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さらに奥へ

 鐵月を先頭にして歩き進む様子に岸青が疑問を口にする。

「ねえ灰くん。なんで何部屋か通り過ぎてるの?」

「ああ、そっちはすでに佐藤にされた人達の部屋だから今は用無しなんだよ。もう少ししたら同じような感じで、鈴木にされた人達の部屋があるけど、そっちも無視するよ。」

 そう軽く口にする鐵月に少し怯えつつ付いてくる岸青は、青く透明な盾を構えて周囲を警戒する。対して螺茅は、鐵月の発言で、銃を片手に今すぐにでも扉を蹴り飛ばしたい思いが湧いたが、それが出来ず、我慢を強いられる状況に苛立ち、じれったそうに体を疼かせ、舌打ちをする。

 程なくしてまた厳重に施錠された扉が現れ、三人の行方を阻む。

「どうすんだ?もう爆弾ねえぞ。」

「俺らがぶつかればなんとかならんかな?」

「結構頑丈そうだし難しいんじゃないかな?そもそも爆弾使って人一人分の穴しか開けられなかったし、仮に僕らが一斉に攻撃したとして、良くて凹む程度だと思うなぁ。」

 突破口が見出せず三人は立ち往生を食らう。そこで、ついにストレスが限界に達したのか、螺茅が扉に近づき、左足が負傷している事も気にせず、左足の先で扉を何度も思いっきり蹴りつける。

「クソッ!クソッ!クソッ!何でッ!こうもッ!イライラするッ!展開がッ!続くかなぁッ⁉」

 相当気が立っているのが見て取れる。その様子に鐵月と岸青は近寄れず、自ずと距離を取ってしまう。

「敷納くん、かなり怒ってるね。」

「そりゃあ、この施設に相当な恨みがあるみたいだし、ここに来るまでがあまりに順調すぎるくらいあっさり進めてるから、手ごたえなくて物足りないんじゃないかな?」

「なるほど。」

 二人が会話している最中も構わず扉を蹴り続ける螺茅だが、その二人は、響いてくる音に紛れて螺茅に聞こえないであろう声量で会話をする。しかし、螺茅本人には聞こえていたようで、扉を蹴る音とは別に怒号が飛んで来る。

「あそこでッ!佐藤ッ!どもをッ!根絶やしにッ!出来てたらッ!どんだけッ!ストレスッ!解消にッ!なってたッ!だろうなッ⁉」

 会話が聞かれていたことに焦り、二人の額に汗が浮かぶ。

「やばっ!聞こえてた⁉」

「こりゃ長引くかもな。」

「それにしても、螺茅は、ここまで響いてくる位の音をあんな間近で聞いてて、耳痛くならないのかな?」

「たしかに。」

 焦りを感じた鐵月だったが、ふと疑問に思ったことが口から零れる。すると、螺茅が扉を蹴るのを止め、鐵月たちに近寄る。

「俺のことをいちいち話すな。それと、蹴ってる時は耳の痛みなんか気にならねえんだよ!わかったか⁉」

『はい。』

 怒鳴りはしていないが、螺茅の声は確かに憤りを帯びていた。そんな螺茅に向けた二人の返事はとても落ち着いた口調だった。

 その後螺茅は、振り返って歩いて行き、また扉を蹴り始めて、再度二人の元に音が響く。しかし、今度は鐵月が歩いて行き、扉の前に立つ。すると、空中に幾つも鉄塊を作り、休みなく次々と扉に打ち付ける。

