脅威を排斥
液体化した鉄は、分厚い板とメリケンサック、砂利程の大きさをした大量の鉄塊に変化し、鐵月の前に鉄板、背後に鉄塊、両手にメリケンサックを備える。
鉄板と鉄塊は空中に浮かばせており、力強くメリケンサックを握り締める。
「大理石は比較的柔らかい石だから斬るよりも殴った方が早い。」
そう言って鐵月は、瓜生をその場に放置して歩き出し、白朝に向けて鉄塊を飛ばす。それに負けじと白朝は、大理石の破片を飛ばして軌道をずらして応戦する。
砕かれ、砂のようになった破片でも、鐵月の視界を邪魔するのには十分だった。
「これは厄介になったな。」
しかし、白朝は自分が不利な状況であることを理解しており、ゆっくりとその場を去ろうと考えていた。
視界が塞がれても、鐵月は目を閉じ、音で居場所を割り出し、周囲の装置の事などお構いなしに鉄塊を飛ばし続ける。
「鐵月くん…私、金剛くんをどうにかするね…。」
瓜生は、装置に入った子供とそれを次々と破壊する鐵月を見て、一瞬目的を失い、考えが揺らいだが、今は自身が何を最優先に行動すべきかを思い出す。そうして瓜生は部屋の奥へと進み、装置の制御盤を見つける。
「…これ、どうやるのが正解?」
砕かれる石、割れるガラス、床に当たる鉄、それら全ての音が、瓜生のいない所で繰り広げられている戦いの惨状を物語っていた。
「ううぅ…もうわかんない!壊す!」
頭を抱えた瓜生だったが、自棄になって右手に金のハンマーを作って、制御盤に振り下ろす。すると、部屋全体の電気が消えた。それに伴って、装置の電源も落ち、瓜生は壁伝いで金剛の元へと駆け寄る。
「これは…もう、ガラス割っても問題ないのかな?」
そう口にすると、瓜生は後ろを振り向き、鐵月たちの様子を窺う。一寸先も見えない暗闇だが、戦いは続いており、鐵月が壊しているであろう装置に入っていた子供の安否は確認できないが、一か八かの賭けに出た。
「…えいっ!」
右手に握っているハンマーでガラスを叩き割ると、装置を壊した時に鳴る筈の警鐘が鳴らず、金剛を安全に装置から取り出せるよう、更にガラスを割り、入り口を広げる。
「中の金剛くん、ガラスで傷付けてないかな?」
そんな心配を口にし、十分にガラスが割れたと思うと、瓜生は中に入り、金剛を手探りで割り出す。
金剛を見つけたと思った瞬間、瓜生の手には、弾力が有りつつも、強張った感触が伝わり、暗闇の中ということもあり、鋭敏となった感覚では、今触れているそれが、生身の人体であることを理解するのにそう時間は掛からなかった。
「そういえば、装置の外から見た金剛くん、服着てなかったかも…。」
つい先程まで何とも思っていなかったはずの光景を思い出し、瓜生の顔は真っ赤に染まり、熱を持ちながら金剛を抱え上げる。
「ックゥゥ!お…重い…。でも、このままなら足怪我させちゃうし、私が頑張らないと。」
瓜生が金剛を運び出そうとしているその間、鐵月と白朝は、暗闇だというのに、まるでお互い居場所が分かっているかのように正面で対峙していた。
鐵月の眼前に浮かぶ鉄板に穴が開き、そこから右の拳が飛び出し、白朝の顔面に打撃を与えようと伸びてきたところを後ろに退けながら大理石を顔の前で作り、寸前で防御し、直後にしゃがんで回避をする。
そして、砕かれた破片は、鐵月の周囲から飛んで来るように攻撃を仕掛け、それを鉄塊で防ぎ白朝を追いかける。
時折、足元に大理石を生成されて軽く躓く事もあるが、鐵月もワイヤーを作り、白朝に隙を生じさせようとするも、躱されてしまう。
「君…しつこいな。そこまでして…僕を殺したい?」
息を切らしながら、白朝が問うと、鐵月はそれに黙って頷いた。
「そうか…。」
白朝が一言呟くと、粉々になり、部屋中に散らばった大理石が鐵月目掛けて飛んで来る。必死に抵抗するも空しく、対処しきれなかった鐵月は、そのまま大理石に埋められてしまった。
