑顔が私を見つめている。
「レオーネさん、今日も忙しそうだね。給仕の仕事、いつも助かってるよ」
その優しい声に、私は少し安心しながら笑顔で答える。
「ミュゲット様、ありがとうございます。報告会のお仕事、お疲れ様でした」
彼は一歩近づき、小さな布包みを差し出した。その笑顔に思わず受け取ると、彼は少し照れたように頬をかく。
「これ、君に渡したいんだ。受け取ってくれる?」
中を開けると、繊細な刺繍が施されたハンカチが入っていた。ハンカチには保護の魔術が込められている。
「これは……?」
「君、いつも忙しそうだからさ。疲れた時に使ってほしいんだ。保護の魔術も込めてあるから、安心してね」
私は驚きながらも、感謝の意を込めて頭を下げる。だが、内心では困惑が広がっていた。
「ありがとうございます、ミュゲット様。でも、なぜ私に……?」
ミュゲットは軽く笑い、続ける。
「君の笑顔が好きだからさ。元気でいてくれると、僕も嬉しいよ」
そう言うと、彼は軽く手を振って広間を去って行った。私はハンカチを見つめ、それを布包みに戻した。
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別の日。
掃除をしている私の元へ現れたのは、女性騎士ヴィオレット・コキネラスだった。色白の肌に青い瞳が特徴の彼女は、冷静な視線で私を見つめる。
「レオーネ、忙しそうだな。給仕の仕事、いつも丁寧で感心するよ」
その落ち着いた声に、私は少し緊張しながら笑顔で答える。
「ヴィオレット様、ありがとうございます。ただの給仕の仕事ですが、頑張っています」
彼女は一歩近づき、小さな水晶のペンダントを差し出し、静かに渡すとすぐに背を向けた。
「これを君に渡したい。受け取ってくれる?」
私は魔道具を下ろし、水晶のペンダントを受け取る。ペンダントはわずかに光を放ち、魔力を帯びていた。
「これは……?」
「これは危険から君を守るための護符だ。最近、宮廷内には不穏な動きがある。君が安全でいてくれることを願っている」
私は驚きながらも、感謝の意を込めて頭を下げる。
「ありがとうございます、ヴィオレット様。でも、なぜ私に……?」
ヴィオレットは静かに微笑み、続ける。
「君はリベルラスとも関わりがある。彼は我々にとって重要な存在だ。君が彼を支えるなら、私も君を支えるつもりがある」
そう言うと、彼女は静かに広間を去って行った。私はペンダントを見つめ、戸惑いながらそれを手に持つ。
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一人になった私は、手袋、指輪、ブローチ、ハンカチ、ペンダントを一つずつ見つめ、深く息を吐く。私は喜びよりも困惑の方が大きかった。なんだか、心臓が締め付けられるようだ。
「どうしよう、これ全部……。アーケルにどう説明したらいいんでしょうか。彼がローゼ様と遠征中なのに、私がこんな贈り物で囲まれるなんて、彼が知ったら何て言うのか……」
私はそれらをポケットに詰め込み、自分の部屋に戻ることを決めた。彼に手紙を書こうと思ったからだ。窓から差し込む夕陽が部屋を照らす。だがアーケルにこのことを話す前に、少し考える時間が必要だった。
「アーケルが驚かないといいけど……。でも、皆さんの気持ちは嬉しいんだよね」
私は小さく呟き、宮廷の長い廊下を歩いた。ふとネックレスに触れると、その温かさに涙がにじんだ。これだけの贈り物を手に持つと、アーケルの重みを初めて感じる。
「アーケルって、宮廷で大事にされてるんですね」
だって、彼と関わりがあるから私に贈り物があったはずなのだから。アーケルが戻ったらこの困惑を笑いものにしてくれるかな、と少し期待した。