「何してやがる?」

 そんな様子を見た螺茅は、すかさず足を止め、鐵月に尋ねる。

「こうすればワンチャン穴ぐらい開かないかなと思って。」

「…だったらただの鉄塊じゃなくて先を尖らせるなりして工夫しろ。」

 アドバイスをもらい、早速実践する鐵月を横目に、螺茅も同じように先の尖った白金塊を大量に作って扉に打ち付け始めた。

「…俺もやるか。」

 一連の流れを後ろから見ていた岸青も、盾を大量の小さなサファイアの粒にして同じ手法を取る。

 三人がそれぞれ攻撃していると、数分掛けてようやく鐵月の攻撃していた所の一部に小さな穴が開いた。

「…開いた…。やっとだ。」

「よし、こじ開けるぞ。」

 鐵月が鉄の杭と金槌を作り、杭の先端を空いた穴に当ててその杭目掛けて金槌を振る。何度も打ち付け、指が通る位の穴に広がった。

 そこからは各々がバールを作って何とか穴を広げようと画策する。皆が必死になってようやく人が通れるぐらいの大きさとなり、何とか中へと侵入できた。

「やっと入れた…。」

「無駄に疲れたな…。」

「螺茅は完全に別の要因でだろうけどね…。」

 全員が疲労困憊の中、一人の女性が鐵月たちに向かって叫んできた。

「あんたたち!そこの制服着た三人!」

 声のする方へと近づき、声の元へと辿り着く。

「既に鈴木として目覚めた野郎か。」

「ねえ、あんたたちさ、この檻壊せる?」

 それを聴いた螺茅が銃口を女性に向けて引き金を引く。しかし、弾丸はガラスにヒビを入れただけで、貫通はしなかった。

「チッ!」

「ちょっと⁉今完全に僕のこと撃ち殺す気だったでしょ!何考えてるの⁉ただこの檻壊せるか訊いただけだよ?」

 女性の意見には聞く耳を持たず再度銃の引き金を引く。

「待って待って待って!待ってって!」

「どんだけ(かて)えんだこのガラス。」

「ねえ待ってって言ってるの聞こえないの⁉」

「うるせえな。どうせこの檻ぶっ壊しても、あんたら名無し(ネームド)は俺ら殺すよう言われてんだろ?だったらここで始末するに決まってんだろ。」

 そう言ってまた銃を構えて引き金に指を掛けたところで女性が止めようと叫ぶ。

「僕は鈴木じゃなくて翠!夕南翠!君らを襲うつもりなんてないよ。」

 その名前を聴いて鐵月は驚愕する。何故此処にいるのか不思議でならなかった。

「夕南先生、何で居るんですか?」

「灰くんの知り合い?」

「うん、僕の通ってる中学の養護教諭だよ。」

「え⁉鐵月さん⁉あなたこそ何で此処に⁉」

 夕南先生が鐵月の存在に気付き、慌ててイメージ回復に努めだした。

「それはそうと、私は突然ここに連れてこられて状況が飲み込めないんだ。」

「先生、もう遅いです。」

「まさか此処に生徒がいるとは思わないじゃ~ん。」

「あの距離で僕が誰かわかりませんでした?」

「ああ、わからない。」

「てか、先生の素ってあんなんなんすね(笑)」

 鼻で笑う鐵月、羞恥と憤怒で顔を真っ赤にする夕南先生の間を裂くようにして螺茅が銃を夕南先生に構えて、発砲する。しかし、未だにガラスが割れない。

「君は何でそんなに僕を殺したがる⁉おっかないよ。」

「俺はこの施設を潰すために来たんだ。佐藤と鈴木と高橋はもれなく皆殺しだ。」

「だったら僕は夕南。鈴木じゃない。」

「いや、その檻にいる時点でてめえは鈴木だ。この施設はそうゆうとこなんだよ。」

 そしてまた発砲。部屋中に銃声が響き、ガラスのヒビがだんだんと大きくなる。

「あーッ!割れる!割れちゃうから!今すぐやめてーッ!」

 そしてついにガラスが割れ、夕南先生の頭を白金の弾丸が貫く。

「やっと割れたか、ったく手間かけさせやがって。…クソッ!」

 螺茅の持つ拳銃が弾切れとなり、リロードをする。その時。

「螺茅!危ない!」

「ッ!!」

 咄嗟に岸青が盾で守ってくれた甲斐あって、螺茅に傷は一切付かなかった。しかし、岸青自身は防御が間に合わず、左手が指先から肘に掛けて腐り落ちる。

「岸青ッ!」

 リロードが完了し、岸青の陰から飛び出して発砲する。しかし、弾丸は弾かれ、見当違いな方向へと飛んで行く。

「あぶないなぁ。まずは僕と話し合おうよ。」

 そう言って目の前に立ちはだかったのは、頭を打ち抜いたはずの夕南先生だった。

 佐藤と鈴木の収容部屋

それぞれの収容部屋まではおよそ30m程あるが、食堂からはどちらもエレベーターが通っている。そのため、部屋から食堂まではエレベーターで行き来できるが、訓練部屋から食堂までは下降のみで一方通行。

大量にベッドが置かれているだけで、他に何もない。相部屋同士で会話可能だが、基本的に皆疲れ切っているため、早く休みたい一心で話す余裕が残っていない。

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