複合した特異
岸青の左手を壊死させた夕南先生は、名無し高橋のはずだが、螺茅の弾丸を防いだのは鈴木の苔が蔓のように伸びた物だった。
「てめえ、やっぱ鈴木の能力持ってんじゃねえか!」
「僕は鈴木じゃないと言っただけで、能力を持ってないとは言ってないだろ?」
そう言って夕南先生は螺茅に襲い掛かるが、それを岸青がすべて防ぐ。だが、防いだ後の盾は脆くなっており、少しの揺れで粉々に崩れた。
「あなた何者⁉鈴木と高橋の両方の能力持ってるとか反則でしょ!」
「戦いにおいて反則も何も無いでしょ?これは僕の実力なんだから。」
岸青に文句を言われて夕南先生は、得意げに誇りながら苔に乗って飛んで来る。蔦と手の脅威から防戦一方な状況が続き、攻撃を仕掛ける暇がない。
「クソがっ!なんなんだよこいつ…。そういや、鐵月どこ行った?」
「人のこと気にしてる余裕あるの?」
「ううっ…。このままじゃこっちの戦力削がれるだけだよ。」
螺茅は蔓を撃ち、岸青は手を防いで凌ぐので精一杯で、二人は焦りと苛立ちを感じ、攻撃に移ることが出来ずにいた。
戦況を変えようと螺茅は、鞄からもう一丁の拳銃を取り出し、弾を込める。
「岸青!分かれて対処するぞ!」
「わかった!じゃあ敷納くん右お願い!」
二手に分かれ、それぞれが引き続き蔓と手を対応する。
「分散されると面倒なんだけど、まあ仕方ないか。」
乗っていた苔の高さが減り、床に広がる。夕南先生が立っている周りの床が苔にまみれ、そこから伸びてきた蔓が螺茅を襲い、それを一つずつ確実に撃ち抜く。
「ッチ!どんだけ生えてくんだよ!…おい岸青!早いとここいつ片付けんぞ!長期戦になればこっちが不利だ!」
呼び掛ける螺茅だが、岸青にはそれに答える余裕が無かった。片腕が無くなり、激痛に耐えながら相手の攻撃を防ぐ。ただし、一回防いだら盾が使い物にならなくなるため、ひたすらに涙が減り続ける一方だった。
「少しは攻めて来なよ。このままじゃ君の涙が底を尽きるよ?」
「このままだったらね。でも、何も考えないで防いでいたわけじゃない!」
夕南先生の左手が伸びてきたその時、真下にある粉々になったサファイアが一瞬で形状を変え、無数の棘となって手首を貫き、そのまま棘を回して左手を捥いだ。
「痛いなあ…。手を千切られるってこんな感覚なのか。」
「随分冷静なんだな。片手が無くなったっていうのに…。」
自身の左手首の断面を凝視しては、蔓で傷口を縛って止血した。
「まあ、僕は片手でもこれと言って問題無いから。」
両手ではなくなったことから、接近戦に持ち込みやすくなり、距離を詰める。そして、先ほどまで盾だったサファイアはナイフに変わり、お互いが右手のみで戦いを繰り広げていた。
「ッチ!どうなってやがる。鈴木は能力使ったら体の水分消費するはずだろ。なのに何でこいつ、こんな長時間戦ってられんだ?」
鈴木の特異を使用してからおよそ五分以上は経過しているはずだが、夕南先生は至って普通の様子。水分不足は見受けられず、岸青との戦闘で動き回っているのに全く身体に影響が無いようだった。
「こいつ、別に仲間が隠れてんのか?」
疑念を抱いて辺りを見渡し探るが、周辺には姿が見られず、床の裏に隠れている事も考えるが、床は非常に丈夫な上、鈴木の苔は足からしか生やせられないため、現実的に無理だと悟る。
「残念ながら僕は一人だよ。君らと同じような物さ、たまたま代償が表に出てこないのさ。」
「俺と戦ってて話す余裕あんのかよ。」
岸青と対峙しておきながら平然と螺茅に返答してみせる姿に文句が垂れる。
振り下ろされた青いナイフを受け止め、崩れたナイフを手放して即座に新たなナイフを作って応戦してみせる。ナイフを止めた夕南先生の掌に目立った外傷は無く、ほどんどダメージは入っていないため、岸青の鞄に備えてある涙の底が尽きかけている状態となり、本人もそれを自覚していた。
