成功例
目の前で起こった惨状に、激しく動揺する瓜生の脳は、状況の理解が追い付かず、数秒の間、唖然としたまま働かなかった。
「鐵月くん…?何してんの…?金剛くんは、私たちの仲間でしょ?」
「…。」
困惑する瓜生を無視して鐵月は、部屋を出ようと歩き始める。
「ねえ!鐵月くん!答えてよ!」
声を張り上げ、鐵月の左手を掴む。説明を求める瓜生の首に向かって右手の剣を突き付ける。
「金剛は、この施設にとって重要な存在になる。僕らの邪魔になることが予想されるから、早めに処理しただけですよ。」
軽く口角を上げながらそう言い放った鐵月に瓜生は、僅かばかりの恐怖と疑念を抱いた。
「あなた…本当に鐵月くん?」
自然と右手に力が加わる。火傷の痛みは一切気にせず、鐵月に懐疑の眼差しを向けて、密かに左手にナイフを作って握り込む。
「ええ、僕は正真正銘鐵月灰ですよ。それよりも、先へ急ぎましょう。この施設、結構奥まで時間かかるんで…」
剣を下ろし、部屋の出入り口の方を向く鐵月の言葉を遮って瓜生が口を開く。
「鐵月くんは、いつも不愛想で、ほとんど表情が変わらないんだよ?」
「…。」
瓜生の発言に鐵月の表情が曇る。
「なのに、あなたはさっきも今も笑ってた…普段の鐵月くんよりも柔らかい表情してた。」
「僕にだって不愛想な自覚はあるんで改善くらいしますよ。」
背を向けたまま答える鐵月に、瓜生は構わず続ける。
「それに、鐵月くんはいつも敬語で、私たちの事”さん”付けで呼ぶんだよ。そっちの方が楽だからって。」
鐵月の右手に力が入る。
「わざわざ楽じゃない方を取った理由は何?鐵月くんが金剛くんを殺す意味も分からない。あなたは…」
鐵月の右手から剣が離れて、瓜生に斬りかかる。それを左手のナイフで受け止め、払い除ける。
「左手離してよ。じゃないと、君のその手、斬り落とすよ?」
そう言い放つと、瓜生の右手目掛けて剣が振り下ろされたところをもう一度ナイフで防ぐ。しかし、今後は、剣が瓜生の右手を下から斬り上げようと、迫って来たのに対処しきれず、手を離してしまう。
「やっと離してくれた。ここはちょっと暗いし狭いから場所を変えようよ。」
宙に浮かんでいた剣が吸い寄せられるように鐵月の右手に収まる。そして、再度出入り口の方を向いて、左手で付いて来るよう促す。そこに敵意が感じられず、瓜生は、警戒しながらも鐵月に付いて行くことにした。
廊下は、部屋の中よりは明るいが、それでも薄暗く、時折妙に硬い感触が足に伝わり、確認すると、一か所に集中して強い衝撃を与えられたようにして破壊されたカメラだった。道すがら何度も見掛け、鐵月の目的が何か探る。
「ねえ、鐵月くんは何がしたいの?」
「それはどうゆう事?」
「金剛くんを殺して…水面ちゃんがいない事にも触れないで…なのに施設は壊そうとしてる。一体鐵月くんは何が目的なの?」
鐵月の背中を見つめながら問い質す。
「そうだなぁ、もう少ししたら部屋に着くし、そこで詳しく話すとするよ。」
鐵月は、振り返ることなく答え、稼働中のカメラを破壊しては、まるで何事も無かったかのように歩き続け、階段を下る。
階段を下った先には扉が在り、暗闇の中でその扉は、目を凝らさなければただの壁と錯覚してしまう程無機質で何の変哲もない真っ黒な扉だった。
その扉の取っ手を掴んだ鐵月が奥へと押し込むと、眩しい光が漏れ出してきた。
「…何…ここ…。」
一瞬目が眩み、立ちすくんだが、目が慣れて部屋へ入ると、そこは、今までとは打って変わってとても明るく、部屋全体に照明が行き届いており、異様に開けた空間が広がっていた。
「ここは元々、能力未発達個体のための部屋だったけど、今は危険個体の訓練用として利用されてるんだ。」
部屋の中央に立った鐵月が瓜生の方を向いて話す。
「それじゃあ、質問に答えよう。」
瓜生と距離がある状態だが、剣を構える事なく余裕を持った様子で続ける。
