合流を果たした末
モニターを眺めている男性と鐵月は、瓜生の転倒を黙って見届け、その後の仕打ちも二人の眼鏡に、赫と光る灯りが反射していた。
「いいのぉ?彼女ぉ、死んじゃうかもよぉ?」
心配しているのか、単なる興味なのか、男性はモニターを指さしながら鐵月に訊く。
「いい。死ぬならそれまでだ。」
しかし、鐵月からの返答は非常に淡白なもので、一切モニターから視線を逸らすことも、躊躇することもなく即答した。
男性は、張り付けたような笑顔を浮かべ、横に並ぶ鐵月と共にモニターを見つめて呟く。
「薄情だなぁ、友達じゃないのぉ?」
男性の問い掛けに一切反応することなく、今度は鐵月が男性に問い掛ける。
「最初の分かれ道、あの山積みになってた死体はお前の仕業か?」
男性を睨みつけ、鐵月の右手に持った剣には、更に握力が込められた。
「ピンポーン!せいか~い。よくわかったねぇ。」
「腐った内臓が見えていた。目的は何だ。」
軽快な口調の男性と怪訝そうに男性を睨む鐵月の間で数秒の沈黙が生まれた。そして、先程まで笑顔だった男性は、次第に無表情になっていき、小さく口を開いた。
「ここらが潮時だと感じただけだよ。いずれ君らが此処にやって来ることは想像できたし、そうなったらあの人達はただの邪魔者になるだけだから。」
まるで別人のようにも感じる風格にも鐵月は微塵も動揺しなかった。
その後、鐵月は後ろを振り向き、モニターを背に部屋を出ていく。
「あ、やっぱりぃ、お友達ぃ、助ける気にぃ、なったぁ?」
また男性の顔が笑顔に戻り、鐵月の方を向いて問い掛けてくる。すると鐵月は、扉の前で立ち止まり、大きな溜め息を一つ吐くと、首を右に向けて、男性を睨んでいた。
「いいや、外に行く。」
そう言って部屋を出ていき、男性は眼鏡を上げて一言呟く。
「あれは、まだ不完全だな。」
男性は再度モニターの方を向き、また呟く。
「やっぱ思春期は揺れるよねぇ。どんな結果出るか楽しみぃ。」
男性の顔は過去最高潮に口角が上がっていた。
モニタールームを出て、入り口に戻ろうとしている鐵月。しかしその足は、入り口まで遠回りになるルートを辿っていた。その道中、まるで憂さ晴らしをするようにカメラを壊し、階段の前まで差し掛かった。
「何で俺、こんなとこに来てんだ?」
そこで、自身が入り口まで遠回りしていることに気が付いた。そうして、走ろうと踏み込んだ瞬間、足が動かず、頭には聞き覚えのある声が反響していた。
「僕は友人を見捨てたりしません!」
鐵月の頭は、割れるような、殴られているような痛みが走った。
「…グゥッ!…俺には、目的が在んだよ!」
頭の中で響き続ける声に抗う。それが己の声だという事に気が付けない程、今の鐵月は、声を振り払う事に精一杯だった。
「クソッ!消えろっ!消えろっ!消えろっ!」
必死で抵抗するも、聞こえてくる声は払いきれず、剣を握ることも儘ならない状況に陥り、頭を抱えたままその場に膝から崩れ落ちた。
「僕の体は僕の意思で動かします。あなたじゃない。」
「だが今は、俺の体だ。だから特異も代償なく使えている。」
傍から見たら、「座り込んで一人二役している男子中学生」という光景が出来上がり、そこで”二人の鐵月”は、言い合いを続ける。
「そもそも、俺が生まれたのは、テメェが逃げたからだろ。それを今更返せだ?都合良いこと言ってんじゃねぇ!」
「確かに僕は逃げました。辛くて、苦しくて、解放されたくて逃げました。」
「そうだろ!おかげで俺は、お前が受ける筈だった苦しみを全部背負った!」
「…。」
「それなのにお前は、里親に出された途端、俺を封じ込めやがった!今度は俺が受ける筈だった喜びを奪いやがった!」
「それは違います!」
「何が違う!」
「僕は!一度として喜びを感じたことはありません…。」