「撃っても撃っても無くならねえ。このままだと…ッグ!…ックソ!」
際限なく攻撃を仕掛けてくる蔓に攻略の糸口が掴めず、弾切れの銃をリロードしている僅かな隙を突かれ、左側の脇腹を掠めた。すぐさま攻撃を当てた蔓を撃ち抜くが、今度は左の脛に蔓が当たる。
「グアアッ!…ックソッタレが!」
既に怪我を負っていたこともあって激痛が走る。激昂する螺茅だが、反撃しようにも攻撃に移れない状況がさらに腹立たせる。
岸青の涙がとうとう無くなり、最後のナイフも崩れた直後、距離を取り、左手を捥いだ時と同じ手法で、今度は夕南先生の右手首を貫く。しかし、それと同時に岸青の腹部には、何重にも絡まった太い蔓が通されていた。
「ダメか…。」
「悪いね。同じ手には二度目が無いんだよ。」
右手首に刺さった棘は回ることなく軽く振り払っただけで崩れ落ち、右手首に空いた穴は蔓を巻いて包帯代わりにした。
「さて、残すは一人か…。」
伸びをしながら呟く。しかし、すべての苔が一瞬にして溶けるかのように二人の目の前から消え、螺茅と夕南先生は向かい合う。両手首の蔓も無くなり、背後では岸青が地面に横たわる。夕南先生の手首と共に岸青の腹部からは、止めどなく血が流れ続ける。
「ごめん!0号の破壊に手こずった!二人とも、怪我してない⁉」
今まで姿が見えなかった鐵月は、鈴木0号を破壊しており、破壊が完了した結果、全ての苔が無くなり、二人が相対することを可能とした。
「遅えぞ!」
「ッ!ごめん。」
螺茅の怒号が飛ぶ。鐵月は思わず謝罪を口にする。そして螺茅が夕南先生の方へ向きなおして叫ぶ。
「…岸青が死んだ!二人でこいつぶっ殺す!いいなっ!」
「…ぅん。」
静かに頷きながら相槌を打って、右手に剣を作って握り込む。
「二対一かぁ…。分が悪いな。」
「怪我してようと容赦しねえからな。」
螺茅が銃を構えるよりも早く夕南先生は、壁の小部屋に使われているガラスでできた盾を持って、防御に入った。そのため、螺茅が銃を撃った時には既に盾を構えており、銃弾が弾かれてしまう。
「ッチ!」
「僕が行く。」
舌打ちをする螺茅を横目に、鐵月が夕南先生へと突っ込んで行き、剣を振り下ろす。当然防がれるが、何度も振り下ろし、振る度に剣身が長くなり、徐々に一撃が重くなっていく。
「ックウウ…手が痺れてきた…。」
何度も攻撃すると、盾は割れ、その瞬間に剣身を元に戻して切り掛かる。しかし、刃の横から触れられ、即座に錆び、叩き付ける事しかできず、剣は折れてしまう。
「切れはしなかったけど、痛いものだね。」
「鐵月!どけ!」
鐵月の攻撃はほとんど意味を成さず、夕南先生は飄々としている。だが、反対に螺茅は怒りを露わにし、激情に身を任せるように荒れており、鐵月を移動させ、夕南先生の頭を狙って発砲する。
岸青 堅
年齢 16歳 適性 涙 パターン 石 変換 サファイア
代償 一度に作成・操作できる最大量は1㎏
人との距離が基本近く、友達を作るまでのスピードが早い。
螺茅のことは一番仲の良い友達と思っているが、螺茅からは何とも思われていない。
割と年代関係なく積極的に話し掛けに行くため、先輩後輩からの受けは悪くはない。
キャラクターのモデルにしたのは、作者と小中学校が同じだった超気分屋のクラスメイト。
茶髪で背が高く、いつも誰かと行動しては、標的となる人物を一人決めて馬鹿にしていた。
本人と岸青の性格はほぼ真逆で、昔から場の空気が悪くなると、直前に話していた人に責任転嫁することが多く、かなりクラスメイトからは煙たがられていた。
嫌いだったが、運動はできるタイプだったため、一応ここまで残しておいた。