「まず、俺は鐵月灰で間違いはねえよ。尤も、お前が知る鐵月灰ではねえな。」
「どうゆうこと?」
瓜生はナイフを構えて、鐵月を睨みながら訊ねる。
「俺は、この体がまだ幼かった頃に生まれた人格で、この施設の事はほとんど覚えてる。」
「それで鐵月くんは、この施設について色々知ってたんだ…。」
「そうゆうことだ。」
瓜生の中で謎に思っていたことが一つ明らかになり、胸の内に晴れ間が生まれたような感覚がした。
「次に、金剛を殺した理由だがな、血に適性がある奴ってのは珍しいんだ。それも、ダイヤに変わる存在は、今まで一度も観測されていない。施設にとって、この上なく貴重な存在ってことだ。つまり、あのまま放置してたら、俺らが消されてたかもしれねえ。」
一つの疑問が解消されたが、元から抱いていた疑問の影が増し、追加で質問してしまう。
「ならこの施設の目的は何なの⁉私たちみたいな特異体質の人を作って…施設は何がしたいの⁉」
声を荒げ、涙ぐんだ瞳で歯を食いしばる。
「鐵月くんがこの施設を壊したいと思うなら、金剛くんを殺さずに一緒に壊せばよかったんじゃないの⁉」
苛立ちの混じった疑問を鐵月にぶつける。
「そうだな、ただ壊すだけならそうしても良かったかもな。」
そんな瓜生に淡々と返答をする。
「だが、俺がやろうとしているのは、お前の質問の答えでもある。」
「…は?」
「この施設はな、人類の共通の敵を作り出そうとしている。」
質問の答えに困惑した様子の瓜生を放って鐵月は続けて話す。
「この施設の最終的な目的は、人類の繁栄だ。そのためには、今日を生きることすら難しい状況にしなければならない。」
突拍子もない話に瓜生の眼からは涙が引き、口を挟まずにはいられなかった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。それどうゆう事?」
「それを今から話してやるんだ。黙って聴いとけ。」
瓜生に話を切られた事に静かに文句を垂れ、話を続ける。
「いいか?今の世界は、人が生きるのに不足が無いほど十分に物が揃っている。そのせいで、人間という種族は常に退化し続けている。」
「充実した環境を質素と言い、真の贅沢を味わっていることにも気付かず、自分を不幸だと勝手に評価して、無意味に数を減らす。友人、恋人、職場。それらを選ぶ権利がそれぞれに与えられている環境のどこが質素だ。」
モニターを見つめながら男性は口角を上げて、続ける。
「さすがぁ、やっぱ覚えててくれたぁ。グゥちゃんの言葉ぁ。」
鐵月の言葉に瓜生は、思わず賛同してしまいそうになったが、振り払うように質問をする。
「でも、それなら金剛くんを殺す必要までは無かったんじゃないの?」
「確かにあいつは戦力としては優秀だけど、あの性格で施設の計画に賛同するとは思えねえし、研究材料になって、施設が無駄に力付けても、俺がやろうとしている事の邪魔になるだけだからな。それと、水面については、悪いが俺は知らん。いなくなったところで、特に困らないし気にも留めてなかったわ。」
それを聴いた瓜生は、少々顔をしかめたが、それを全く気にしていないのか、鐵月は左手を瓜生の方へと差し向け、口を開いた。
「お前は、素質を秘めている。俺と一緒に来てくれないか?」
金剛 張斗
年齢 13(満14)歳 適性 血液 パターン 石 変換 ダイヤモンド
代償 血小板の働きが常人の約80倍で傷口が塞がりやすく、流血が少ない
頭が悪く、視野が狭いが、運動好きのバスケ部所属。
体つきは結構筋肉質で、そこそこ背が高い。
キャラクターのモデルにしたのは、中学当時一番嫌いだったクラスメイト。
背が低く、人の趣味を否定してばかりで、何かと人の真似をしては、自分が誰よりも一番面白いと勘違いしていたしょうもない奴。
主人公が手に掛ける展開は、構想段階から決まっていた。