「あ?何言って…」
「僕は、今の親に感謝はしています。でも、家族というのは形だけ。」
「…。」
「平等に接しているつもりでも、僕と兄とで差があったんです。」
「差だと?」
「僕があなたの記憶を覗けたように、あなたにも僕の記憶が覗ける筈です。」
「…。」
目の前には、背の低い四角形の机に乗った焼き魚と白米、味噌汁。自分を含め、四人の家族が座布団に座っている。
「骨取るのめんどくせぇ。」
鐵月とそう大差ないであろう歳のいかにも我儘そうな、少々横に幅のある男が文句を垂れる。
「それでも自分でやんなさい。」
穏やかな表情をした女性が男を軽く叱る。
「灰は骨、取れるか?」
ほんの少し口角を上げた男性が箸を鐵月の皿にのった魚に向けながら訊いてくる。
「うん。大丈夫。」
しかし鐵月は、誰の顔も一度として見ようとしない。
両親のいない家、外はまだ明るく、西日が差し込む。そんな中、男に胸ぐらを掴まれ、何度も壁に後頭部を打ち付けられる。
「お前はこの家から消えろ!俺の生活から出て行け!」
何十回と頭を打ち付けられ、女性が玄関の戸を開ける。男は鐵月を離して玄関へ行く。
「おかえりなさい。」
溌剌と声を上げ、女性が手に持っていた籠を代わりに持って、台所まで運ぶ。
「おかえりなさい…。」
鐵月も声を出すが、女性とは顔を合わせず、トイレへと向かう。
「ウッ…ウウェッ…。」
便器の中には、鐵月の胃液とそれに溶かされた食べ物が入っていた。
「僕は平等がよかった…。変に贔屓なんてされず、穏やかに生きたかった。」
「これは…小二の頃の記憶か。」
「父と母に迷惑かけたくなかった。ただでさえ孤児なんだから、せめて行儀だけでも良くいなきゃ…。」
「男はこん時小四…。」
「だから僕は、あなたを両親に見せるわけにはいかないんですよ!」
「孤児を引き取り、弟が出来て贔屓した義両親。それに嫉妬してこっちを攻撃する義兄か…。」
「体は僕が動かします。」
「確かに幸せや喜びは感じねえな。…だが、体は俺んだよ!」
大量の大理石が命中し、至る所から出血しているが、石も傷口も一つ一つが小さいため、致命傷にはなっていない。
「どうゆう事?さっき金で頭を固めたから窒息したんじゃないの?」
急いで立ち上がり、防御に移った瓜生は疑問を口にする。
「実は、名無しの中にちょっと強力な奴が居て、そいつの力の応用だよ。」
瓜生の前に姿を見せた白朝は、明らかに頭身や頭髪が縮んでおり、眼鏡が無くなって、瓜生と同じ位の年齢の姿になっている。
「この体、いまいち本領発揮できないんだよなぁ。」
と言いつつも、白朝は止めどなく攻撃を仕掛けて来る。
白朝の猛攻を凌ぎつつ、黒夜にも金の密閉ヘルメットを嵌めようとするが、先程まで黒夜が居た場所に姿は見えず、瓜生は咄嗟に後ろを振り返る。するとそこには、長い白髪をなびかせ、手には黒曜石のナイフを持つ、少しだけ頭身の縮んだ黒夜が瓜生に突っ込んできていた。
瓜生は、黒夜の方を向いて盾を作ろうとするも、間に合いそうもない。死を直感した瓜生の前に大きな鉄塊が落ちて来る。黒夜はその下敷きになり、白朝の攻撃も止む。
「黒夜!…誰だ!」
白朝の怒号が木霊する。直後、鉄塊は液体となり、その中心から人影が現れる。そこに立っていたのは、鐵月だった。
黒夜
年齢 不明 適性 唾液 パターン 石 変換 黒曜石
代償 唾液腺の働きが遅く、生成に時間が掛かる
家族大好きで、白朝の事をよく妹と紹介しているが、実は自分が妹になりたかったという願望がある。
白朝の事を溺愛しており、”弟だ”と訂正される度、内心燥ぎまくっている。
両親については何も知らないが、クローンたちの事を家族と呼び、血縁関係は一切気にしない。
キャラクターのモデルは存在しておらず、白黒のキャラが欲しかっただけ。