「逃げ回るの大変だったぁ…。この体にこの服は走りずらい。」
一息ついた白朝は、直ぐ近くにあった装置を弄り、その装置だけ予備電源を点ける。そして、サイズの合わない服から管が伸び、装置の土台と接続する。すると、装置に入った子供にその管が刺さり、程なくして子供は、衰弱しきった見た目で全身が壊死した。代わりに白朝は元の姿に戻り、服を正す。
「そこか。」
直後、液状の冷たい鉄が白朝の足を掴み、その鉄が今度は手へと伸び、手首を掴んで固まる。
白朝が身動き取れなくなったところに、巨大な大理石の塊から勢いよく鐵月が飛び出し、白朝を思いっきり殴りつける。その拳に付けたメリケンサックには、棘が生えており、非常に殺傷能力が高くなっていた。
金剛を装置から無事運び出せた瓜生は、部屋の中で唯一光を発している方向を見遣ると、装置に阻まれてよく見えないが、断続的に鈍い重低音が聞こえてくる。
改めて目に映る男の裸体に動揺しながらも、なるべく下を見ないよう、金剛を部屋の壁に凭れさせ、音の正体を探ろうと、聞こえてくる方へ近づく。
「…鐵月…くん…?」
瓜生が見たのは、鋭い棘を持ったメリケンサックで只管に白朝の顔面を殴り続けている鐵月の姿だった。
瓜生が声を出した瞬間、鐵月の手が止まる。その手に握ったメリケンサックには、真っ赤な液体と白い粉が付いており、白朝の顔面は原形を留めていなかった。眼は潰され、鼻は砕かれ、口は削がれたように崩れて、顎や額からは割れた骨が見えている。
その光景に瓜生は思わず吐き気を催し、鐵月に背を向けてその場に蹲り腹を抑える。だが、一滴たりとも嘔吐はせず、下を向いた所為で僅かばかりの唾液が漏れ出す程度だった。
「一先ず、これで今のところは脅威が去ったと言っていいですかね。」
握り込んだメリケンサックを液体に戻し、白朝の拘束も解いて、金剛の元へ歩み寄る。その後ろで白朝が仰向けに倒れるが、二人は振り向かなかった。
「金剛さんが起きるの待ちます?それとも、二人で抱えながら先に行きます?」
鐵月が提案した直後に金剛は目を開け、二人の顔を眺める。
「金剛くん!大丈夫⁉体に異常はない⁉」
金剛の目が覚めた途端、瓜生が肩を掴み、血相変えた様子で訊く。
「ああ、俺はなんともねえよ。っていうか、二人こそ大丈夫か⁉瓜生、その顔どうしたんだ!その左手も!」
瓜生の倍以上青ざめた表情で訊く。
「ちょっと大丈夫じゃないかも。まだヒリヒリするし。でも、心配は要らないよ。」
明るい口調で振る舞う瓜生に金剛はホッと胸を撫で下ろす。
「鐵月は、随分ボロボロだな。それに、その手の血何⁉」
今度は、安心交じりだが、慌てた様子で訊く。
「ついさっきまで交戦中だったもので、心配無用です。」
「ああ…そうか…。」
少々腑に落ちないようだが、納得したみたいだった。
「とりあえず、金剛くん。」
「ん?」
「服着てくれない?」
「え?ああ⁉」
自身が全裸であることに気付き、着る服が無いか辺りを見渡すが当然見つかる筈もなく、瓜生は、顔を赤くしたまま背を向けていた。
慌てふためき、騒ぐ金剛だが、突然静寂が訪れる。
「ん?あれ?金剛く…ん…?」
瓜生が目にしたのは、剣を右手に金剛を滅多刺しにした鐵月の姿だった。
「さて、これで本当の脅威が去ったな。」
白朝
年齢 不明 適性 唾液 パターン 石 変換 大理石
代償 風速0.2m/s以上の風で自動変換
黒夜が妹願望を持っている事に気付いており、頼り甲斐が有る人になろうと日々努力している。
両親の事を知っており、内緒で訪ねた事もあったが、その両親は、既に別の子供を作っており、二人で入る余地が無い事を悟り、自ら志願して施設に入った。
クローンたちには何の感情も持っておらず、生かすも殺すもどうでもいいと思っており、愛する家族は黒夜だけだと考えている。




